「やさしさつながる福祉のマルシェ」で福祉事業所とお客様をつなぐ架け橋に
福祉事業所でつくった商品を商業施設や駅構内のポップアップで販売する『やさしさつながる福祉のマルシェ』を運営する久保田優さん。マルシェを始めることになったきっかけ、苦労することややりがいに感じることなど、今後の展望を伺いました。
フェアトレードで培ったノウハウを福祉事業所で展開
元々は、ネパールでフェアトレードを行うことからスタートしました。会社を創業した直後にネパールで大震災が起こり、ネパールから商品が届かないという事態が発生。販売まで時間が必要だったため、ネパールのものづくりと並行して、福祉事業所でアルバイトをしていました。
その時に福祉事業所の仕事と、フェアトレードのものづくりは似ている部分があると感じました。商品開発が難しい点や資金が少ないこと、販路がないところが似ています。
そこで、フェアトレードで培ってきたやり方を国内の福祉事業所で展開できるのではないかと考えました。海外のフェアトレードだけではなく、日本国内のフェアトレードもできるのではないかと思いました。
そこから国内の福祉事業所の方と、ものづくりを進めていきました。福祉事業所とのコラボレーション商品が増えていったので、関係する福祉事業所がどんどん増えていきました。
その後、新型コロナウイルスの流行があり、バザーやイベントが軒並み中止となったので、商品をつくっても販売する場所がありません。私たちが持っているリソースで、何かできることはないかと考えて始まったのが『やさしさつながる福祉のマルシェ』です。
障がい者の方がつくった商品を手に取ることで、温かい気持ちになると言っていただくことが多々あります。その気持ちがつながって好循環が生まれるお店になったら良いと思っています。
全国200カ所以上の福祉事業所と提携
全国200カ所以上の福祉事業所に商品制作を依頼したり、梱包など商品が完成するまでの過程に関わってもらっています。駅のコンコースや商業施設での出店は、1〜2週間の期間限定ポップアップがほとんどです。
一部の商品はオンラインで販売していますが、ポップアップでの販売も力を入れています。出会いを大切にし、その場で商品を購入していただいています。
現在、関わっている福祉事業所のほとんどは商品づくりや梱包などの提案を快く受け入れてくれましたが、中には自分たちの制作した商品が本当に売れるのか、私の会社がどのようなものなのかを心配に思われる方もいらっしゃいます。
売れるかどうかという懸念は、「一度商品を置いてみましょう」という提案で解決できますが、今後、より多くの福祉事業所にご参加いただけるような仕組みにしていくことが課題です。
すべて手作りなので生産量にバラつきがあります。福祉事業所のみなさんの生産力を生かして、それを工賃に反映させるバランスが難しい点です。一般的な企業では、取引先が多いと管理が大変とされ、少ない方が好まれるかもしれませんが、弊社はすごく多くの福祉事業所と取引をします。
出店先の商業施設は多くの商品を売ってほしいと望みますが、もし福祉事業所の方はそんなにつくれないとなると、その間に入って調整しなくてはいけません。障がいの個性に合わせた生産方法で、商品開発を進める必要もあります。それが最も難しいことではないでしょうか。
商品の値段が手頃だと人気は出ますが、生産が追いつかないということが起きたり、商品の品質を疑われてしまうということがあったりします。私たちは販売のプロとして、自信を持った商品をお客様に提供する姿勢を持っています。
気持ちがこもった商品で温かい心がつながる
出店する際には商品を搬入して、販売をして、撤収作業を行います。特に搬入では、細かい商品を数時間でセッティングするのは大変です。年間で60カ所近く出店しているため、ひとつの場所の撤収から次の場所の搬入に移ると、その作業量は増大します。ピーク時には、月に8カ所での出店もあります。また、頻繁に商品が変わるため、その都度の商品知識を覚えておく必要があります。
大変なこと、難しさを感じることもあります。でも、障がいのある方々やその周りにいる支援員の方たちが、すごく喜んでくださっているのがやりがいとなるので今でも続けていますね。
マルシェで販売していると、お客様から「頑張ってね」と声を掛けてくださることがあります。そういった喜びは他では得られないと感じますね。社会的に意義がある仕事をしているという自負はありますが、お客様には良いものを買っていただき、障がいのある方がイキイキと働ける社会を望んでいます。
今後の展望として、まず多くの方に商品を知っていただきたいです。障がいのある方がつくる商品は、質が良いものも多いです。食べ物に関しては、添加物不使用にこだわった商品や、デザイン面では可愛い小物も豊富に取り揃えています。
昔に比べて一般的になってきたと感じますが、さらに多くの人々の意識が変わることを期待しています。温かみを感じる商品がつくれるのは、福祉事業所の作業員や支援員の多くが温かい人であるからです。魅力的な商品がもっと広く知られ、選ばれる社会を目指しています。