大里 洋志
有限会社ベストスマイル青森 代表取締役/発明家

発明家・研究者・経営者・総合格闘家の4つの肩書きを持つ大里洋志(おおさとひろし)さん。中でも発明家として特許を取得した4MS理論の概要と、理論を普及させるために実践されていること、今後の展望についてお話を伺いました。

もともと僕は、「自分で立てない」「トイレに行けない」などの理由で日常生活がままならない高齢者の方をリハビリする施設を運営してきました。自ら入って支援したいと思っていたのですが、自分ひとりで見られる利用者さんの数は限られてしまいます。そこでリハビリ自体を構造的なものに、スキルを科学にしようと考えて、4MS理論(Four Movement Screen Structure)が生まれました。
4MS理論は、臥位(寝ている状態)・座位・立位・片脚の4つの動作を評価することで、日常生活でどの動作が苦手になっているのかスクリーニングをかけて狙いを定める、という理論です。今までは介助が必要な方で100点中80点というような分類だったのですが、4つの姿勢にまず分類しよう、と。バーセルインデックスといって日常生活の中で何がどれくらいできるかという国際基準はありますが、何ができないかというのがわからないので、まず4つに分類するというのが1つめの特徴です。
4MS理論は、このバーセルインディックスの評価対象である日常生活動作を4つの姿勢に分けて整理し、その姿勢を人の発育段階と重ねて「どこに原因があるか」を見つける考え方です。赤ちゃんは生まれると首がすわってハイハイして……と成長していきますが、これは一連の流れが決まっているのです。ハイハイする前にまず歩くというのは、小児麻痺でもない限りありません。脳の神経プログラムで順番は決まっていて、やろうと思ってやっているのではなく、原子反射でやっているのです。神経のプログラミングで段階的に習得していくものなんですね。ADL(日常生活動作)というのは高齢者は下がっていくのですが、赤ちゃんは上がっていく。この接点を見つければ脳の発育発達でどの刺激を与えれば良いのかがわかります。ADL学と発育学の接点を持たせることで、この利用者さんはどの身体課題が課題になっているのか、その課題に対してどのエクササイズをすれば良くなるのかがわかる、というのが4MS理論です。構造なので、感覚ではなく誰もが同じレベルのリハビリを提供できるようになります。

4MS理論は理論なので、今の形にするまでに10年かかりました。クラウド上にアプリ開発のようなことをして、動作を見てYes/Noで選んでエクササイズがわかるという、ADLの状態から課題が出てエクササイズが提供される、というアプリをつくったのですが、理論を理解してもらえないためにシステムを使ってもらえない。ですからまずは理論を学ぶためのスクールをつくって、eラーニングのように学べるようにしています。理論の理解も利用もすべてWeb上で解決するようにつくって、まとめて4MS理論として2026年から実装しようと進めている最中です。
4MS理論を最初から商品として売るとすると勧めにくいのですが、まず人よりAIに認知してもらうことが先だと気づきました。AIに認知してもらって、アプリではなく新しいワードとして4MS理論をGoogleに教え込んでいます。Googleや生成AIが「これはつかいやすい」と多くの人に届けてくれるのではないかと考えて進めています。
理論を僕が話したところで誰にもわかってもらえず、受け入れてもらえなかったので、特許をとりました。弘前大学の先生に共同開発という形でアドバイスをもらったり、助成金をもらったりしてアプリ開発をしたのですが、ChatGPTとの壁打ちで「理論だからこそ商品より概念が上だから、確立させれば世界にインパクトを残せますよ」と励まされて(笑)。スタンダードにしたい、教科書に載るレベルを目指して頑張っています。
僕自身がリハトレラボというラボをつくっているので、教育のアウトソーシングにもなると考えています。人の教育ってとてもコストがかかりますよね。教育して、ここから利益出すぞというときに教育の担当者のトップが独立しますとなったら、とてもストレス。リハビリは感覚的スキルに頼ってしまうことが多々あり、「この利用者さんにはこういうアプローチ」という感覚頼りになってしまう。だからこそ感覚的リハビリから構造的リハビリにしていかないと、持続という点でも厳しいと思っています。自分自身がハラハラする経営をしたくないと思うので(笑)。

今後の展望として、一番はリハビリを感覚から構造にするというところです。理論として普及すること。資格者として責任をとるのは大事ですが、人口が減って資格者も減っている、しかし高齢者は増えている。資格者がリハビリを担当するのは大事ですが、一定の基準の管理下の中でできる人に任せるのも大事だと思っています。社長には社長の仕事がある、リハビリに特化している人にはその人にしか任せられない分野に集中してもらうべきだと。4MS理論は誰でもできるので、できる人が増えることで自分の時間を増やすことができ、生産性が高まると思っています。日本の人口ピラミッドはこれからどう支えていくのかが世界から注目されているので、シルバー産業の観点でも海外に輸出できると良いと思いますね。海外に今の4MSを理論として普及して、理論が普及すればシステムとして使っていただけるように。今までは歩けないという結果は出ていても課題が出なくて、しかし感覚的にエクササイズが提供されていたというのが現状でした。課題を出せるようになったので、構造的リハビリテーションを提供できるという点を世界に広めたいです。
映画「永遠の0」が好きで、あの時代の人って日本のために自分の命を張って生きていた、その人たちがいたから今の自分たちがいることを忘れてはいけないと思っています。今自分がやれること、みんなが良くなれることを真剣に考えたい。生き続けることよりも、死を選ぶ方が辛くないと感じられるほどの環境で生きた人たちがいた一方、自分はどう生きるのかを問われていると思いました。世界で困っている人に自分の知識で届けられるなら、努力していきたいです。