“器用貧乏”を武器にするクリエイターが語る「信頼関係を築くうえで大切なこと」

西田 慎一朗

西田 慎一朗

column_top_(nishida shinichirou)

西田慎一朗(にしだしんいちろう)さんは、大学卒業後に、パースライターやデザイナー、営業職などを経て、株式会社ワールドデザインテーブルを設立しました。現在は紙媒体デザイン、Webデザイン、動画制作など、さまざまなディレクター業務を行っています。将来の目標は「学校をつくること」と語る西田さんに、これまでの軌跡をお伺いしました。

パースライター、デザイナー、営業職を経て独立

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_西田慎一朗さん

僕は現在、株式会社ワールドデザインテーブルの代表取締役を務めています。株式会社ワールドデザインテーブルでは、デザイン制作を中心に業務を行っており、紙媒体からWeb制作、さらにはイベントの運営まで、幅広く手掛けています。最近では、広告媒体用に使うためのシチュエーション撮影や動画の撮影の仕事も増えています。

あとはミスコンなどのイベント運営にも参加しています。演出や舞台監督としても活動していて、ランウェイの製作から足場の設置まで、さまざまな分野でディレクションを担当しています。僕自身はデザイナー出身ですが、今は3つの会社の役員を務めながら、クリエイティブなプロジェクト全般を指揮しています。

現在はクリエイティブな仕事をメインにしていますが、大学を卒業した後は、パースライターという、建築の平面図を起こす仕事をしていました。

その後は大阪にある印刷会社にデザイナーとして転職。その会社が東京で新しく事業所をつくることになり、僕がデザイナー兼営業として行くことになったのです。当時は、独立したいという夢があったので、「独立するなら営業のスキルは必須だろう」と考えていました。

それで抵抗もなく、営業の仕事もスタートしました。2年ほど経ったときには、ある程度の売上も上げていましたが、事業所自体は赤字だったので、撤退することになったのです。

その時に、クライアントからヘッドハンティングしていただいて、別の会社に転職しました。そこで6〜7年目のときには、月に2,000万円くらいの売上を出していたので、「この会社に恩返しできたかな」と思い独立することにしました。

新型コロナウイルスの影響で経営難に陥る

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_西田慎一朗さん

2017年に株式会社ワールドデザインテーブルを設立し、最初の年はほとんど苦労することはありませんでした。それまで勤務していた会社の社長からは「クライアントは全部持っていっていいから、そこから発生する印刷だけうちでやってほしい」と提案を受けたことで、独立した当初から売上的に困ることはまったくなかったのです。たくさんのクライアントと信頼関係が出来ていたので、スムーズに移行することができました。

設立から3〜4年が経過した頃、新型コロナウイルスの大流行が始まりました。この時、「本気で会社が潰れるかもしれない」と感じました。融資を受けながら何とか乗り切ろうとしましたが、売上は約50%も減少してしまいました。

この厳しい状況の中でも、ECサイトやWeb関連の案件が増えたことで、新たにWeb制作に取り組み始めました。この選択が功を奏し、現在ではWeb関連の案件が大部分を占めるようになっています。

起業当初、僕は会社を良く見せようと見栄を張り、どんなに苦しくても「順調です。まったく問題ありません」と、強がっていました。でも、本当にしんどくなったときに、ある経営者さんにボソッと弱音を吐いたことがあって、これが思わぬ転機となったのです。

その方から仕事をいただいたり、「うちの役員になってほしい」と声をかけていたただき、役員報酬を受け取るなど、事業の流れが驚くほど好転しました。自分の弱みを見せることで、会社も良い方向に進むことを学びました。変なプライドを捨てたことが、うまくいく鍵だったのかもしれません。

信頼関係を構築するには「準備が9割」

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_西田慎一朗さん

これらの経験を通じて、僕は「周りの人々に生かされている」と強く感じるようになりました。今では、競合するのではなく、協力し合う「協業」の時代に突入していると実感しています。そのために最も重要なのは、信頼関係を築くことです。その秘訣は、何よりも「準備」にあります。「準備が9割」と言っても過言ではないと思っています。

たとえば、飲み会でのコミュニケーションや、仕事相手をリサーチすることは僕にとって日常的なことです。仕事ではさらに一歩進んで、現場で必要になる資料を完璧に仕上げ、「言われる前に出しておく」ことも重要だと考えています。

僕が現場にいなくても、この資料があれば現場がスムーズに進行するというレベルの資料を用意し、現場に挑むようにしています。クライアントやキャスト、スタッフが気持ちよく仕事を進められるようにするためには、万全な準備が欠かせません。「必要かどうか分からなくても、念のために準備しておこう」という意識で臨んでいます。

僕は20代の頃からさまざまな仕事に挑戦してきましたが、その結果、器用貧乏になってしまったと感じています。しかし、今の時代は多様性が認められ、私のような器用貧乏な人材が求められるようになってきました。

特にディレクション業務はその傾向が顕著で、昔と比べて、ディレクターの役割はより広範になりました。進行管理だけでなく、デザインや撮影、編集まで幅広く対応できるディレクターがいることで、現場がスムーズに進むことが求められています。

今後は、時代に適応できるディレクターを育成する学校をつくりたいと考えています。日本国内だけでなく、海外にもネットワークを広げ、世界中のクリエイターが活躍できる場を提供したいです。

クリエイティブな仕事はリモートで作業ができるので、日本の案件を海外で働くクリエイターが手がけることも十分に可能です。国境を越えて、世界中のクリエイターが集まることで、より面白い仕事ができるのではないかと思います。

著者をもっと知りたい方はこちら