経営者対談

一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所代表理事・所長/医療法人社団TLC医療会ブレインケアクリニック名誉院長/精神科医
今野 裕之 × 住谷知厚

今回のトークセッションでは、認知症予防の第一人者であり、一般社団法人ブレインケア・認知症予防研究所の代表理事・所長、 そしてブレインケアクリニックの院長を務める今野裕之(こんの ひろゆき)先生をお招きしました。

精神科医として25年の臨床経験を持ち、脳機能と老化のメカニズムを専門とされる今野先生。 「人生100年時代」と言われる現代において、最後まで自分らしく、聡明に挑戦し続けるために不可欠な脳の健康について、貴重なお話を伺いました。

脳を「ゴミ屋敷」にしない!認知症発症メカニズムと生命の鍵を握る「睡眠」

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住谷:今野先生は長年、精神医学の最前線で活動されていますが、 そもそも認知症という分野に深く注力されるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

今野:私は精神科医として25年ほど、大学病院や精神科病院でさまざまな患者さんを診てきました。 精神医学の分野は、かつては「よく分からないもの」とされてきましたが、 現代では脳機能の研究が飛躍的に進み、多くの精神疾患は症状をコントロールできるようになっています。 しかし、その中で根本治療が見つかっていないのが認知症でした。既存の薬を使っても、進行をわずかに抑制できるかどうか、というのが現状です。 この現状を打破したい、病気になる前に食い止める方法を伝えたいと思い、大学院で老化の生物学やメカニズムを研究し始めたのが、私の活動の原点です。

認知症の多くは、脳内に特定のゴミが溜まることで引き起こされます。 これを分かりやすく理解するには、脳を家に例えるといいでしょう。 脳がゴミ屋敷になってしまう理由は、極めてシンプルに2つしかありません。 一つは「ゴミが増えること」、もう一つは「ゴミを捨てられなくなること」です。

まず「ゴミが増える」要因ですが、現代社会にはその引き金が溢れています。 代表的なものが炎症と糖化です。特に食事における揚げ物などは要注意です。 油が加熱によって酸化し、それが体内で炎症を引き起こします。 また、過剰な糖分がタンパク質や脂質と結合する糖化が進むと、脳の細胞はその機能を失っていきます。 これは肌で言えば、シミやシワの原因と同じ仕組みです。 さらに、空気中のカビや微細な有害物質、そして脳血流の低下もゴミの蓄積を加速させます。 自宅でできる対策としては、HEPAフィルターという高性能な空気清浄機の設置、 浄水器を付けることや、可能ならばプラスチック製品の使用を減らすことが挙げられます。

そして、もう一つの決定的な要因である「ゴミを捨てられなくなること」。 ここで最大の鍵を握るのが睡眠です。 実は、脳には日中に溜まった老廃物を洗い流す掃除システムが備わっていますが、 このシステムは私たちが深く眠っている間にのみ活発に働きます。 睡眠を削るということは、脳内の清掃業者を追い出し、ゴミを溜め込み続けるのと同義なのです。

住谷:脳をしっかり掃除するためには、 具体的にどのような睡眠を意識すればいいのでしょうか?

今野:睡眠は「長さ」と「深さ」の両方が不可欠です。 大人は7〜8時間、成長期の10代であれば8〜10時間の睡眠が目安です。 睡眠中には成長ホルモンが分泌され、傷ついた細胞の修復が行われますが、短時間の睡眠ではこの修復が間に合いません。

特に重要なのが「深さ」です。脳の掃除が最も効率よく行われるのは深い眠りの時ですが、 これには自律神経のリズムが深く関わっています。本来、人間は昼間に交感神経が働き、 夜には副交感神経に切り替わることで休息モードに入ります。しかし現代人は、夜遅くまで強いブルーライトを浴びたり、 ストレスに晒されたりすることで、夜になっても交感神経が昂ったままになりがちです。

深い眠りを得るためには、朝、決まった時間に起きて太陽の光を浴びることが重要です。 光を浴びることで体内時計がリセットされ、約15時間後に自然な眠気を誘うメラトニンというホルモンが分泌されるようになります。 夜にリラックスした状態を意図的に作り、副交感神経へスムーズにバトンタッチさせること。 このリズムこそが、脳をゴミ屋敷から救う最強のソリューションなのです。

老化は「選べる」時代へ!食事・運動・栄養がもたらす「細胞レベルの若返り」

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住谷:若々しく見える人と、そうでない人の差はどこにあるのでしょうか?やはり遺伝による部分が大きいのでしょうか?

今野:一言でまとめるのは難しいですが、まず考え方からお話しします。 時間(年齢)が進むほど老化は進みますが、「健康な老化」と「望ましくない老化」があります。 さらに、老化には量的な差もあります。

若く見える人とそうでない人の違いは、遺伝だけではありません。 よく「親もボケたから自分も……」と心配される方がいますが、実は老化における遺伝の影響は概ね25%程度と言われています。 残りの75%は、食事、運動、睡眠といった後天的な要素です。 つまり、老化のスピードは自分自身の選択次第でコントロール可能ですし、適切なアプローチをすれば細胞レベルでの若返りに近い変化さえ起こり得ます。

正直なところ、成人以降は老化は進んでいきます。アンチエイジングを考えるなら、20代・30代から始めるのが望ましいです。 老化のメカニズムにおいて、私たちが最も注意すべきなのはインスリン(血糖)シグナルです。 成人まではこのシグナルは成長のために必要ですが、成人以降は出しすぎないこと、つまり血糖値を急激に上げないことがアンチエイジングの鉄則となります。 20代・30代から甘いものを控える習慣を持つことは、将来の自分への最高のプレゼントになります。

また最新のエビデンスでは、お酒についても厳しい見解が出ています。 かつては百薬の長などと言われましたが、現在は「完全に良いとは言えない」という方向が主流です。 アルコールそのものが脳細胞に与えるダメージや、老化を促進するリスクは無視できません。 お酒を嗜むなら、糖質の少ない焼酎やウィスキーなどの蒸留酒や辛口ワインを選ぶ工夫も一つですが、基本的には控えることが脳のパフォーマンスを保つ近道です。

住谷:栄養の面では、具体的にどのようなものを積極的に摂るべきでしょうか?

今野:私たちの細胞は、材料となる栄養が足りなければ本来の力を発揮できません。 特にタンパク質は生命の基礎です。体重1kgあたり最低1g、活動量が多い方なら1.5g程度を目指してください。 タンパク質が不足すると、生命維持に直接関係ない髪や肌から真っ先に栄養が奪われ、見た目の老化が一気に進みます。 ちなみに、最近プロテインを摂る方が増えていますが、摂る場合は植物性のものがよいとされています。

また、現代人に不足しがちなビタミンB群、鉄、マグネシウム、そして脳の構成成分であるDHA(魚の油)も積極的に摂っていただきたいですね。 食事の基本は、同じものばかり食べない多様性ですが、食物繊維だけは毎食たっぷり摂ることをお勧めします。 野菜やきのこ類、海藻などは、腸内環境を整え、間接的に脳の健康を支えてくれます。

そして、食事以上に強力な天然の薬となるのが運動です。 認知症予防において最も効果が高いのは、ウォーキングやランニングといった有酸素運動です。 週2〜3回、20分以上の運動を継続することで、記憶を司る海馬の容積が維持されるというデータもあります。 一方で、筋トレは注意力や、段取りを組む実行機能を鍛えるのに役立ちます。 運動は脳の血流を改善し、栄養を隅々まで届けるためのポンプの役割を果たしてくれるのです。 ただし、頭部への衝撃、例えばサッカーのヘディングなどは脳へのダメージ蓄積になり得るため、スポーツを楽しむ際にも頭を守る意識は持っておきたいですね。

「ブレインケア」で未来を創る!20年前から始める、人生を輝かせるための投資

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住谷:何歳からブレインケアを意識すべきでしょうか?40代や50代になってからでも、効果は期待できるのでしょうか?

今野:結論から言えば、何歳からでも遅すぎることはありません。 しかし、知っておいていただきたいのは、認知症は発症する20〜30年前から、脳内でのゴミの蓄積が静かに始まっているという事実です。 40代・50代の方はもちろんですが、20代・30代の若い世代にこそ、今のパフォーマンスを最大化し、将来の自由を守るために脳のケアを始めてほしいのです。

認知症予防という言葉は、どうしても「衰えを防ぐ」というネガティブなニュアンスを含みがちです。 だからこそ私は、この活動を「ブレインケア」というポジティブな概念で広めていきたいと考えています。 脳をケアすることは、車をメンテナンスするように、自分の人生という乗り物を最高のコンディションに保つ行為です。

私のクリニックでは、血液検査を通じて一人ひとりの栄養状態を可視化し、不足を補うアプローチをしています。 すると、認知機能の改善はもちろんのこと、肌が綺麗になったり、朝の目覚めが劇的に良くなったりと、全身の状態が底上げされる方が非常に多い。 たとえ認知症と診断された方であっても、原因を丁寧に特定して生活習慣を当てはめていけば、回復して自立した生活を取り戻せる可能性は十分にあります。 脳には「可塑性」という、自らを作り変える力が備わっているからです。

住谷:最後に、これからのビジョンと読者の皆様へのメッセージをお願いします。

今野:私のビジョンは、医療の枠を超えて「ブレインケア」を一つの文化にすることです。 病気になってから病院へ行くのではなく、日々の生活の中で誰もが自分の脳を慈しみ、メンテナンスできる社会を作りたい。 一般向けに出す情報は安全性を考えて表面的になりがちですが、健康意識の高い人たちを集めて、より実効性の高いケアを医療の外でも開発していきたい。 興味がある方は一緒に取り組めたら嬉しいです。

脳の健康は、あなたがあなたらしくあり続け、夢を追い続けるための唯一無二の土台です。 今日お話しした睡眠、食事、運動など、すべてを完璧にする必要はありません。まずは今日、10分早く寝ることからでも、お菓子を一口控えることからでも構いません。 その小さな選択が、20年後のあなたの笑顔を作ります。興味を持ってくださった方々と共に、最後まで自分らしく輝ける未来を創っていけたら、これほど嬉しいことはありません。




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