極真空手の全日本チャンピオンが目指す「体と心の居場所づくり」
福田美み子(ふくだみみこ)さんは、高校を卒業後、心身崩壊により入退院を繰り返すようになりました。23歳で極真空手と出会ったことで人生が一変し、全日本大会で優勝、全世界大会第3位など、輝かしい実績を誇ります。2017年には、古寺再生事業を主宰し『朱音ヨガ』をオープンするなど、さまざまな挑戦を続けています。本コラムでは、福田さんがこれまで歩んできた道についてお話しいただきました。
命懸けで掴んだ「生きる実感」
私は幼少期から感受性が強過ぎるところがあり、家庭環境などの悲しい経験から、「自分が存在することですべてを壊してしまう」という思い込みがありました。たとえば両親の離婚は私のせいという罪悪感があったり、私がいると大切なものがバラバラになってしまうんじゃないかという怖さを、いつも隠して感じていたりしている部分がありました。
高校を卒業して親元を離れた後、とにかく生きにくくて、生きていることが苦しくて仕方なくなりました。生活が乱れ、心も乱れ、恋愛がうまくいかなかったり、性的な怖い思いをしたりといろいろなことが重なりました。
それから幻聴や幻覚を見るようになり、外出もできなくなるほどの精神的な症状が現れました。時期によって鬱、双極性障害、統合失調症、依存症、解離性健忘などの病名もたくさんいただきました。自分が覚えていない時間に何かをしでかしていることもあり、普通の生活ができなくなりました。
病院で処方された大量の薬が、逆に私を悪化させました。苦しさから自殺未遂を繰り返すようになり、命を救われてはそのたびに病院に収容され、時には拘束されることも。当時いた病院では、昨日隣で会話した人が、今日当たり前のように命を落としてしまうような環境で、死生観も崩壊しました。
その後私は薬をやめる決意をし、それこそ命懸けくらい苦しい時間を耐えきって薬を抜いた結果、この世界に「生きている」と感じられる時間が戻ってきました。多くの同じような境遇だった人が亡くなったり、精神病院に入院したままだったり、罪を犯して捕まったりしている現状を目の当たりにしてきました。私が今ここに、こうしていることは奇跡のようなものだと感じます。
そこから外の世界に出るという選択をしたのですが、意外にも周りには「バレない」んです。普通にバイトを始め、少しずつ人並みの生活ができるようになりました。学校には行けなくなりましたが、生きにくさがありつつも、普通の人のように生きることができると実感できる毎日に、小さな喜びも感じるようになりました。
23歳から始めた空手で日本一に
それからは過去の辛い経験は封印し、無事に職も見つかって、普通の生活を手に入れることができました。当時は仕事か遊びかだけで、だんだん体がぷにぷにしてきて、ちょうど何か運動を始めたいと思っていました。K-1が流行っていたので、キックボクササイズなんか楽しそうだなと考えていたんです。
そんな時に友達から合コンに誘われて、そこで空手家と知り合いました。私はその場で「明日から空手始める!」と宣言したのですが、誰も本気にしていませんでした。でも、私は本当に道場に行って空手を始めてしまったんです。実はなんの志もなく始めました。でも、本能的に楽しいと思えたんですよね。
私は奇跡的に恵まれていたんだと思います。というのも、後に世界チャンピオンになるような人や、日本一になるような選手の背中を見て、その行動や選択や思考が私の中に当たり前としてインストールされたんです。美しいものではなく、ただ倒し合いのような時間でしたが、当時の私にとってはそれが心地よかったです。
おそらく100人中98人くらいがドン引きするような野獣のような光景でしたが、私は「これがやりたい」となぜか思いました。熱苦しい常軌を逸した本気が、深く響きまくりました。それまでの私が生きていた世界は死や破壊の極限に近かったのですが、道場では躍動や情熱を感じ、それが私にとって心地よく、生きる実感となったんだと思います。
その後、全日本大会で優勝しましたが、自分でも相当な努力をしてきたし、「世界一練習した」とはっきり言えるほどひたすらやり込みました。23歳から空手を始めた私は、おそらく一番遅く、一番短期間で、一番少ない経験で、一番年長のチャンピオンになりました。
5歳くらいから始めている子たちに勝たなければならなかったので、強い思いは世界一だったのではないかと思っています。当時の私は、まず自分の限界を毎日、泣いても倒れそうでも超えていくということを、それは厳しく自分に課していました。
自分一人で必死に戦っているつもりの独りよがりの失敗も経験し、私を支えてくれる人たちに、心から感謝できるようになった頃、成果や結果がついてくるようになりました。彼らにただただ感謝を伝えたくて、胴上げの瞬間を彼らに与えたかったし、ヒーローインタビューで「みんなの存在が世界一です。ありがとう」と伝えたかったのです。
もしもどれだけ自分に実力があったとしても、支えてくれる存在へ真の感謝に気づけなければ、トップに立つことはできなかったと思っています。
自分らしくいられるための居場所をつくる
可能な限りの限界突破を、自分に厳しく課し続けた結果、全身は怪我だらけで、すでに6回手術を受けており、体と心のバランスを考えた時、「動」と「静」の対極が大切だと感じるようになりました。
私の人生にも、光と闇の両方が大きな振れ幅で存在し、強さと弱さ、剛と柔、執着と手放しなど、そこをどうバランスを取るかがテーマになってきました。とことん追い込む激しさや厳しさから、穏やかで静かで柔らかな強さへシフトするタイミングがやってきたのです。
その流れで呼吸やヨガに興味を持つようになりました。特に『空中ヨガ』という天井から布を吊るして行うヨガの存在を知った時「これやりたい」と直感し、北関東ではまだ誰もやっていないと知り、1番に挑戦することを決めました。
空中ヨガができる場所として最初は古民家を探していましたが、なかなか見つからず、代わりに朽ちたお寺に出会う機会が増えました。お寺に対してどんな可能性があるのか考え始めた時、活用に困り果てた廃寺寸前の光心寺に巡り合いました。
本気でお寺と向かい合った時にスピリチュアル的な勘が働き、「私、やるんだな」と強く感じ、その瞬間、光心寺を再生することを直感的に決意しました。
老若男女50人ほどの素人仲間を集めて古寺再生プロジェクトを立ち上げ、一緒に掃除をしたり、壁をつくったり、床を張って塗ったり、出来る限り自分たちの手でお寺を甦らせました。そして、多くの人々の愛に支えられたこのお寺で、身体のレッスンを中心に活動を始めたのです。
その活動を通じて、私は身体と心が密接につながっていることを改めて実感しました。身体を入り口にして、人々の心や人生をより良い状態に導くことが、結果的にその人自身だけでなく、世界全体の幸せにつながっていきます。お寺の可能性を考えながら、イベント企画や身体から導くコーチングなどに取り組んできました。
何をしていても私のテーマは一貫していて、「命を照らす居場所をつくる」「未来を照らす命を紡ぐ」という言葉に集約されています。
そして「自分のポテンシャル舐めんなよ」というのが私の愛言葉で、まだまだここから私も新たに挑戦し続けますし、多くの人が自分の可能性を発揮しきれていないことで悩み、立ち止まっていると感じています。
だからこそ、自分をど真ん中に生きられる居場所づくりが大切だと思っています。その居場所は、さまざまな環境以前に、まず自分の身体の中にあります。自分を信じられる身体感覚、そこを整えることが最初のステップで、そこから人とつながり、支え合っていく世界が広がっていきます。
私が弱さに苦しんだ経験も、その後突っ走って突き抜けた経験も、どちらもすべてはこれからのために必要な序章だったと今は思っています。その経験が社会に活かされていく本章が、やっと始められます。
現在、真剣に取り組み始めていることが『MIND KARATE(マインドカラテ)』です。誰でもできる武道的な空手の動きと呼吸をもとに、動瞑想へ導き、心身を整えていく新しいメソッドです。
本当に多くの方が、頭で考えては悩み、自分の枠の中から踏み出せずにいます。足りないものを見てインプットばかりに力を注いでは自信をなくしています。私たちはみんな、もっと可能性に溢れているのです。人には潜在的なすごい力があるのです。MIND KARATEは「感じる知性」を磨いて、そこを引き出します。スターウォーズのジェダイのような力も眠っているはずなのです。
どうやるのかの方法ではなく、どんな自分がどんな状態で何をやるのか、その在り方が大切で、人生でもビジネスでも軸になる部分だと思います。頭で理解したつもりで動いても、腑に落ちていなかったら、何をやってもすごく弱いんですよね。腑に落ちるってことが、自信なのだと私は思います。
腑に落ちる、腹をきめる、肚落ちする、全部身体の感覚です。私たちの身体は自分で思っている以上に超優秀なのです。
私はひとりで黙々と、変態的に感覚を磨く稽古をしてきました。さまざまな特徴ある呼吸のコントロール、ビジョン実現の視点、体幹とマインドのつながり、などを自分の身体の中で具現化すると、身体の変化から心の状態が変わることを、MINDKARATEを通して伝えています。声の響きや目の力、行動の結果も変わります。
本気の人の思いが世界を変えていくと信じているので、今を本気で生きている人たちの潜在力を引き出し、背中を押していくことに役立てていきたいと思っています。
そして、在り方が変わると、出会いが変わり、人生が変わります。こんなに弱く脆い私が、今こうして喜びの幸福感を感じて生きていられるのは、素敵な出会いに恵まれているおかげです。
常に自分の感覚を澄ませ、直感を大切にしながら、ますます幸せを感じられる自分でいたいと思います。そのハッピーが溢れ出て周りにも広がり、いつもみんなが胸に愛を感じていられる世界を創りたいと、本気で思えている今がとても幸せです。