地下アイドルグループ『仮面女子』
猪狩ともか × ワクセル
猪狩ともか(いがりともか)さんは、地下アイドルグループ『仮面女子』のメンバーです。不慮の事故で脊髄を損傷し車いす生活を送ることになりましたが、アイドル活動を継続し現在は作詞まで手掛けています。
ワクセルコラボレーターでタレントの渋沢一葉(しぶさわいよ)さんとワクセル総合プロデューサーの住谷が、アイドルやパラ応援大使など、精力的に活動する猪狩さんの素顔に迫りました。
就職活動に苦戦して21歳からアイドルに挑戦
渋沢:本日のゲストは「誰かの夢見る気持ちを後押しできるような存在になりたい」と地下アイドル『仮面女子』のメンバーとして活動する猪狩ともかさんです。まずは、猪狩さんがなぜアイドルを目指し、仮面女子になったのか聞いていきたいと思います。
猪狩:小学生のときに『モーニング娘。』が大好きで、アイドルに対する憧れはずっと持っていましたが、特にアイドルに挑戦することはありませんでした。
21歳のときに管理栄養士の専門学校に通っていて就職活動を始めたのですが、働きたいと思うような心ときめく場所が見つけられなかったんです。そのときに「あっ!アイドルに挑戦してみよう」と突然思いつきました。きっと就職活動につまずいたことによって、心の奥にずっと持っていた願望がポッと出てきたんだと思います。
通常のアイドル事務所は「16歳まで」「20歳まで」などと年齢制限が設けられていることが多く、21歳でオーディションを受けるチャンスがあったのが今の事務所だけだったんです。地上の輝かしい事務所に入れるような存在でもないので、結果的にちょうど良かったと思っています(笑)。
「仮面女子でしかできない表現をしたい」とアイドル卒業を撤回
渋沢:猪狩さんは仮面女子からの卒業を発表されましたが、そこから卒業を撤回されて現在も活動を続けています。どのような心境の変化があったのでしょうか?
猪狩:卒業を一度決めたのは27、8歳の頃です。仮面女子としてやり切った気持ちがあり、年齢的に考えても新しい道に進むときだと思いました。そして、「ソロ活動を頑張っていこう」と、2020年2月に「今年の秋ごろに卒業する」と発表しました。
秋に仮面女子のワンマンライブが開催される予定だったので、そのライブに出てひと区切りをつけようと思ったんです。でも、コロナウイルスが蔓延してワンマンライブが延期になり、ライブに出ないまま卒業することは嫌だったので、卒業も延期することにしました。
その後、私が作詞した曲が入ったファーストアルバムが出ることが決まりました。「私が作詞した曲が出るのに卒業するのはおかしくない?」と考え、ファーストアルバムが出るまで卒業もさらに延期。
そうこうしている間に「車いすの私が当たり前のように一緒に舞台に上がっている見せ方は、仮面女子にしかできない」と気づいて、「私にしかできない表現をもっとしていきたい」という気持ちが強くなり、卒業を撤回することにしました。
「やっとなれた仮面女子」わずか1年で事故に遭遇
渋沢:先ほど“作詞”という話が出ましたが、作詞活動もされているんですよね。作詞することになったきっかけも伺いたいです。
猪狩:作詞に対する憧れはずっとありました。事故に遭って入院しているときにプロデューサーに「作詞がしてみたい」という話をしたら、「やってみてよ!」って言ってくださって、病院のベッドの上で初めて歌詞を書き始めたんです。
『ファンファーレ』という曲なんですが、私が事故に遭ったとき、さまざまな方からの応援に背中を押してもらったので、「次は私が曲でお返しするぞ」という気持ちで作詞しました。
渋沢:『ファンファーレ』を聴かせてもらったのですが、「いくぞ」という内に秘めた思いがストレートに書かれていると感じました。猪狩さんはご自身のつらい経験を笑顔でお話しされていて、その姿に本当に勇気づけられます。でも、事故に遭われたときは相当に苦しい思いをしたのではないでしょうか?
猪狩:仮面女子としてデビューするために、見習い生からスタートして、ようやく仮面女子になれたんです。なのに、その1年後くらいに事故に遭い「やっとスタートラインに立てたと思ったのに、これからどうしよう」と私生活のことより、仮面女子の活動への心配が大きくて、そのことばかり考えていました。
「どうやったら活動できるだろう?」と考え、事故後もアイドル活動を継続
住谷:仮面女子を辞めるか迷っていたということですか?
猪狩:よく驚かれますが、辞めるという選択肢はなかったです。というのも、周りの人が「車いすに乗っていても必要としているよ」って思いをすごく伝えてくれたので、辞めるか辞めないかで迷うことはなく、「どうやったら活動していけるだろう?」ということを考えていました。
住谷:事故に遭われてから何か変化はありましたか?
猪狩:今まで見えていなかったものが見えてきたように思います。例えば車いすで道を通っていると、「歩いているときには気づかなかった傾斜があるな」と気づきます。「障がいのある方はこれまでこういう苦労があったんだな」って、自分が当事者になって知ることが多いですね。
装着型サイボーグ『HAL®』を利用したリハビリで体に変化
渋沢:猪狩さんは現在『TRP』というリハビリに励まれているそうですが、どのようなリハビリを行っているのですか?
猪狩:TRPは『ともか・リジェネレーション・プロジェクト』の略称なんですが、私の失われた機能を回復しようというプロジェクトです。『HAL®(ハル)』という装着型サイボーグを使い、オーストラリア・メルボルンのビクトリア大学で博士をしている長野放(ながのはなつ)先生の指導の下、リハビリを受けています。
通常、人は脳から指令を受けて手や足を動かしていますが、私の場合は脊髄を損傷しているので、脳からの指令が足まで届きません。リハビリに使っている『HAL®』は、脳からの指令を皮膚に貼ったセンサーで検出して外側から体に伝えてくれるものなんです。その仕組みを使って運動することにより、神経の回復を狙う取り組みをしています。
『HAL®』を使っても動かせない人がいるなかで、私はひとつ目のステップをクリアすることができ、その時点でも大きな喜びを感じました。リハビリを始めて1年くらいたつのですが、今まで感じなかったおなかの痛みを少し感じるようになったり、整体の先生に「お尻に筋肉がついたね」と言われたり、体幹が鍛えられている実感があります。歩けるようになったなどの大きな変化はないですが、少しずつ前に進んでいる感じですね。
車いすの人をもっと身近に感じてもらうためにSNSで情報を発信
住谷:少しずつでもリハビリの効果を感じられているのはうれしいですね。今後の変化が楽しみです。最後に猪狩さんの今後の目標もお聞きしたいです。
猪狩:先ほど渋沢さんが「大変なことを明るく伝えてくれるのが良い」って言ってくださったんですが、まさに今SNSを使ってそういう発信をしています。コロナ禍では直接会ってやりとりするのが難しいので、SNSを活用してさまざまな発信を今後も続けていくつもりです。
障がい者が不便に感じていることも知ってもらいたいですね。車いすだからって敬遠されるのが嫌なので、私の発信で車いすに乗っている人をもっと身近に感じてもらえたらうれしく思います。
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