“1秒未満”の真実を捉えるフリーカメラマンの挑戦「一番近い第三者になる」

齋藤 遥

齋藤 遥

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東日本大震災をきっかけに写真の持つ力を知り、現在はフリーランスのカメラマンとして活動する齋藤遥(さいとうはるき)さん。大学時代からクラブ活動や地域を支える写真を撮り続け、ふるさと納税で地域を盛り上げるプロジェクトにも挑戦しています。写真を撮る一瞬のために奮闘する齋藤さんに、今後の展望について伺いました。

大学の部活やサークルの魅力を写真で伝える

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僕が写真を始めたきっかけは、東日本大震災が大きな転機でした。国際協力活動でお世話になったジャーナリストたちが岩手県の陸前高田市に入っていて、その姿を見て、僕も彼らの背中を追いかけていました。

震災から1年半後、陸前高田市で見た光景を写真で伝えるために、大学で写真展を開こうと決意し、カメラを購入したのが始まりです。

当時、僕は大阪教育大学に通っていて、大学の仲間と一緒に情報発信のためのサークルを立ち上げました。東北に足を運び、自らインタビューして写真を撮り、それを大阪に持ち帰って写真展を続けました。

同時に、情報を伝える相手を増やすために、大学内の部活やサークルの撮影も行うようになりました。大阪教育大学の学生はみんな真面目で、一生懸命に頑張る人が多かったんです。

たとえばダンス部なら部員全員が演者として頑張るため、その結果宣伝する人がいない状況でした。そんな素晴らしい活動や高いクオリティの作品が、世に知られないのはもったいないと感じ、写真を通じてそれらを伝える活動を始めることにしたのです。

僕が担当していたモダンダンス部を中心に、合計で8つの団体の撮影を行い、団体のFacebookで活動を報告し、記事を書きながら練習から本番まで追いかける活動を続けました。そしてその輪を広げることで、東北の状況をより多くの人に知ってもらうことを目指しました。

誰かの一番近い第三者になる

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最近の世の中は動画がメインになってきていますが、僕はずっと写真にこだわって活動しています。ジャーナリストの師匠から教わった言葉を借りるなら、写真というのは「1秒にも満たない瞬間を切り取るもの」です。

1/100秒の一瞬を選び、それを光の中に収めて、短い時間を自分で選んでいるわけです。その選んだ瞬間の写真を見るだけで、その周りの出来事がすべて蘇る、そんな力が写真にはあると思っています。

たとえば、結婚式の写真など、その一枚を見ただけでその日のことがすべて、会話まで思い出されるような、そんな感動を呼び起こす写真がたくさんあります。僕は動画以上に、写真にはその力があると感じています。1枚の写真を手渡すだけで、「あの日あの瞬間の言葉を今でも覚えているよ」と言われることが多々ありました。これこそが、写真の魅力だと思います。

僕の中で大切にしているモットーがあります。それは「誰かの一番近い第三者であること」です。特に舞台撮影やミュージカルの撮影では、このモットーが強く活きてきます。僕は、そのミュージカルの一番のファンになるつもりで撮影に臨んでいます。

カメラマンは舞台袖に入ることは許されるものの、本番では舞台上に立つことはできません。本来、そこにいるべきではない人間だからこそ、常に「第三者」であるという意識を持つ必要があります。

カメラマンが演者とぶつかったり、自分が原因で舞台が失敗するリスクがあるので、一歩引いて見守ることが大切なのです。そのなかでも、できるだけ近い距離でその瞬間を捉えることを心がけています。

だから僕は、本番だけでなく必ず稽古から撮影に参加します。演者たちの関係性や、誰がどのシーンで一番頑張っているのかを観察し、それを基に本番で最高の瞬間を捉えることに集中しています。

よく「趣味を仕事にすると、その趣味が嫌いになるからやめたほうがいい」と言われますが、僕自身は特にそう感じたことはありません。目の前の出来事や物語を撮影すること自体が楽しいので、相手が誰であっても、その瞬間を捉えることに喜びを感じます。相手が楽しそうであれば、僕も10時間でも24時間でもその場にいられます。

写真を通じて、地域を盛り上げたい

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今後やりたいことは、「写真を通じてふるさと納税を盛り上げる」という取り組みです。実は、すでにその分野で成功されている先駆者がいらっしゃるんです。北海道の別海地域で、ふるさと納税を写真を通じて関わり、その売上を何倍にも増やした方がいます。

2年前にその話を聞いたとき、「これは自分もやりたい」と強く感じました。ふるさと納税を通じてその地域の人々の生活や歴史、物づくりの現場、文化を写真に収め、それをリーフレットのような形で返礼品に同封するというアイデアにとても魅力を感じました。

その方は、返礼品の競争ではなく、地域そのもののファンをつくる取り組みをされていました。たとえば、別海地域ならその地域のファン、大阪なら大阪府のファンをつくり、その人たちが実際に地域を訪れるようになるといった試みがとても魅力的で、僕もぜひ実現したいと感じました。実際、その方に「2年かけて必ずやります」と宣言しました。

そして、最近ようやくその機会が訪れそうです。僕が1年ほどかけて進めようとしているプロジェクトがあるのですが、その場所は、新潟の佐渡島です。この島には、すでに2年ほど通っていて、さまざまな人とつながりができています。

その中の1人、キムチ屋さんがふるさと納税の話に乗ってくれたんです。「規模は小さくてもいいから、今年から始めましょう」と言ってくれて、実現に向けた流れができつつあります。近日中に必ず形にしていきます。

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