
さかもと いっき
株式会社CiTADEL代表取締役、
看護師デザイナー
「自分らしく生きる看護師を増やしたい!」と、“看護師デザイナー”として自立支援事業を立ち上げたさかもといっきさん。事業のヒントを得た挫折経験や、看護業界の明るい変容を目指す強い思い、今後の展望をたっぷり伺いました。
「看護師デザイナー」。これは世界で私だけが名乗っている仕事です。元々私は、看護師として9年、看護教員として2年勤めていました。
看護業界は環境が悪いです。私が学生の頃から、「辞めたい」という声が耳に入るほどでした。上司のパワハラに苦しむ人も多く、実際に看護師になってからも、「早く辞めたい」とこぼす同期が多かったものです。
一方私は、初めのうちは精力的に働けていました。看護教員に転身したとき、パワハラを受けたことで、日に日に教職を続けることがつらくなっていきました。バス停から学校まで5分程度の道のりなのに、歩くのがつらくて20分もかかる。
「出勤したくない」と考える自分がいる。そんな自分の異変と出会ったことで、私はやっと周囲の「職場に行きたくない」という挫折を理解しました。私は自分自身の苦しみを通して、この業界に問題があることに気付いたのです。
人間関係のこじれ、夜勤に代表される過酷な労働条件、そして目の前で人が亡くなっていく精神的なストレス。こういった職場の環境の苦悩から、この先も仕事を続けていけるか不安に思う人が、多いことがわかってきました。
この状況の改善のためには、ただ職場環境の問題を指摘するだけでは無意味であることにも気付きました。問題の中心には、「人」がいるのです。
職場環境の愚痴を言うだけでは、状況は変わりません。自分自身が、「自分の人生のために何をすべきか」を考える力が必要なのです。それは「自立」とも言い換えられます。そこで私は、一般社団法人NURSEを設立し、看護師が自立するためのオンラインサロン「カンゴニア」を立ち上げました。
私が目指す「自立」の姿とは、お金や生活、人間関係など、あらゆる面においてのWell-beingです。看護師は「看護師資格がないと稼げない」と、ステータスに注目しがちです。大切なのは、「人生をどう豊かにするか」を考えることです。看護師という仕事を通して自分らしく生きてほしいというのが、私の願いです。
それでは、どうすれば自立できるのか?まずは「自分を知ること」です。看護業界は閉鎖的であるため、自らに「自分は他の人と違う」というレッテルを張りがちです。しかし、他者との比較ではなく、自分自身を理解することが、自立には重要なのです。
具体的には、さまざまな知識・体験を得ること、そのなかで発見した「自分のやりたいこと」を人に発信することです。キャリアコンサルタントなどとの会話を通じて、自分自身に「自分が何をやりたいか」を気付かせます。NURSEでは、自立を目指す看護師に寄り添い、こういった支援をしているのです。
この事業の設立には、多くの人の力が集まりました。立ち上げの構想2年を経て、LINEオープンチャットをつくるところから始まりました。クラウドファンディングで資金を集め、一般社団法人を立ち上げることができました。サービスの主軸は「自立支援」です。オンラインサロンにひもづけて、セミナーや交流会、相談会、カウンセリングといった、多様な場を設けています。
ここで出会った看護師仲間と事業を共につくっていくこともできます。看護業界の閉鎖的な空間にいる女性たちの恋愛サポートや、看護師による健康相談室など、さまざまな事業が生み出されています。このような自立支援と多くの出会いによって、看護業界を明るく変えていきたいと考えています。
日本には、看護師が160万人もいます。自立した看護師を増やすという思いの実現のため、80万人を擁する日本看護協会の会員数を超えることが最終的な目標です。そして「自立」の先に、「社会貢献をする看護師」を増やしていきたいという思いもあります。
看護師とは、医療のなかでは完全な専門職とは呼びにくい職業です。医師のように手術や治療薬の選定はできない。薬剤の調合や処方もできない。栄養指導や調理もできない。リハビリテーションもプロフェッショナルなことはできない。関わる度合いが浅いのです。
しかし、看護師には医療業界のなかで幅広い知識があります。「広い領域に携われること」こそが、看護師の強みなのです。それは、看護師が活躍できる場がたくさんあるということでもあります。看護師自身も幸せな人生を歩みながら社会に貢献することで、日本に健康を届けるプロフェッショナルな団体を目指しています。
「人生どん底まで落ちた」と思った瞬間こそ、そのあとの大きな跳躍につながります。何かに挑戦しているとき、たとえうまくいかない状況があったとしても、それは「下がっている」のではなく「ばねを引いている」のです。強く引くほど跳躍力は上がっていきます。これから何かを始める方は、「マイナスからのスタートではなく、前進のための試練」「転んだ分だけ成功に近づいた」と考えて、前向きな心で挑戦し続けてください。