杉本 善昭
(株)杉本設備代表取締役

杉本 善昭さんは、(株)杉本設備入社後、2016年に代表取締役に就任。2億円を超える借金を完済し、2024年に(株)すぎもとコンサルを設立し現在、2社のオーナー・講演会活動をされています。今回は、これまでの経緯と今後の展望についてお話を伺いました。

私は現在先代の事業を引き継ぎ、(株)杉本設備の代表を務めております。水道・空調といった生活インフラを支える設備工事を中心に、地域の皆さまの安心で快適な暮らしを守る仕事をしています。経営のバトンを受け取った頃、正直に言えば「怖い」の塊でした。会社を継ぐことは宿命のように感じ、逃げるという選択肢など自分の中には存在しませんでした。創業者の父の背中を追い、ただ目の前の借金を返すために必死に働く日々。社員の顔を見る余裕もなく、寝る間も惜しんで働くことでしか「責任」を果たせないと信じていたのです。
そんなとき、ある大先輩との出会いがありました。今では85歳を超える方で、かつて上場企業の役員を務め、引退後は「世の中への恩返し」として多くの若い経営者を支援されていました。その方に幾度となく助けられ、アドバイスをいただく中で、「いつか自分もこのように誰かの支えになりたい」と強く思うようになったのです。
そしてある日、別のメンターから受けた言葉が私の人生を変えました。
――「嫌なら止まれ、怖いのは進め」。
この言葉を聞いた瞬間、雷に打たれたような感覚になりました。やりたいけれど怖い、挑戦したいけれど失敗が怖い。そんな迷いの中にいた自分にとって、この一言はまさに心の灯でした。怖いという感情は“進みたい”という気持ちの裏返しであり、その恐怖を越えた先にしか新しい景色はない。そう信じて、一歩を踏み出す決意をしました。二代目としての責任、社会への恩返し、そして自分自身の生きがい。それらすべてを胸に、恐怖と共に歩む覚悟を決めた瞬間でした。

私が経営者として長年働いてきて痛感したのは、「社員の幸せなくして企業の成長はない」ということです。どんなに優れたビジネスモデルを持っていても、そこで働く人が誇りや喜びを感じていなければ、会社は本当の意味で発展しません。
私が特に意識しているのは、“成長できる幸せ”です。単に給料が高いとか、楽な仕事であるということではなく、「この会社にいると自分が成長できる」と感じてもらえること。それが本人のモチベーションを高め、結果として会社や社会への貢献に繋がると信じています。
以前の私は、「こんなに頑張っているのに、なぜ社員はついてこないんだ」と苛立ちを抱えていました。しかし、会社は一人では動かない。社員一人ひとりが主体的に動き、力を発揮してこそ会社が進む。そう気づいたとき、私は“叱る経営”から“押し上げる経営”へと考え方を変えました。
「お客様を取るか、社員を取るか?」という究極の問いに対して、私は迷わず「社員を取る」と答えます。社員が本気でお客様のためを思って行動しているなら、どんなクレームであっても私は彼らを守る。だからこそ、社員には「成長のために全力で働け」と伝え続けてきました。
その結果、会社の空気は明らかに変わりました。社員が自分の仕事を誇りに思い、笑顔で働く姿を見るたびに、あの借金に追われた時代を思い出します。辛い経験もすべて、今に繋がる糧だったのだと実感しています。経営の根本は、結局「人」なのだと。社員の幸せを本気で考えられる経営者こそが、これからの時代を生き抜く鍵を握るのだと思います。

創業者と後継者は、持つ役割が違います。創業者は夢を語り、ビジョンを描く人。後継者はその夢を現実へとつなぐ人です。けれどどちらにも共通して必要なのは、「人を幸せにしたい」という熱意です。
私は今、中小企業の社長こそが日本を元気にする存在だと信じています。働く人たちが希望を持ち、未来を語れる社会をつくるためには、まず経営者自身が夢を語らなければなりません。「この人と一緒に働きたい」「この会社で成長したい」と思わせるリーダーシップ。そこにこそ企業の力が宿るのです。
東国原知事のような著名な方々と交流させていただくこともありますが、それを誇示するためではありません。社員に「うちの社長、すげえな」と少しでも誇らしく思ってもらいたいのです。その誇りが、働く意欲を生み、会社の未来を動かしていく。
これから私は、「怖いけれど進みたい」と思う後継者や若い経営者たちのサポートをしていきたいと考えています。彼らが希望を持ち、社員が生き生きと働ける環境を整えられるように。社会全体が少しずつ明るくなるように。
今、日本の空気はどこか閉塞感に包まれています。未来に対して不安を抱える若者たちも少なくありません。でも、未来は誰かが創るものではなく、自分たちが“描いて動かす”ものです。中小企業の社長が変われば、社員が変わり、社会が変わる。私はそれを本気で信じています。
誰かを照らす強い光があれば、影に隠れる人もいます。でも私は、その影の中にいる人たちに声をかけたい。「大丈夫、君にもできる」と。社会の縁の下で支える“サーバント”として、誰かの背中をそっと押せる存在でありたい。
“怖いのは進め”という言葉を胸に、これからも挑戦を続けていきます。