障がいと虐待の苦難を乗り越えそれでも生きていく!自家焙煎コーヒーを通して希望の光を

にじのわコーヒー&ビアスタンド 平田泰之

にじのわコーヒー&ビアスタンド 平田泰之

2025.08.21
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自身が発達障がいを持ち、壮絶な虐待被害経験がある平田泰之(ひらた やすゆき)さん。2020年に入り、偶然の出会いからコーヒーにまつわる活動を始めることになります。辛い過去を経て、発達障がいをはじめとしたさまざまな障がいを持つ人や虐待やいじめ、ハラスメントなどの被害を受けた人々も支援できるコーヒー屋をしたいという平田さんに、その活動に込めた思いや今後の展望を伺いました。

家族からも就労支援所からも虐げられて『虐待サバイバー』として立ち上がるまで

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_平田泰之さん

もともと小さい頃から発達障がい『アスペルガー症候群』による嗅覚や味覚の過敏があります(※障がいそのものは生まれつきのものです)。本格的にコロナ禍となる少し前の2020年1月初旬、2018年5月から5年半の間、障害者雇用で働いていた工場ーー何年も働いて、たとえば棚卸差異を数百万円分無くす実績を出しても、手取り15万円の初任給とほぼ変わらなかったーーを退職して以来、仕事にも就けず、お金を稼ぐこともできず、実家からも脱出できない状態でした。2019年11頃からは、新大阪にある就労移行支援事業所に通っていました。通所に慣れてきた2020年1月、後に私がメンターとして慕うことになるコーヒー屋の店主が就労移行支援事業所に講師として来所し、その場で意気投合しました。当時、プログラマーを目指して勉強をしていたのですがうまくいかず、インターンも2日でクビになりました。激しく落ち込んでいるところに、支援事業所からのいじめもあったんです。

インターンを解雇されたり、緊急事態宣言が発令されたりした2020年4月にこの先どうしようかと考えたときに、良く通っていた先述のコーヒー屋さんに自分もコーヒーをやってみたくなったと話したところ、「平田さん、コーヒー屋をやりましょう!」と熱いお声がけをくれたんです。いろいろと相談に乗ってもらい、なけなしの貯金から1万円をはたいて、フリマアプリや中古品を買って初期費用を抑えつつ、コーヒー活動を始めました。活動開始後、まずはコーヒーを淹れる練習がメイン。接客経験が皆無だったので、ライブ配信をして不特定多数の人と話すことに慣れていったんです。

このコーヒー屋さんの店主=我がメンターと出会った2020年1月に、両親から虐待を受けてきたことを広く世間に公表しました。心を開いた人に精神的に攻撃をされたり、助けを求めても支援所の人にネグレクトされたりもしてきましたが、メンターと出会ってから不思議と話を聞いてくれる人が増えたんですよね。メンターも父親が刃物を持って追いかけまわしてくるなどすさまじい家庭環境で育った人です。メンターから「平田さんが生きづらいのは発達障がいが多少原因としてあるかもしれません。しかし、あなたを生きづらくさせている元凶はあなたの親です」とハッキリ言われました。それがすごくうれしかったです。私は元来、辛いことを周りの人のせいにはしたくないのですが、親にされたことを事実として伝えていくことで、他の『虐待サバイバー』の人の助けになるかもしれないと思いました。

コーヒーと福祉を結んで多様性と可能性あふれる社会に

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私たち『にじのわコーヒー&ビアスタンド』は自家焙煎のコーヒーと厳選したクラフトビールを提供しています。目の前の一杯をきちんと入れるというのは大前提として、コーヒーと福祉を結びつけたいとも思っています。私は福祉施設で虐待を受けた経験もあるので、コーヒーやクラフトビールでより優しい社会づくりができたら良いなと考えています。店名の『にじのわ』には多様性と可能性が広がっていく人のつながりを作っていきたいという思いを込めました。その思いを有言実行していきたいですね。

また、丁寧な一杯を入れるために私自身の心身を整えることを意識しています。ロングスリーパーなので、最低でも毎日7〜8時間の睡眠を取っています。しっかりと寝ないと情緒が不安定になったり、障がい特性の弱点の部分が大きく出たりしてしまうんですよ。睡眠に関係するのですが、お酒が好きなので寝る前の深酒もなるべく控えています。あと、現場でもSNSでもそうですが、人として倫理観や道徳観がずれてしまっている人、傲慢な人、感謝のできない・しない人…などとは関わらないようにしています。残念ながら、悪質な相手と関わってしまった場合は相手に警告の上、残念ながら改善が期待できなさそうなら、SNSなどを一切ブロックすることもあります。発達障害は自分のこだわりが特性として強く出てしまいますが、同じこだわりなら”人として良くあること”にこだわりたいです。

また、メンターを始めとした私を生かせてくださっている方々への感謝も原動力となっています。彼らがいなかったら絶対に自分はこの世にもういなかったと思うんです。なので、彼らを侮辱するような行為はできません。もし、サポートしてくれた心温かな人々を裏切るようなことがあれば、私たちのにじのわは『にじのわ』ではなくなってしまうので、無職・無収入でゼロからコーヒー屋を始めたときの思いを忘れず、自分も周りも幸せでいられるお店・空間でありたいと思います。

自分と同じような障がい者や虐待サバイバーの社会への第一歩となるお店づくり

見出し③画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_平田泰之さん

2025年4月から大阪市西区にある就労継続支援B型事業所にサポートをしていただき、大阪市北区内のバーを昼間に間借りしてコーヒーとクラフトビールを提供するお店を営業しています。まずはこのお店の営業を軌道に乗せることが直近の目標です。また、マルシェやイベントへの出店も体力に無理のない範囲で引き続きやっていきたいと思っています。

中長期的な目標としては、先述の間借りでの営業を卒業して、自分たちのお店を作りたいですね。たとえば引きこもり経験がある方や私のように障がいを持っている方は支援所に通っていてもなかなか働けないこともしばしばあるので、そういった方々が最初に働くきっかけとなる店にできると良いなと思っています。私の店で働いてから独立したり、他のところで働いてもらうなど”複業”をしても構わないので、最初の一助になれたらうれしいです。

ちなみに、実際に発達障害当事者も含めた引きこもりの社会進出を支援しているお店が愛知県にあって、このお店では15分から働くことができます。お店を運営している代表と知り合うことができ、関西でも引きこもり支援のお店をやってくださいと力強い言葉をいただいているのでぜひ実現させたいですね。『にじのわ』の本来の役割が果たせる場所を作っていきます。どんなに絶望的な状況に置かれた人でも、この人たちが本来持っていた可能性と多様性を広げていけるような場を作っていくのが私のミッションだと思います。たとえば、『にじのわ』を独立した店長がウイスキー好きであれば、ウイスキーと何かをコラボさせたお店を作るのも面白いですよね。

もう一つ大きな夢があって、発達障がいや両親からの虐待、コーヒー屋を始めたことなどすべての経験から学んだことを皆さんに伝える講演活動もできたら良いなと思っています。絶望の底から這い上がった経験はまるで戦争体験のような重たい話が多くなりますが、それでも誰かの希望となれたら幸いです。