世界を旅したアートディレクターの仕事論

 田野 聖貴

田野 聖貴

column_top_TanoMasataka.jpg

「人の役に立つ・楽しませるブランドやコミュニケーションをデザインする」ことをモットーにアートディレクターとして活躍されている田野 聖貴(たの まさたか)さん。広告業界に参入することになった背景や効果のある広告制作に取り組む熱意など、思いの丈を語っていただきました。

経営学部から独学でデザインの道へ

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_田野聖貴_デザイン業へ.jpg

広告とか販促物とか、ポスター、新聞広告、Webなどの広告制作をメインに行っています。美大は出ておらず、経営学部卒です。絵や写真が好きで、在学中にアートディレクターなどの職種を知ってその道に進みたいと思ったのですが、経営学部だとすぐにはなれない。当時はWebがなく、広告は紙媒体だったので、まずは印刷の勉強をしようと印刷会社に入社しました。そこでクリエイターの方々と仲良くなり、Macを買って独学で勉強しました。

営業もできるグラフィックデザイナーとして売り出して、業界に滑り込んだところからデザイナーとしてのキャリアが始まった感じです。当時26歳くらいの頃は、日々勉強しながら仕事をしていました。専門学校からデザインの勉強をしている人たちに比べると、圧倒的にキャリアが短いので、キャリアがある人たちに負けないようにと思っていたのです。

最初の会社を辞めたとき、先に辞めたデザイナーの方が「こっちに来なよ」と言ってくれて転職しました。その会社には3年くらいいたのですが、バックパッカーにずっと憧れがあり、30歳を過ぎた頃に一念発起して「世界を旅しよう」と思い、会社を辞めました。1年間働かずに流浪の旅をして、とても楽しかったです。でもこういうのって普通は20代でやるじゃないですか。行先で会う日本人も大体20代でしたね(笑)。

バックパッカーの時に肌で体験した刺激は、今の仕事にも活かされていると思います。より自由になったなと。インドやネパールの人たちがめちゃくちゃ自由にやっているのを見て、「もっと自由にやっていいんだ!」と。思えば、そこから結構変わったかなという感じです。中国に行ってチベットに行って、チベットで聖なる山とされているカイラス山にも行きました。車をチャーターして三日かけて雪山を回る聖地巡礼のようなことをしましたね。そこからネパール、インド、スリランカに行って、お金が余ったので、贅沢にモルディブに1週間滞在してタイに行ってから日本に帰ってきました。今は妻になった女性と2人で行ったのですが、モルディブのキレイな夕陽の海岸で「告白してくれないの?!」「求婚しないの?!」とまさかの泣かれるというエピソードも(笑)。

その後、今の会社に入社して、勤続17年ほどになります。気づいたらそれくらい経っていて、さすがに居すぎだなと。新しいチャレンジをしたいと思って、副業で自分で仕事をとる動きを始めたのが2〜3年前です。今はダブルワーク中で、いろいろな人に会って刺激をもらっています。

譲れないものをつくらない!機能するデザインを目指して常にアップデートする

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_田野聖貴_デザインをアップデート.jpg

広告を制作する上で、基本的には「こだわらない」ことを意識しています。「こうしたい」という思いはあまりないのです。譲れないものをつくらない。常にアップデートしていく、今までより良い物をつくるというところにはこだわっています。強いて言えば「こだわらないことにこだわる」ことを意識しているかもしれません。得意なことをフレームにするよりは結果を出したいです。カッコいいね、素敵だね、で終わってしまうものは機能していないということになります。きちんとお客さんに喜んでもらって、結果を渡せるもの、たとえば「(このデザインのおかげで)キャンペーンがとてもうまくいった」というものでなければいけない。キレイなものだけをつくっても機能しないと役に立ちません。機能するものをつくるのがデザインなんです。

広告制作において同じものをやることはないのです。常にそう心がけているということはあっても、同じ仕事の繰り返しということにはならない。必ず同じやり方をすることが正解ではないので、毎日新しい刺激があり、どんどんやり方を変えたりしています。広告制作は新しい刺激がある仕事、という点で好きかもしれません。この仕事をやめようと思ったことは今のところ一度もないです。20年以上もこの業界にいるとノウハウやスキルもかなり溜まってきているので、次なるチャレンジとして、自分一人でもやっていけるやり方も模索しているところです。

お客さまを大切にして共につくりあげるモノづくりを

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_田野聖貴_キャンーペーンデザイン.jpg

今までは割と大きな企業さんやキャンペーンの一部のみ、パーツだけをやるというお仕事が多かったのですが、間に広告代理店が入るなどお客さんと直接会わないことに違和感がありました。お客さんではあるもののパートナーとして、一緒に商品やブランドを盛り上げていけるほうがやりがいがあります。今は相手とがっつりとタッグを組んで物づくりをするというのが楽しいですね。業界が長い分、カメラマンやデザイナーなど横のつながりが多いので、みんなで一緒に作り上げていくというのをやりたいなと思っています。「すごいよかったよ」とか忌憚のないやりとりを交わせると自分も良い効果を得られるので、これからも人と人との直接的なやりとりを大切にしたいと思っています。

著者をもっと知りたい方はこちら