「重なり合う」が形になる!小泉今日子という生き方

「パラレル活動家」として多角的な視点を持つ岡田慶子(おかだけいこ)さんの連載コラム第16回です。今回は、還暦を迎え今なお輝きを増す小泉今日子(こいずみきょうこ)さんの歩みを辿ります。役割を固定せず、自らの感覚で「表現」を拡張し続ける彼女の生き方は、変化の激しい時代を生きる私たちに何を問いかけているのでしょうか。自分らしいスタイルを築くためのヒントを探ります。
1. 「見てきた」という距離感

小泉今日子さんのことを、私は見てきました。
直接知っているわけではありません。ただ同じ世代を生きる一人として、16歳でデビューした頃から彼女がどんな選択をし、どんな変化を引き受けてきたのかを、横並びで見てきた感覚があるのです。今年還暦を迎え、『KK60 〜コイズミ記念館〜 KYOKO KOIZUMI TOUR 2026』を行うということで、メディアなどで彼女を見る機会が続いたこともあって、今回取り上げてみることにしました。
テレビのオーディション番組で勝ち抜いて、選ばれて、アイドルとして登場した彼女は、見た目にはどこかおとなしめで、少し素朴な雰囲気の女の子でした。当時トップアイドルだった松田聖子さんを思わせるヘアスタイルに、ミニのワンピースを着て歌っていて、楽曲も、ほかのアイドルと比べて際立って個性的という印象はなかったように記憶しています。
とはいえ、人気は確かにありました。いわゆる男子を中心に編成された親衛隊の数も多く、存在感のあるアイドルであったことは間違いありません。ただ、その頃の彼女は、まだ「用意されたアイドル像」の中にいたようにも思います。
ところがデビューしてほどなく、彼女は明らかに変わっていきます。髪をショートカットにし、衣装も、いわゆるアイドルらしいものから、どこかアーティスト然としたものへと移っていきました。可愛らしさはそのままに、急に輪郭がはっきりしてきて、今思えば、あの頃から、彼女はセルフプロデュースを始めていたのだと思います。それは反抗でも路線変更でもなく、与えられたイメージに合わせることでもありませんでした。自分の感覚を信じて選ぶ。「こうありたい」を表現したい姿勢やセンスが見え隠れし始め、同期デビューの中からアタマ一つ抜け出ていきました。
2. 転身ではなく、表現の「拡張」

歌の世界から俳優へ、というキャリアは、当時も今も決して珍しいものではありません。バンドのボーカルが俳優業を始めることもあれば、歌手がドラマに出演することも多く見られます。「本当は俳優になりたかったのだ」と言って、その後、歌の世界に戻らない人もいます。ただ彼女の場合、いつから「俳優でもある」と認識され始めたのか…。デビュー直後からドラマで主演を務めて高視聴率を記録し、あっという間にCM、テレビ、雑誌の表紙などで見ないことがない存在になっていった印象が残っています。
ドラマや映画、舞台での存在感は言うまでもありませんが、同時に彼女は“書く人”でもあります。読書好きであることはよく知られていて、知識を読書で補ってきたというレベルではなく、書評をまとめた『小泉今日子書評集』が刊行されるほど、言葉と真摯に向き合ってきている人。さらに近年では、楽曲の作詞も手がけています。気取ることもなく、自分の感性を信じて表現している(と感じられる)言葉への感度が、私は好きです。
実は、私が惹かれるのは、彼女の「声」。歌声や俳優として役を生きる声ではなく、インタビューやポッドキャストでの語り口とリズム。声のトーンと滑舌。あくまで私の個人的な好みですが、彼女の語り口と声のリズムが、とても心地よく感じられます。
小泉今日子さんは、歌う人であり、演じる人であり、書く人であり、言葉を紡ぐ人。それらを転身していったのではなく、重ね持って生きてきて「小泉今日子」という人になっているというのに感慨を覚えずにはいられませんし、彼女のキャリアの特徴でもあると思います。
3. 独立という選択と、「決める側」に立つこと

こうして表現の幅を広げながら歩んできた小泉今日子さんは、2018年に長年所属していた事務所から独立し、舞台の制作やプロデュース、演出といった仕事にも本格的に取り組むようになりました。
この独立は、よくある「自由になりたいから」「自分の城を持ちたいから」といった話とは少し違うようです。その後の彼女のインタビューなどを小耳に挟んだ少しの情報から鑑みるに、稼ぐ野心などよりも、一人の人間としての違和感に向き合う覚悟だったように思います。言いたいことが言いにくい空気、変わらない構造、その中に居続けることで、自分の感覚が少しずつ鈍っていくことへの抵抗の延長線上に、独立という選択があったように感じます。
会社名も象徴的です。「明日去りて後の日(あしたさりてのひ)」という「明後日」の語源が由来らしいのですが、常に未来を見つめ、一歩先のエンターテインメントを創造していきたいという意志が込められているようです。彼女の独立は、自分の感覚を引き受けること。淡々と、しかし確かな意志をもって行ってきたのではないでしょうか。
4. 「パラレル活動家」との重なり

女優、歌手、書き手、プロデューサー、経営者。検索してみると、さまざまな肩書きが並びますが、当の小泉今日子さんは、自身をどう表現するのか気になります。
今回、彼女にフォーカスすることで改めて足跡を追ってきて感じるのは、彼女がどの分野においても戦歴ともいえる素晴らしい作品や受賞を含む結果を出してきていること。そしてその多彩な活動それぞれが互いに刺激し合い、影響し合いながら、結果として「小泉今日子」というスタイルを形づくっているということです。歌うことが演じることに影響し、書くことが語ることに重なり、つくる側に立つ経験が、再び表現する側の姿勢に戻ってくる。そうした循環が、彼女を唯一の存在にしていると思います。
複数の役割を同時に生きる彼女の根底にあると思うのは「自分の感覚で選び続ける」という態度です。選び、引き受け、更新する。その繰り返しが、年齢を重ねるほどに、しなやかで揺るぎのないスタイルをつくっています。
同世代として見てきたからこそ、私は彼女を完成された像としてではなく、変わり続ける人として紹介したいと思いました。いくつもの経験が相乗効果を生み、その人ならではのスタイルになっていく。そのプロセス自体が、パラレル活動家という生き方を考える上で、大きなヒントになると思ったからです。