未経験で始めた障がい者の就労支援事業が福祉業界全体を変える活動になるまで

一般社団法人全国高齢者食育協会

一般社団法人全国高齢者食育協会

2025.04.18
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東洋平(ひがしようへい)さんは高齢者の口腔ケアの観点から食育の大切さを伝え続ける『一般社団法人全国高齢者食育協会』を立ち上げました。現在、愛知県と岐阜県で障がい者の就労支援施設とグランピング場を運営しています。障がい者支援を始めることになったきっかけや施設運営で苦労したこと、福祉業界全体を見越した今後の展望などを伺いました。

就労支援施設の立ち上げは人材にまつわる苦労が絶えなかった

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2009年に訪問歯科医をサポートする『日本訪問歯科サポート株式会社』という会社を設立しました。私自身も現場に行って、高齢者の歯や口腔内のケアを行っていました。ある時、歯科医がご自宅に伺って治療をするよりも、そもそも治療が必要ない状態にした方が良いと思いました。そうなると高齢者の食事や口腔内に対する考え方から変えていかないといけません。

そこで、2015年に『一般社団法人全国高齢者食育協会』を立ち上げました。管理栄養士の方とタッグを組んで高齢者向けの食事の啓蒙活動としてイベントを開催したり、冊子を作って発行したりしていたんです。途中から食育を語るのであれば元となる食材を生産するところから行った方が良いと考えて、畑と耕作器具を借りて野菜を作ることから始めました。ところが、他の事業が忙しくなってしまい農作物の生産にまで手が回らない状態になってしまいました。

そんな時に知り合いから障がい者の就労支援事業について教えてもらいました。使われていない土地と活かされていない人材を組み合わせて無農薬の野菜や平飼いの鶏の卵などを作ります。そこでできたものを高齢者の方に食べてもらえば三方よしどころか四方よしですよね。それが上手くいきそうだなと感じたので、それまでまったく携わったことがなかった障がい者の就労支援事業を始めることになります。

そもそも制度の内容もよくわかっていないところからのスタートでした。実はサービス管理責任者という資格を持った人がいないと就労支援施設を運営できません。その事実を知らなかったので慌てて探していたところ、知り合いから有資格者を紹介してもらうことができました。

ところが、事業所のオープン直前にサービス管理責任者の資格を持ったスタッフが体調面の理由で一時休養となってしまいます。他に資格を持っている人がいなかったのと、復帰するつもりでいるという話だったのでただただ待つしかありませんでした。

オープンからいきなり大きな課題にぶつかりましたね。経験がないのでどうしたら良いのかわからないんです。働いてもらう障がい者の方にどう対応したら良いのかもわかりません。私が人に指示する時の判断基準は「人としてその行動はどうなのか」「そのやり方でその人が本当になりたい自分になれるのか」です。その観点からスタッフに指導をするのですが、障がい者支援経験のあるスタッフからは社長は未経験だからわかっていないと言われることが多く、とにかく苦労しましたね。

赤字続きの就労支援事業が好転した理由は『諦めなかったこと』

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新規事業のオープンに際して本業の売上の7割がなくなって毎月200万円ほどの赤字が続きます。お金はどんどんなくなるし、この先大丈夫なのかと追い込まれていました。お金を借りてもその矢先になくなっていくんです。

でも私は就労支援事業がすごく大切な事業であるという根拠のない自信がありました。どんなに赤字が続こうが止めるという選択肢はありません。その時は何とか利用者さんを増やして損益分岐点を超える売上を出すしかないと思っていましたね。新規事業をスタートしてから1年で黒字化し、周りからも頑張っていると評価されるようになり、そこから良い人材が集まるようになりましたね。現在は就労支援施設が3ヶ所、グループホームが2ヶ所、障がい者の方と運営するキャンプ場を1ヶ所立ち上げています。

就労継続支援B型事業所を愛知県名古屋市で2ヶ所、岐阜県瑞浪(みずなみ)市で1ヶ所運営しています。そこは、障がい者の方が職業訓練しながら働けるようにステップアップしてもらうための事業所です。

障がい者のグループホームが岐阜県瑞浪市に2ヶ所ありますが、そこは生活をしながら自立訓練をする場所です。グループホームの方たちと山を切り開いて某テレビ番組の『DASH村』のような生活を3年間していました。

これが現在運営しているキャンプ場になります。岐阜県瑞浪市のキャンプ場用地をいただいたので、その近くにグループホームを作ることにしました。最初の1年半くらいは雑木林や竹林を少しずつ切り開いていきましたね。

たまたま補助金の申請が通ったので、グランピング施設も導入することにしました。障がい者の施設が運営するグランピング場は全国でも珍しいんですよ。知り合いが大阪で同様のグランピング場を運営していますが、それ以外聞いたことがないですね。就労継続支援B型事業所もグループホームも任せられる責任者がいるので、この3年はキャンプ場の整備に注力しています。

障がい者事業とさまざまな分野とのコラボで福祉業界をもっと盛り上げたい

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障がい者関連の事業をやっていて一番よかったなと思うのは、何のために生きているのかという『人生の目的』に気づけたことです。資金の問題で事業所が潰れそうになったり、スタッフに文句を言われたりしながらでも続けてこられた理由は、私は人の成長を見るのが好きだからなのだとわかりました。

障がい者の方もスタッフも、過去の自分より成長してこんなことができるようになったというのを見られるのが嬉しいです。就労支援は働くこととセットになっている事業なので、たくさんあるどんな仕事とも組み合わせられるんですよね。私はいろんなことに興味があるので、新たな分野にチャレンジできる事業であることがやりがいに感じます。

これまでチャレンジしてきたことを漫画にしたら面白いなと考える時もありますね。漫画にすることで福祉の楽しさが若い世代にもっと伝わったら良いなと思います。障がい者関連の仕事は怖いイメージがあったけど、面白そうだな、やりがいがありそうだなと思ってもらえたら福祉業界全体にとってプラスですよね。

あとは、スタッフにもやりたいことがあると思うんです。「ネットショップをやりたい」「飲食店をやりたい」「音楽が好きでライブイベントをやりたい」などスタッフのやりたいこと、なりたい自分を叶えられる会社にしたいなと思っています。

やりたいことはまだまだたくさんあります。最近考えているのが温泉施設・宿泊施設と就労支援を組み合わせることです。福祉の力で地域の課題を解決していくというのがテーマ。今回グランピング場を作った瑞浪市という町はどんどん人口が減っていて、観光で有名なところはなく、主たる産業もゴルフ場運営くらいしかありません。

それが福祉とグランピング場を掛け合わせることで、使われていない山林と働きたい人の雇用を創出することができ、障がい者の方たちが活躍してくれています。このビジネスモデルをやってみたいという人に私たちがやってきたことを伝えてさらに広げていけたら良いですね。私が日本全国で福祉と宿泊施設のコラボ事業をやるのは難しいので一緒にやりたいという人を増やしていきたいです。

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