グローバル・コマース・イノベーション合同会社
「平山真也」× ワクセル
『成功に奇策はいらない』の著者であり、グローバル・コマース・イノベーション合同会社の代表を務める平山真也さんにインタビューをさせていただきました。
平山真也さんは、アメリカ有数のコンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニー社、そしてリクルートを経てアパレル業界へと移られ、2011年にアパレルブランド「Dickies(ディッキーズ)」の日本法人を立ち上げました。そして、1年目より黒字化、6年間で売上高を約10倍にしたほど、経営戦略のプロとも言えるお方です。
インタビューの中で印象的だったことは、「当たり前」を徹底的にやり抜く経営姿勢と、「やるっきゃない!」というマインドでした。自分自身の目標達成に邁進する私たちにとって、平山真也さんのプロ姿勢は学ぶべきものが多いと思います。
平山真也/グローバル・コマース・イノベーション合同会社
これまで色々なことを経験され、乗り越えられてきたと思います。その原動力をお聞かせください。
平山:「とにかく成功したい!」と思って乗り越えてきました。途中からは「やらなきゃいけない」という意識にもなっていました。
例えば、日本法人の代表を務めながら、業績悪化していた中国法人の社長を兼任で引き受けた時は、協力会社の社員などにかなり入ってもらいました。しかし、中国がダメになったら日本もダメになるなと思い、外部の方を巻き込んだ以上は「やるっきゃない!」です。
だから本当に「やらなきゃいけない」という意識ですね。しかし、やり続けてみて「逃げても何も生まれない」ということが、実感できたのが何より一番の収穫ですね。
コンサル経験を経て、その後ご自身で起業されたそうですが、コンサル時代と起業されてからの違いや、社長になって一番大変だったことをお聞かせください。
平山:何が大変だったのかな。あっという間に過ぎていったんですよね。2014年の6月から2015年の1月までは、マジで大変でしたね。
飛行機の中で「死にたくないけど、落ちるんだったら落ちてくれ。落ちたら楽になるな」と本当に何回も思いましたね。それくらい追い込まれていましたし、味方が誰もいないような感じもしていました。その時期は本当に大変でしたね。
で、何が大変だったかと言うと、とにかく色々な事が一気に起きている中でどうにかしなきゃいけなかった。(ディッキーズ改革時の守旧派の)クーデターが起きた後に、ホテルのラウンジのような場所で近しい人3人で話していて、「とにかく(この状況を)忘れたい!」という気持ちになり、気を紛らすために野球選手のドラフトをやろうみたいな流れになりました。やってみても結果的に忘れられなかったんですけれどね。
いつもそうなんですけど、最後は開き直る!「やるしかないでしょ!」って思って進めることがポイントです。起業してからはずっと幸せですね。色々起きますけど、自分でどうにかできますから。
ディッキーズにいた時に何を考えていたかというと、当時は5つある主要部門の中で2番目に小さい部門だったんです。会社自体は急激に成長していたため、5年以内に事業売却をすると思っていたんですよ。私がいた頃は、数年後で創業100周年を迎えるため、その年に売却するのではないかと推測していたところ、結果的に95周年の年に売却されました。自分の計画では、あと5年は頑張って当時いた部門を最大部門に押し上げてから、商社や同士たちを巻き込み、M&Aをしようと青写真を描いていたんです。
買収されると発表があって、少し早かったなと思いましたね。売却先の会社は知っていて、実際に接してみると、心が分かり合えないなと感じました。
インタビュアー:そう思った理由は何かありますか?
平山:外資の大企業は、仕組みを作ってその通りにやるスタイルが多いです。売却先の会社もすべてシステマティックにやろうとしていましたが、そのシステム自体が古く感じてしまったんです。また、アートとサイエンスに対するリスペクトが全然ないように感じました。
平山さんは、日本企業の課題のひとつとして「これからは会社じゃなくて生態系に変わっていく」と予測されています。平山さんが考えるビジネスにおける生態系の定義はどういったものですか?
平山:以前いたディッキーズは、社員もいますし協力会社にはたくさんの人材がいます。みんながチーム・ファミリーとなって戦っていく。
僕のGCI(グローバル・コマース・イノベーション社)も、独立した企業をいくつかまとめあげ、多種多様な人材がいる中で戦っています。社員もいるし、外部の方もいる。様々な人材がひとつの生態系として形づくっています。
事業が成り立つために何が必要かをちゃんと考えて、それに合ったベストパートナーを決める。それが社員であれば社員で良いと思うし、違ったら別の会社にアウトソースするのもいいと思います。色々なことを柔軟に考える必要性があるのかなと思います。
どんどん変化する中で、様々なことを抱え込んでいると対応できなくなります。つまり、柔軟な変化に対応していくことが重要です。もちろん人を大切にしながら、柔軟にスピーディに対応していくことが、時には必要になるかなと思います。
自前で全部揃えて、会社の中で全て機能させていくというのは、一部の大企業じゃないと難しくなってきています。
インタビュアー:適切なチームを組んでいくことでしょうか?
平山:そうですね。
例えばですが、出産のタイミングで会社を辞められる方がいます。なかなか続けるのが難しくなるのも理解できます。ただ、企業ができることとしては、業務委託にして「在宅ワークで働いていただいて構いません」と柔軟に対応できるかですよね。
今後、この様な働き方も必要になってくると思います。中国なんかでも「別に仕事できれば良くない?」という意識が強いです。多様性の中から、似たような感覚や価値観が合っていれば、どんな人でも仕事ができると思っています。
今後、僕の会社でも「自分でもこういった風にやりたい」、「事業をやりたい」という社員が出てくるでしょうから、「アライアンスの関係にしますか?」という選択肢を用意したいですね。両方ハッピーだったら結果的に良いという感じです。
インタビュアー:会社の枠にとらわれず、結果を出すために必要なものを選択していくということでしょうか?
平山:そうですね。会社組織って古いと思っています。日本人はみんなコミュニティという村の中で生きているから、どんどん辛くなっていくんじゃないかと思います。嫌な仕事であれば、我慢して続けて病んでしまう前に別の仕事を探したらいい。そこまで会社の枠にとらわれる必要はないと思っています。
チームとして機能し、成果が作りやすい価値観や世界観はなんだとお考えですか?
平山:「プロとして振る舞ってやっていく」「色々な方をリスペクトして仕事に取り組んでいく」
誰がどこの組織に所属しているというのは関係なく、結果を出すために必要な人と手を組む。そして、楽しく仕事をするにはどうやったらいいかを考える。
さらに、物事を多方面からみる事が重要だと思っています。アートもサイエンスも両方重要で、それらを織り交ぜながら、物事を考えていく。お客さんに満足してもらえなかったら、売上があがりません。売上にこだわり、価値観が一緒なら問題ないかと思っています。
インタビュアー:チームをつくっていく上で一番大事にされていることはなんですか?
平山:頭が柔らかいこと、精神年齢が若いことですね。実年齢は全然関係ないんです。
弊社に、僕よりも年齢が一回り上の者がいるのですが、彼はいまオフィス系ソフトウェアの講座を受けています。ディッキーズアジアの本部長をやっていたので、その時はオフィス系のソフトは使っていなかったのですが、いまの僕らの仕事には使わざるを得ないんです。あまり得意ではなかったようですが、やっているうちに楽しくなってきたそうです。
誰しもが、新しいことを学ぶことに対して抵抗感があります。前提はどうであれ「まずやってみようか」という気持ちがとても重要だと思いますね。世の中は絶えず変化しているため、自分も変化してどう対応するかです。やってみることが結果的に変化することに繋がります。
それから、僕がよく後輩に言っているのは「今までの実績や結果に自信を持つのではなく、これからの自分の可能性に対して自信を持ちなさい」ということです。
過去の事例や経験から考えることって多いんですが、実際は過去ですし、僕自身もディッキーズでの栄光にこだわっていません。これから自分が新しいものをつくっていく方が、よっぽど重要です。過去がどれだけすごくても、未来もそうなるとは限りません。未来志向であることが大切ですね。
あと、過去の事例から未来を予測する方がよっぽど重要だと思うんですよね。会議などでの振り返りで「昨年、どうでしたか?」は大企業病だと思っています。僕の会社では、毎週予測型のマネジメントをやっており、各事業単位でPLやBS、CFを計算し、毎週一年間分の予測をしています。
予測すると、なぜこういった数字になったのか?どうしてこんな風になるのか?徹底的にポイントをついて、毎週ひたすらPDCAを回していく。これをやった結果、社員は数字にめっちゃ強くなりました。余裕ができた分、投資など今後の行動がやりやすくなりますね。
平山さんのように、スピード感を持って仕事をするのが苦手な方が多いと思います。何かコツはありますか?
平山:僕も最初は面倒なことから手をつけるってことはできなかったんです。むしろ後回しにしていたと思いますね。ひとつ大きいのは、中学の夏の時に軍隊学校に入ったんです。入る前は部屋は汚いし整理整頓が苦手でしたが、軍隊学校で規律を学び、改善したと思っています。
私は好き嫌いが強く、好きなものはきっちりやるし、嫌なものはやらないっていう人なのです。ただ、突破しないと自分が思い描いている理想の場所にはたどり着かないため、頑張ってやっていました。
平山さんは目標設定などすべて考えられているように感じます。そのような”考える癖”は、アメリカでの生活で身についたのでしょうか?
平山:日本と異なり、アメリカではディベートを教育に取り入れるケースが多いからかと思いますね。アメリカ人って面白くて、僕がアメリカに渡った当初、英語が喋れない時はとても優しいんですよ。ある程度会話ができるようになり、コンペティターになり得ると思われたら競争が始まります。その競争に勝つとアメリカ人になれる。
そういった背景があるから、どうやったらディベートで勝てるかをずっと考えます。考えて考えて、自分で意思決定する必要があります。常にレールが敷かれているわけではありませんからね。私にとってはこの経験が良かったのかもしれません。
あとは、親から「〇〇になりなさい」とは一回も言われたことがありません。両親ともに歯科医師ですが、仕事を継いで欲しいというのもなかったですし、それも良かったかもしれませんね。
(御社の)皆様が平山さんについてきているのはどういった理由だと思いますか?
平山:どうなんでしょうかね。未来をつくっていて、自分たちにとってプラスになると思っているからではないでしょうか。
自分で起業して人を雇うということに関しては、とても慎重になりましたね。一人でも雇った以上は、その人の未来を背負う覚悟が必要なため、そう考えると責任が大きいです。起業してから人を雇い始めるまで7〜8ヶ月間ありましたが、最初は一人だけで気が楽だなって思っていました。
オフィスを構えて人を雇って、パートナー企業を含めて今では50人くらいになりました。一人の時と比べて、責任は大きいですね。でも、だからこそ頑張らなきゃって思います。
従業員の給料をあげたり、キャリアプランをつくる必要があります。そのためにも企業はもっと成長する必要がある。考えるたびに責任は大きく感じますが、社長業はその覚悟がなかったらやるべきじゃないとすら思っています。
僕は、自分で決断して、開き直りながらやるという仕事の仕方は楽しいですね。
平山さんの今後のビジョンをお聞かせください。
平山:今は、複数の事業展開をしていく構想があります。今取り組んでいる軍師・傭兵事業も当然やっていきますし、美容や健康の分野でも事業を考えています。「コト消費」の事業をもっとやりたいなって思いますね。もう一つは、ファンドをやり、買収して自分で経営するのがいいかなと思っています。
とにかく40代は楽しくやりながら、お金に関して一生困らない状態をつくる。そのうえで50代からは資金を気にせずに社会貢献をしていきたいと思っています。現時点ではどの分野での社会貢献かは想像ついていませんけど。
嶋村吉洋:どういったテーマのファンドをお考えですか?
平山:あくまでアパレルの分野で小さな企業を買収し、日本でもまだまだ成長できるよというのを証していきたい。大手がやっていることの小さい規模をイメージしています。
アジア進出もやっていきたいですね。今の成長戦略、GCIと呼んでいますが、グローバル(G)、クリエーションオブライフスタイル(C)、インベストメント(I)をやっていきます。あとはいつになるかわかりませんが、どこかのタイミングでシンガポールにオフィスを作ります。今後、成長していくのは東南アジアかアフリカだと思っています。日本から近くて、ある程度設備が整っているのを考えるとシンガポールになります。
また、昔から繋がりのあるビジネスパートナーがファンドをやっており、今はシンガポールにいるので入りやすいというのも起因していますね。
インタビュアー:アパレルへのこだわりは、今までのご経験があるからでしょうか?
平山氏:純粋に服が好きですし、今はアパレルだけでなく、ライフスタイル全般を考えています。(ファッション分野は)圧倒的に強いわけですから、アパレルジャンルでやるというのもひとつだと思っています。
インタビュアー:社会貢献などお考え中とのことですが、いまはアパレル分野における環境問題も話題になっていますよね。
平山:社会貢献ってひとくくりに言っても、僕の場合は人の育成を考えていますね。もちろん、環境問題はすごい重要だと思います。個人的に効果的だと考えるのは、環境に負担がかかるファストファッションの在り方を考えるべきだと思います。ユニクロの柳井さんは凄い方だと思います。ユニクロの服は品質もよく、長く使えるじゃないですか。長く使うことが究極のエコだと思っています。
だから本質的な価値を追求するラグジュアリーは伸びると思っています。気分あがるじゃないですか、いいものを着ていると。そっちの方がよっぽど良いと思いますけれどね。
嶋村吉洋:2冊目は書かれないんですか?
平山:書きたいと思っていますが、今後の売れ行き次第ですね。
嶋村吉洋:1冊目のタイトル(「成功に奇策はいらない」)も凄いですよね。相当な量の仕事をこなしている人でないと、このタイトルでは出せないと思いました。この本を読んで刺激を受けた人は、現場のことばかり考えているのではないかと思います。書籍のリアルな反響はいかがですか?
平山:リアルな反響はすごくいいですね。「この本で初めて知った」「納得して読みやすい」などの声をいただいています。
嶋村吉洋:僕も平山さんの本を読んでとても刺激を受けました。現場のことを今まで以上にすごく考えています。本質的な事が書かれている本を読んで、燃えるような仲間と仕事をしたいですよね。
平山:本当にそうですね。何も変えるつもりがないんだったら、お金もらったとしても楽しくないですね。ちゃんと変えてくれるお客さんと仕事がしたいなと思います。
どうしても僕は性格上、変えたくてしょうがないから、本当のことを言っちゃいます。今までもそうなんですけれど、だいたい見通しの通りにはなりますね。最近、この辺の見通し能力は、特殊能力になってきたと思います。予測したことが、ズバズバズバと当たりますね。
これからを担う若手に向けてひとことお願いします。
平山:とにかく、「諦めないこと」ですね。
夢や目標を持っているのであればなおのことで、「負けを認めなければ負けることはない」とリクルート時代の上司である波戸内さん(現株式会社リクルートエグゼクティブエージェント社長)からよく教えていただきました。精神論っぽく聞こえますが、諦めずに続けていると、違う形で勝つこともたくさんあります。誰でも事業をやっていれば、良いときが続くわけでもないですし、大変なこともいっぱいあります。でも、続けていれば良いことは絶対に起こると信じています。
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成功に奇策はいらない