経営者対談

元カルビー株式会社 代表取締役会長 兼 CEO
「松本晃」× 嶋村吉洋

元カルビー株式会社 代表取締役会長兼CEOの松本晃さんにインタビューをさせていただきました。

松本晃さんは伊藤忠商事での会社員時代を経て、ジョンソン・エンド・ジョンソン代表取締役社長、カルビー代表取締役会長兼CEO、RIZAPグループの取締役を務め、現在はラディクールジャパン代表取締役会長兼CEOでいらっしゃいます。

数々のビジネスを右肩上がりにしてきたプロ経営者の松本晃さんの考え方は、実にシンプルかつ整理されています。

今回のインタビューでは、互いの価値観を認め合い最大限に活かし合うダイバーシティ経営や、目標数字への正確性など、多くの仲間と共に仕事を進めていく上で大事な考え方について、深掘りして質問させていただきました

とことん成果主義という松本晃さんの仕事に対する姿勢は、自分の決めた目標を達成し、人生を豊かにすることを決めている私たちにとって、目指すべきことのひとつだと思います。

ご自身が率先垂範で数々の変革を実行してきたきっかけをお聞かせください。

松本氏:特にきっかけはなくて、僕は「仕事でもなんでも成功しないと意味がない」という、典型的な成果主義者なんです。要するに、勝たないと何も良いことがない。勝てばみんなに良いことがある。

1番に良いことが訪れるのは、お客さんや取引先です。2番目は従業員とその家族。3番目はコミュニティ(地域社会)で、4番目は株主と考えています。

最終的に自分のところに良いことがあるかどうかはやってみないとわからないですが、きっと自分にも良いことがあると思ってやっているだけです。良いことがなかったらなかったで仕方がない。自分の欲望を1番や2番に優先順位を上げても上手くいかないですね。

インタビュアー:松本さんの会社員時代も同じスタンスだったのでしょうか?

松本氏:僕が伊藤忠商事にいた時には、日本の会社って矛盾があるんだなと思っていました。しかし、在籍しているときは仕事に全力投球するしかない。どっちみち伊藤忠商事は究極の自分の会社じゃないんだなと感じていましたね。

インタビュアー:究極の自分の会社ではないとはどういうことでしょうか?

松本氏:伊藤忠商事でずっと働き、そこでいくら活躍しても、最終的に自分にとって本当に良いことはおそらくないだろうって思っていました。伊藤忠商事も今はすっかり変わりましたが、今でも変わっていない会社が日本には多すぎます。

個人的にはどのくらい仕事に深く関われるか、仕事に何を求めているかは個人によって違います。しかし、サラリーマンなんてべらぼうに大きいことは求めること自体が少ない。ちゃんと食えて、余暇を楽しんで、お金の心配が最低限なくならないくらいは望みたいですね。

ダイバーシティ経営に関する質問です。会社や組織の中で何かを変えようとすると、反発も起こると思います。上手く解決する方法についてお聞かせください。

松本氏:大事な視点は、「どうして反発が起こるのか」ということ。この理由がハッキリわかっていれば、対処の仕方も変わります。だからといって必ずしも解決できるかどうかは別ですけれど。

実は反発が起こることって当たり前なんです。人間は、自分の持っている既得権を奪われる事に対して徹底的に抵抗するんです。
ダイバーシティが進まないことにはいくつかの理由があります。

1つ目は、例えば、今100人の男性の管理職がいます。100人の枠で30%を女性にしたいと思ったら、男性の30人は降りてもらう必要があります。男性からしてみれば、自分に損することは反対するのが当たり前なんです。このような当たり前なことを理解した上でやらざるを得ない。

2つ目は、トップマネジメント(注:企業の経営管理において、全体を統括して最終的な方針の決定を下す部門)におけるダイバーシティのプライオリティが低いからです。

会社の経営のことを1番に考えている方は多いです。しかし、2番目以降になると、関係のないことを考えてしまう。例えば週末のゴルフや今晩の接待とか。従って経営の優先順位の上位に、ダイバーシティはなかなか来ません。「やらないとまずい」という思いから、やっていますというスタンスの人は多いけれど、優先順位は下の方なんです。

3つ目は、異物が入ると不愉快なんです。10人の男性の中に女性がひとり入っても、逆に10人の女性の中に、男性がひとり入っても、少なからず違和感があります。10人の日本人の中に外国人がひとり入っても、何らかの違和感が生じます。

この違和感を乗り越えない限り、変えられないんです。こんな当たり前の事を理解せずして「なかなか難しい」と言っているうちは、本当にできません。「いやいや、やりたいんだけれど、うちには人がいない」と言うようなマネジメントになってしまう。

例えば、僕がずっとやってきたのは「来年の4月1日からこのポジションは女性にすれば…」です。誰にするかは皆さんで決めてと伝えると、今いる人達の中で誰が一番相応しいんだろうと話し合いが始まります。これが正解!もちろん、上手くいかない人もいます。上手くいかなかったら、残念ながら変えるしかありません。

4つ目は、男性と女性は求めるものが少しだけ異なることです。男性は名誉や地位、ポジションなどが大好きなので、役職や地位を与えることでがんばります。女性は、名誉や地位というより、責任と報酬のバランスがちゃんと合っていることを重視します。僕は2001年からずっとダイバーシティに取り組んでおり、女性の登用をしてきましたが、断った人は一人もいません。ゼロです。

人間の本質的なところをわかればダイバーシティは上手くいきます。

インタビュアー:実際に、松本さんご自身がダイバーシティに関して話されることもありますか?

松本氏:僕がカルビーに入る直前にやったことの一つは、コーポレート・ガバナンスです。取締役はそもそも社外の人がやるべきです。社内の人が取締役を占めていることはおかしい。しかし社外取締役だけでは、社内のことはわからないため、社内から取締役を選ぶのは一人か二人で良いと考えています。

カルビーから会長兼CEOをやってくれとオファーがあった時に、僕は「ガバナンスだけはやりますよ」と伝えました。それが気に食わなかったら僕はやらないつもりでした。仕事なんていくらでもありました。

僕自身、それほど派手じゃないし贅沢でもないため、お金は適当にあれば困らないから、給料を増やしてくれと言ったことはありません。お金には興味はありますが、優先順位が高いわけではない。

インタビュアー:松本さんの優先順位の一番は何でしょうか?

松本氏:コーポレートのビジョン(※)通りです。企業が描いているビジョンの通りにやったら面白いと思うので、優先順位は一番です。

※カルビーグループのビジョンより
顧客・取引先から、次に従業員と家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から
尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる​。

カルビー時代の大変革について、どのようなことから着手されたのですか?

松本氏:まず働きやすい環境を作る上での、オフィス作りです。でも、社員に「どんなオフィスだとみんな働きやすい?」と聞いても皆さんよく分からない。会社は上手な仕組みを作ってあげて、その後は社員に任せることです。
人は仕組みに従って動いていきます。こうしたら絶対に良くなるという仕組み作りが経営者の役目です。

インタビュアー:反対する人が出てきた時はどうされていたんですか?

松本氏:反対する人は当然います。なぜ反対するかというと、自分にとって損するからです。人間なんて簡単です。自分にとって得なことはイエスだし、損することはノーなんです。そんな事は当たり前です。

まず、なぜ変えるのかをちゃんと説明すること。それにはやはり辛抱がいります。しかし、人間は正しいことに対しては反論できない。それでも実行するには、いくらかの我慢がいりますよね。それでしびれを切らしたらしょうがないでしょう。だから僕は、「正しいことを正しくやらないとだめだ」と辛抱強く言い続けます。

会社のルールなんてどっちでもいい。法律は守らざるを得ないけど、会社の中のルールは会社が勝手に作ったのだから、正しくないと思ったルールは変えればいい。

松本さんは人徳をお持ちだと感じるのですが、どのように努力したら人徳が得られるのでしょうか。

松本氏:多分に人徳は努力ではなく、もともと持って生まれたものだと思っています。

僕に人徳があるかというと、ハッキリ言ってないですよ。しかし、僕には実績があります。

理論的にも非常にクリアです。人徳がなくても、実績と納得感の強い理論立てた話ができれば大丈夫です。ただ、できるだけ人徳は持とうとは思っています。人徳をもともと持っている人には到底勝てません。

​松本さんが数字を作る上で、こだわっていらっしゃることはなんですか。

松本氏:どんな数字が達成できるか。利益がいくら上がるかに関しては、いつも関心を持っていて、一度決めたら絶対に変えない。なおかつ、正確性にもこだわっています。決めた数字が100とすると、100と101の間に収めようとしている。正確に達成するために、年がら年中、色々な現場を見て、人と触れ、お客さんや社員に会っています。

しかし、私はその100と宣言し、結果は110になった人、また、結果が90になった人がいるとします。110は+10で、90は-10です。どちらも評価しません。100と101の間に必ず収める。1円でも下回ったらダメなので、99.9もダメですよ。正確性を突き詰めていくと、だんだんと皆さんの精度が上がってきます。精度が高くなるわけだから、途中のレビューは必要なくなります。

一方、そんな中で数字が足りないからと言って、期末に例えば無理やり押し込みをして調整した社員がいる。その人はどうするか……?

……クビ。

何十年も前から、押し込んだら「クビ」だと言っています。押し込んだかどうかは、すぐわかります。期末に押し込めば、期初はドーンと下がります。

理屈的にはこうですけれど、いつも上手くいくということはないんです。社員に繰り返し言うようにして、会社の文化を少しずつ変えていく。そうすると会社がどんどん良くなっていって、一人ひとりが強くなれます。

大概の会社は100m走を105m走らすのです。それが毎年期末の決算のための押し込み売りです。

​こんなことをやってどうなるかと言うと、翌年も同じことをやるわけです。すると5年で525m走っているかというとやっぱり500mしか走っていない。マイナスから始めて、やっと追いついてゼロ。毎年期末に無理をさせて、年度初めに入ったらまたしんどい思いをさせる。そんなことやらせて何の役に立つんですか。

逆に、100m走を95mにする工夫もできます。社員はどんなに楽になることか。よりみんなが楽になる工夫をするのが経営者の役目です。上手に貯金を作って、新しい期に入り、初日にドーンと売上・利益をあげると余裕が出てきます。楽をしながら働いたほうが良いのに決まっているでしょう。

最終的にもし足りなくて、計画を達成できなかったらけしからんことです。しかし、それはトップの責任です。トップが責任を取る。上の人間は責任を取るのが仕事なんだから当たり前です。

当たり前のことを当たり前のようにやってきただけです。奇をてらったことをやっているわけではありません。従業員やその家族の優先順位が2番目なんです。この順番は絶対に崩しません。

松本さんが次に手に入れたいと思っているものはなんですか。

松本氏:今は、好奇心を持てることに残りの人生を生きています。だから、世の為、人の為になって、面白いことを求めています。知らないは自分の好奇心をくすぐります。僕は医療の世界に20年、次に食品の世界に約10年関わりました。残るのは「環境」しかないと思って、今は環境問題への取り組みをやっています。

ただし、環境というビジネスは全く知らなかった。このビジネスに入ってみて一番最初に感じたのは、非常にローテクということ。例えば、ゴミで汚れているから清掃しようとか、ゴミの削減を頑張ろうなどです。そこを取り組むのではなく、環境でハイテクってなんだろうと思って、ハイテクを探してやっています。

インタビュアー:環境でハイテクとはどういったことでしょうか。

松本氏:ラディクールジャパン(Radi-Cool)という会社は、カッコよく言えば地球の温暖化に挑戦する会社です。化石燃料をまったく使わずに物体を冷却する技術を用いて、地球の気温をこれ以上上げないことにチャレンジしています。

表面温度5,500℃の太陽が、四六時中地球を温めています。なのに、地球は何億年もの間、温まっていない。なぜだろう。実は、放射で熱を地球の外に逃がしているからです。

今、地球温暖化は、化石燃料を燃やしすぎたことによって、二酸化炭素が溜まってしまったためです。地球の温度が1℃上がることは、この環境にとって本当に大きな問題です。1℃上がっただけで、海水の蒸発量が大きくなる。蒸発したものはそのうち空から落ちてくる。だから、記録的な台風や大雨・大洪水はさらにひどくなる。

そうはいっても、そう簡単に地球温暖化問題は解決はしません。しかし、少しでも化石燃料を使わず、自然に冷やすという方法であれば面白いなと思ってやっています。

今でも学び続けてらっしゃるとのことですが、具体的にはどういったことを学んでいますか。

松本氏:とにかく何でも新しいことを学ぶことです。世の中っていうのは着眼大局です。「着眼大局、着手小局(注:物事を大きな視点で捉えて、小さなことから実践すること)」という言葉がある。世の中の大きな動きや流れに関することを知って対処する。

30年前ベルリンの壁の崩壊は何を意味したのか。それによって世の中がどれだけ変わるのか。それくらいわかっていないとダメなんです。西と東が失くなると日本は大変なことになるよということくらいわかっているはずです。でも当時は「バブルでまだまだ良くなる」と言っている人が多くいました。良くなるはずがない!案の定、2年後にはソ連がなくなったんです。そして、全てが変わってしまった。

メディアが伝えるものと、実態は全く違います。中国がどうして一気に経済成長したのか。なぜ、どうして、こうなったのか。世の中の情報をもとに、どのように変わっていくのか考えています。

あとは、興味のあることを学び続けています。

北朝鮮はなぜあんなことをやっているのか。中国がどうしてあのような国になったのか。なぜ、どうして、こうなったのか。を知りたい。それがわかると世の中はこれからこのようにして変わっていくだろうということがみえてきます。

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