エナ・アミーチェ代表/日本チャイルドボディケア協会代表
蛯原 英里 × 住谷知厚
蛯原英里(えびはらえり)さんは、「ママと赤ちゃんがハッピーでいられるように」という理念のもと、 ベビーマッサージやベビーヨガレッチ、ママ向けエクササイズなど、多彩なプログラムを通してママと子どもの笑顔を支えています。 二児の母として日々の育児に奮闘する中で、子どもに寄り添いながら自分自身の時間や生き方を大切にすることの重要性を実感。 そこから「ママになっても一人の女性」という視点を大切に、ママたちが自分らしく子育てできる環境づくりに力を注いでいます。 活動を通してママ同士や地域とのつながりを広げ、孤立しがちな育児期間を支え合えるコミュニティを育むことも目指しています。
ベビーマッサージとの出会いと今の活動への道
住谷:ベビーマッサージに取り組むようになったきっかけや、今のような形で働くようになった経緯について教えてください。
蛯原:私はもともと看護師としてNICUで新生児の集中治療に携わっていました。 その経験の中で、赤ちゃんの成長や発達に関わることの大切さを肌で感じていたんです。 その中で自分自身が看護師やアパレルといったいろいろな業界で働いたこと、ライフステージや子育てとどう両立していくかを考えたときに、 もっとママと赤ちゃんの笑顔に寄り添える活動がしたいと思うようになりました。特に、赤ちゃんの健やかな成長は親との関わりが大きく影響するということを実感していたので、 家庭でもできる形でサポートできる方法を探していました。そのときに出会ったのがベビーマッサージです。
ベビーマッサージは、ただ赤ちゃんの身体に触れるだけではなく、親子のコミュニケーションを深める手段としてとても優れたツールだと感じました。 ママと赤ちゃんが心を通わせる時間を増やすことで、育児の不安や孤独感を和らげることもできる。 実際に学んでみると、赤ちゃんの反応や表情がどんどん変わっていくのが分かり、私自身も大きな感動を覚えました。 そこから、自分もこれを伝えたい、もっと多くのママと赤ちゃんに届けたいという気持ちが芽生えました。 資格を取得してからは、最初は小さなサークル形式で教室を開き、少人数のママたちと一緒にベビーマッサージを実践するところからスタートしました。
活動を進めていく中で、自分の働き方も少しずつ変わっていきました。 最初は教室の運営だけで精一杯でしたが、参加してくださるママたちの声やニーズを聞くうちに、 もっと幅広い形でサポートできる場を作りたいと思うようになったんです。 たとえば、ベビーヨガレッチやママ向けのエクササイズ講座を組み合わせることで、ママ自身のリフレッシュや体力づくりにもつながる活動に発展させることができました。 また、地域や自治体と連携することで、家庭以外の場所でもママと赤ちゃんが安心して過ごせるコミュニティづくりに取り組むようになりました。 こうして少しずつ規模を広げていき、2012年にena AMICE (エナ・アミーチェ)を設立し、2015年には日本チャイルドボディケア協会を立ち上げるまでに至りました。
この仕事のやりがいは、直接的に「笑顔」を感じられることです。 教室でママが赤ちゃんと触れ合いながら笑顔になる瞬間、初めて赤ちゃんが手の動きやマッサージのリズムに反応してくれた瞬間、そのひとつひとつが大きな励みになります。 また、ママ同士がつながり、悩みを共有し、励まし合う姿を見ると、この活動を広げてきて良かったと心から思います。 私自身、ママになったことで自分自身が抱える不安や迷いもある中で、同じ立場の方々と体験を共有できる場を提供できることが、活動の原動力になっています。 さらに、この仕事は単にスキルを教えるだけではなく、ママ自身が「一人の女性」として輝くサポートにもつながる点が魅力です。
実際に教室に来てくださった方々が、自分の体を動かしてリフレッシュし、赤ちゃんと過ごす時間を楽しみながら笑顔を増やしていく姿を見ると、社会的にも家庭的にも意味のある活動だと感じます。
子どもの個性を尊重する子育て
住谷:子育てでは、周りと比べて「ちゃんと勉強させなきゃ」とか「みんなと同じように育てなきゃ」と考える親も多いと思います。蛯原さんは、どのように子どもと向き合っていますか?
蛯原:私はまず、子どもの性格や興味をよく観察することから始めます。うちには姉と弟がいますが、2人の性格は正反対です。 お姉ちゃんはとてもマイペースで、こちらが「やってごらん」と声をかけてもすぐには動きません。 自分のリズムが大切で、人から急かされると余計にやりたくなくなるタイプです。弟は逆で、少し褒めたり、「やってみたらきっとできるよ」と背中を押すと、すぐにやる気を出します。 同じ言葉でも、子どもによって受け止め方はまったく違うんですね。だから子どもに合わせて声かけを変えるようにしています。
この違いを見ていると、親が考える「正しい子育て」や「やらせるべきこと」が、必ずしもすべての子どもに当てはまらないことが分かります。 学ぶことは勉強だけではありません。表現や体を使うこと、興味を広げることも立派な学びです。お姉ちゃんは絵を描いたり歌を歌ったりすることが大好きで、机に向かうよりも集中力を発揮します。 弟はパズルや数字が好きで、夢中になると止まりません。親が子どもの得意を尊重することで、自己肯定感も自然と高まります。
もちろん、社会の中ではある程度の競争や努力も必要です。学校のテストや受験、社会に出てからの評価は避けられません。 でも「すべての子どもに同じ方法で頑張らせる必要はない」と私は思います。誰もが同じスタートラインにいるわけではありませんし、同じやり方で頑張れるわけでもありません。 だからこそ、親が子どもの個性を理解し、その子に合ったサポートをすることが大事です。 時には、やりたくないことを無理にさせず、「やらなくてもいいよ」と伝えることも必要です。 それによって子どもは「自分で決めていいんだ」と思え、主体的に挑戦する姿勢が育ちます。
また、親の心も軽くなります。以前の私は、子どもがやりたくないことに直面すると「やらせなきゃ」と力が入っていました。 でも今は「やらなくてもいい」と思うことで、子どもに優しく接せるようになりました。 たとえば習い事をやめたいと言ったときも、「せっかく始めたのだから続けなさい」と言わず、「やめてもいいよ。その代わり次に何をやりたい?」と問いかけます。 子どもは自分で選ぶ感覚を得られ、次の挑戦につながります。 苦手なことに取り組む場面でも、無理に克服させる必要はありません。 最低限の学びは必要ですが、得意なことを伸ばすほうが、その子らしい成長につながります。 たとえば勉強が苦手でも、体を使った表現や創造力で輝くという子もいます。そういう特性を見つけて尊重することが、子育てにおいて一番大切だと思っています。
子どもを観察することで、親も学ぶことが多くなります。表情や声のトーン、仕草を見て、「今日は気が乗らないんだな」「今なら楽しそうに取り組めそうだな」と判断できます。 タイミングを見誤ると声かけは反発になりますが、適切なタイミングで伝えられると、子どもは受け止めやすく、やる気も出ます。 子育ては、親が子どもを育てるだけでなく、親もまた子どもから学び成長するプロセスだと感じます。私が大切にしているのは、子どもの個性を尊重することです。 周りと同じでなくてもいい。みんなが同じゴールを目指さなくてもいい。 それぞれの子どもが自分のペースで、自分らしい道を見つけられるよう支えること。それが親として最も価値のある子育てだと思います。
家族・コミュニティを軸にした子育て支援
住谷:今後のビジョンや取り組んでいきたいことについて教えてください。
蛯原:今後のビジョンは、家族や地域とのつながりを軸にした子育て支援をもっと広げることです。 私自身、子どもたちと過ごす日々の中で、「子どもにとって大切なのは安心できる場所があること」と強く感じました。 家族や地域、身近なコミュニティが子どもを支える基盤になることはもちろんですが、その中で親自身も安心して相談できたり、悩みを分かち合えたりする環境が必要だと思っています。
そのために、ベビーマッサージや親子遊び、体を使った表現活動といったプログラムを通じて、親子の関係性を深め、コミュニティとのつながりも育んでいくことが重要だと感じています。 具体的には、ベビーマッサージのクラスを単なる体のケアとして提供するだけでなく、参加する親御さん同士の交流の場、情報交換の場として機能させたいと思っています。 たとえば、毎回のクラスの後にお茶を飲みながらその日の気づきや悩みを共有したり、オンラインでもコミュニティを作り、日常の些細な困りごとや育児の工夫を気軽に相談できるようにしたりすることです。 こうした取り組みによって、「一人で頑張らなくてもいい」という安心感を広げていきたいです。
また、家族や親子の関係性だけでなく、地域全体を巻き込んだ活動も意識しています。先日も地域の公園で親子向けのイベントを行ったのですが、参加した方々から「近所の人とこんなに話す機会はなかった」と言われました。 私たちは、子どもたちが安心して遊べるだけでなく、親自身が他の親や地域の方とつながれる環境作りも同時に進めていく必要があります。 そうした小さなつながりが積み重なることで、子どもたちの成長を支える大きなネットワークになると信じています。 さらに、子育て支援の幅を広げることも今後の課題です。ベビーマッサージや親子プログラムに加えて、高齢者や医療福祉、地域のボランティア団体とも連携することで、子育てだけでなく「生活全体を支えるコミュニティ」を作っていきたいと考えています。 たとえば、高齢者の方にお弁当や生活支援を届けながら、自然な形で子どもや親との交流を生む仕組みを作ったり、地域の保育園や医療施設と連携してイベントを開催したりすることです。こうした多世代・多機関とのつながりを活かすことで、より包括的で安心できる子育て環境が整っていくと考えています。
そして、私が大切にしているのは「信頼と対話に基づいた意思決定」です。子育てに限らず、人間関係やコミュニティ作りでは、相手を信じる姿勢が何よりも大切だと思っています。 親子であれば、子どもを信じて見守ることで自主性や自己肯定感を育むことができますし、地域の活動であれば、他の親や関係者を信頼して任せることで、より多くのアイデアや支援が集まります。 もちろん、信じるだけで放置するのではなく、必要なサポートや声かけはきちんと行う。そのバランスを意識して、意思決定や対応をしています。
今後は、この「信じる姿勢」を基盤にしながら、親子や地域、社会とのつながりを広げ、子育てを支えるネットワークをさらに強化していきたいです。 具体的には、コミュニティの中で定期的に交流イベントやワークショップを開催したり、オンラインプラットフォームを活用して悩みや経験を共有できる仕組みを整えたりすることで、より多くの家族が安心して相談できる場所を作っていきます。 また、子どもだけでなく親自身の成長や学びも支援するプログラムを増やし、家族全体が幸せに成長できる仕組みを作ることも目標です。 最後に、人間関係で大事にしていることとして、やはり「相手を信じること」と「対話を大切にすること」が中心です。
人と人とのつながりの中で、何か問題が起きても否定せずに話を聞き、解決策を一緒に考える。この姿勢が、親子関係や地域コミュニティ、さらには社会全体の信頼関係につながると考えています。 ベビーマッサージを軸とした家族・コミュニティ重視の子育て支援は、その信頼と対話を育むための手段でもあります。今後は、この理念を軸に、子育て支援の枠を超えて、地域や社会全体のつながりを強化していくことが私のビジョンです。
本記事は、ワクセル会議にて公開収録した蛯原さんのインタビューの内容です。
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