ダウン症のある人々の持続可能な活動への挑戦「子育ての経験をキャリアに活かす」

久保 雅美

久保 雅美

2024.02.28
アイキャッチ画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_久保雅美さん_プロフィール

久保雅美さんは、ダウン症のある娘と元不登校の息子の母としての経験を通じて、誰もがその人らしく在れるような個人セッションやワークショップを行っています。2019年9月には、ダウン症のある人々が自分らしく輝いて活躍できる場を広げることを目的とした一般社団法人IKKAを立ち上げ、現在も活動を続けています。親子双方のサポートを心がけ活動する久保さんに、これまでの経緯や苦労した点、今後の展望について伺いました。

ダウン症のある人が就労できるようにサポート

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_久保雅美さん_仕事体験

ダウン症のある方とその家族を支援することを目的に、一般社団法人IKKAを2019年に設立しました。現在、全国で約80家族がオンラインサロンに参加していて、オンラインでのバーチャル座談会や勉強会を実施しています。

オフラインとしては、ダウン症のある方の仕事体験プログラムを提供しています。このプログラムでは、提携企業で2時間程度の仕事体験を行い、その場で1,000円を受け取ることができます。

仕事体験プログラムのサポートは、ダウン症の子育て経験を持つ親御さんが担っています。研修を受けた後、自分の子どもではないダウン症のある方とペアを組み、サポートを行います。この取り組みは、ダウン症の子育て経験をキャリアに活かすことを目指しています。

現在、私には23歳になるダウン症の娘がいますが、子どもが生まれる前から福祉の世界に携わっていました。我が子に障がいがあるとわかり、これまでの親御さんたちのように、いつかは何かをしなければならないかとは思っていましたが、具体的な案は持っていませんでした。

そんな中で、タイの首都バンコクに2年半滞在した際に転機が訪れました。タイで偶然観た映画が、ダウン症のある人々との生活を描いたドキュメンタリーだったのです。

ダウン症のある人々が一人で働くのは難しいですが、彼らをよく知る人がそばにいれば働くことができるというヒントを得ました。その映画の中で紹介された、タイの富裕層のダウン症のある人が生まれた家庭では、幼少期から社会人になるまで住み込みで働く家庭教師を雇っていたのです。

タイでの経験から気づきを得る

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_久保雅美さん_自然学習

タイでの滞在を通じて、日本で当たり前のことが他国では当たり前でないことを知ることができ、非常に有意義な経験でした。たとえば学んだことのひとつは、お金はかかりますが、希望すればいつまででも学び続けられることです。

娘が通うことになったインターナショナルスクールの養護学校では、20歳を超えたダウン症のある人が勉強していました。勉強したいときにいつでもできることは、新たな発見でした。

他に感じたことは、ダウン症のある人がいつでも学べる環境があれば良いということです。日本でもゆっくりと学べる場所が身近にあっても良いと考えました。制度が整った日本でタイのような取り組みを行うことは容易ではありません。また、タイの富裕層が行うような住み込みで家庭教師を雇うことも難しい状況です。

一方で、面白い取り組みからヒントを得て考えたのは、親を交代したり、親子同士を入れ替えて互いに支え合うことです。偶然出会ったコンサルタントに相談したところ、「僕が応援するからやりなさい」と言われ、取り組みを始めました。

まずはブログによる情報発信からのスタート。別のメンターにも講演会に出ていただくなど応援してもらい、多くの人に支えられて立ち上げることができました。

まだオンラインでのコミュニケーションツールが認知されていない時代から、Zoomでの説明会を開催して、30名近くの方に参加いただきました。参加者の半分近くが最後まで残ってくださり、面白い方々ばかりだったので、一緒に何かを始めようと思ったのが始まりでした。立ち上げ時は、私よりも巻き込まれた周りの方々が大変だったかもしれませんね。

持続可能な活動を目指して

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_久保雅美さん_ダウン症の就労の支援

現在、集まっている方々は、あきらめが悪いお父さんお母さん達と、私は表現をしています。日本ではさまざまな制度が整備されており、誰もが路頭に迷うことなく生活できるように配慮されています。

しかし、「本当に現状に満足してよいのか」「改善の余地はないのか」と、日々模索しています。特に、ダウン症のある人たちの親御さんの中には同じような感覚を持っている人が多いので、自然と人が集まりました。

ダウン症のある人には知的障がいがあるので、養護学校からそのまま福祉施設に通うのが通例です。そこで、オンラインサロンの参加者と「何か行動を起こせないか?」と模索してきた結果、「ダウンインターン」という仕事体験プログラムに参加したうちの2名が一般のアルバイトをすることができるようになりました。福祉の施設は閉鎖的な部分もあるので、社会と接点が持てるようになったということはとても嬉しかったです。

障がいを持つ子どもの親は、「この子たちはお金は要らないですし、お金に興味はないです」と言うことがあります。しかし、ダウン症の当事者たちが仕事体験をすることで、「もっと働きたい!もっとお金が欲しい!」と望むことがあり、これは非常に喜ばしい変化だと思います。

本人たちが仕事を求めているにも関わらず、親御さんがその意欲を抑え込んでいる現状を変えていく必要があると感じています。親御さんは非常に好意的で応援してくださることもありますが、実は何かをチャレンジする時に、意外と身内の方が賛同してくれないことが多いですね。もちろん、子どもを大事に思うからこそなのですが、親御さんに新しい視点を持ってもらうことも狙いつつ活動をしています。

私自身は、支援者から当事者へと立場が変わったため、活動への動機は強いものがあります。以前は、障がいのある人が一人暮らしを希望したり、アルバイトをしたいと言い出したときに、親から否定されるのを見て悔しい思いをしたことがあります。

現在は当事者として親御さんの立場も理解していますので、親子双方を支援することを心がけています。さらに、今後は持続可能な活動を目指し、研修やダイバーシティへの理解を深めるためのイベントができればと考えています。

著者をもっと知りたい方はこちら