
ポジティブクリエイター
倉本美津留 × 住谷知厚
テレビ業界で数々のヒット番組を手がけ、近年はアートや絵本の世界にも進出するなど、多彩な表現活動を続ける倉本美津留(くらもとみつる)さん。 「ポジティブクリエイター」として、世の中にポジティブな影響を与えることを使命に、独自の視点で新しい価値を生み出してきました。 本インタビューでは、放送作家としてのキャリアの始まりから、アイデアの発想法、さらには大喜利やアートを通じた新たな挑戦まで、倉本さんの創造力の源泉に迫ります。
「ポジティブクリエイター」という肩書きの理由

住谷:倉本さんは「ポジティブクリエイター」と名乗られていますが、その意味について教えていただけますか?
倉本:数年前に自分の肩書きをちゃんと考えないといけないタイミングがあって、自分がこれまでやってきたことを総合的に捉えてみたら、世の人々がポジティブになれる面白きっかけを作って発信してきたのかなと。 僕が関わるものを通じて、誰かが明るくなったり、笑ったり、前向きになれたらいいなという思いを軸として、ずっとやってきたなって。 それってなんだろうと思った時に「ポジティブクリエイター」という言葉が浮かんできてしっくりきたんです。
住谷:なるほど。「放送作家」という肩書きもありますが、それとは違う立ち位置を意識されているのでしょうか?
倉本:そうですね。放送作家/倉本美津留で世間的には通っちゃってますよね。でも、僕自身は「放送作家になりたい」と思ってこの業界に入ったわけじゃなくて。 元々「世界に多大な影響力を持つ存在になりたい」と漠然と思っていて、そのためにどういう道があるんだろうって考えながら進んできたんですよね。
テレビ番組を作るにしても世の中に新しい価値を提供したいという気持ちが根底にあってやってきました。 僕の仕事の本質は、エンタメに限らず、人々の思考を刺激し、心を動かし、ポジティブな影響を与えること。それが僕のクリエイティブの原点なんです。
新しいアイデアや価値の生み出し方

住谷:音楽をやられていたと伺いましたが、そこからテレビ業界に入られた経緯を教えてください。
倉本:僕はもともとミュージシャンを目指していたんです。ビートルズを越えたいって(笑)。 誰にも負けないような独創的な音楽を作って世の中を驚かせようと活動していたんですが全然人気が出ない。 これは超目利きの業界人に出会って売ってもらわないとダメだと。で、業界に潜り込むことになりました(笑)。
大阪の番組制作会社の人材募集を見つけて、履歴書を送ったんですけど、その内容は自分がこれまでやってきたことを事細かに書き込むという普通じゃない感じのものにしました。 それが面白がられて、面接に呼ばれ、採用されました。
で、社員研修でメジャーな番組の会議の見学に行った時に、あるコーナーのアイデアが行き詰まっていたんです。お題に対して新鮮な意見が出てこない様子。ところが、見学の分際で面白アイデアが浮かんでしまってうっかり手を挙げて「こんなんどうですか?」って言っちゃったんです。それがいきなり採用されて「お前、次の会議から来い」となって、そこから企画をどんどん任されるようになりました。
住谷:「伊東家の食卓」は大ヒット番組ですが、最初は苦労されたと聞いています。
倉本:そうなんです。最初は全然視聴率が取れない番組だったんです。 ファミリー向けのいろんな企画をやる番組としてスタートしたんですけど、どうにも数字が伸びなくて。そんな時に、僕と作家の先輩、そしてチーフディレクターの3人で飲みながら話してて思いついたのが、「おばあちゃんの知恵袋」みたいな、その家庭ならではの工夫を紹介する企画。
それを『裏ワザ』という用語でやるということにしようと。 今でいうYouTubeみたいな感覚で、「家庭で使えるアイデアを本人がみんなに紹介する番組にしよう」ってなったんです。これが視聴者にめちゃくちゃハマって、一気に視聴率が20〜30%に跳ね上がりました。
住谷:すごいですね。まさに視聴者の生活に密着したアイデアがヒットの鍵だったんですね。
倉本:そうですね。面白いことって、会議室で「これ、当たるかな?」って考えてても出てこないんですよね。とにかくやってみて、当たったらラッキー、外れたら次!っていうスピード感が大事なんです。
住谷:倉本さんの発想力はどこから生まれてくるのでしょうか?
倉本:僕は、アイデアって先人達からの贈り物だと思っているんです。ジャンルの違うところから閃きをもらう。 例えば、「フリップ大喜利」も、マグリットの「これはパイプではない」という美術作品からインスピレーションを受けて思いつきました。
新しい発想を生むためには、たくさんのものに触れて、それを自分なりに組み合わせることが大事です。例えば、ビートルズの音楽が好きなら、ビートルズが影響を受けたアーティストをたどる。 過去に遡ると視野が広がるし、いろいろな人の考えたことを知ることがヒントになって、その過程で新しい視点が生まれるんですよ。「温故知新」という四字熟語がありますが、実は過去の方が新しかったりするんですよね。
発明や新しいアイデアって、何もないところから突然生まれるわけじゃなくて、いろんなものが組み合わさった結果なんです。だから、僕は常に新しいものにも古いものにも両方積極的に触れながら、刺激を受け続けることを大切にしています。
アートとお笑いの融合:新しい発想を生み出す方法

住谷:倉本さんはアートにも関心を持たれていますよね。
倉本:はい。僕はお笑いとアートは、すごく近いものだと思っているんです。例えば、「デュシャンの泉」って知ってますよね? 公衆便所の男性用便器を美術館に展示したやつ。 あれって普通に考えたら「なんちゅうもん美術館に展示しとんねん!」って言われても仕方がないものでしょ?でも第一級のアート作品ということになってる。そういう「それまでになかった発想」が評価されるのが現代アート。それって笑いで言うとボケにめっちゃ近い。ツッコミを入れたら笑いに昇華するのにといつも思っていました。
先ほども言いましたが「フリップ大喜利」はシュルレアリスムの影響下にあります。普通じゃない組み合わせをすることで新しい意味が生まれるんです。
ルネ・マグリットはパイプの絵を描いておいてその下に「これはパイプじゃない」って説明書きする。これはもう、大ボケじゃないですか(笑)。 こういう発想がお笑いにも活かせると思って、「フリップ大喜利」を始めました。
シュルレアリスムとお笑いの共通点は、既成概念を壊すこと。つまり、観る人の「当たり前」を揺さぶることなんですよね。 だから僕は、お笑いを作る時も、アートを観る時も、常に「今までにない視点」を重視しています。
65歳からの新しい挑戦:絵本で広げる創造力

住谷:最近では絵本の制作にも取り組まれているとか。
倉本:そうなんですよ。絵本作家になろうと思ったわけではなかったんですが、たまたま出した絵本が思いのほか売れたんですね。それから絵本業界で作品を出しやすい環境になったんです。そんな中、最近出したのが「初めての大喜利絵本」シリーズです。
幼児の内から大喜利の面白さを体験させたいと思って作ることにしました。子どもが初めて大喜利に触れて、自由に発想して笑う。そういう体験が脳を刺激し、発想力を豊かにすると思うんです。
早いうちから自由な発想が身につけば、人と違っていても気にしなくなるし、みんなが得意なことを尊重しあえるようになる。そういう世の中になれば、無駄な争いごとも減るんじゃないかなと。
言葉を超えた表現で世界中の人々に届けたいという想いがあって、絵本なら使う言葉数も少なくて、海外にも広がりやすいんですよね。
僕の目標は何度も言いますが「世の中をポジティブにすること」。
65歳になりましたが、これからの30年も新しいことに挑戦し続けるつもりです。新しい仲間も増えましたし、これからどんな表現ができるのか楽しみです。
住谷:本日はありがとうございました!
倉本:こちらこそ、ありがとうございました!これからも新しい価値を生み出し続けていきますよ!
本記事は、ワクセル会議にて公開収録した倉本との対談の内容です。 ワクセルのCollaboratorの方は、公開収録への参加、倉本さんへのご挨拶ができ、ご自身の事業へのヒントが得られる絶好の機会となりました。 ワクセルのCollaboratorの詳細は下記よりご確認ください。 https://waccel.com/collaboratormerit/