「誰もがおしゃれを楽しめる世界に」義足の少年との出会いが生んだファッションブランドの立ち上げ秘話

川副 泰門

川副 泰門

2024.06.17
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川副泰門(かわぞえたいと)さんは、国際医療福祉大学で理学療法士の資格を取得後、企業に就職しながら自身のファッションブランドである『SECTIO』を立ち上げました。「誰もが当たり前におしゃれを楽しめる世界」を目指して活動されています。単なる服好きの大学生だった川副さんが、どのような経緯でブランドの立ち上げに至ったのか、これまでの経緯を伺いました。

義足の少年との出会いがターニングポイント

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_ 川副 泰門さん

僕は長崎県出身で、国際医療福祉大学で理学療法士の勉強をしました。資格を取得後、愛知県名古屋市の『合同会社ThinkBodyJapan』に入社し、現在は地元長崎に戻り、ファッションブランド『SECTIO』の代表を務めています。

大学生のとき、僕は服が大好きで、いつもクリエイティブな友人に囲まれ、写真を撮ったり撮られたりすることが日常的でした。そんな中、『メンズノンノ』にたまたま掲載される機会があり、ファッションへの興味がさらに深まりました。

最初は興味の延長でしたが、「ファッション業界でやっていけないか」と考えるようになりました。興味本位で知り合いにデザインを依頼し、それをTシャツにプリントして、学校で手売りもしました。半分遊びのようなものでしたが、自分たちの作った服が売れたときは、本当にうれしかったですね。そこから「自分のブランドを持つのはかっこいい」と思うようになりました。

一方で、父の影響もあり理学療法士として人の役に立ちたいという思いもありました。それでもファッションへの情熱も捨てきれず、進路に迷っていた時、義足の小学5年生の男の子との出会いがあったのです。彼が着ていた服は義足の部分がビリビリに破れていました。「どの服もすぐ破れるから仕方ない」という彼の言葉に衝撃を受けました。

僕はそれまで、「自分が着たい服を好きに着てオシャレを楽しむ」というのが、誰もが当たり前にできると思っていました。でも、障がいがあることでファッションを楽しめない現実を目の当たりにし、これは自分が取り組む課題だと感じたのです。

そこから理学療法士の資格を生かしながらファッションブランドを立ち上げ、「障がいのある人も含め、みんながオシャレを楽しめる世界をつくろう」と決意しました。”心に火が灯る”とは、まさにこのことです。

クラウドファンディングで多くの支援を集める

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_ 川副 泰門さん

大学を卒業して名古屋に引っ越しましたが、旅行でも行ったことがない土地だったので、知り合いが1人もいませんでした。まずは人とのつながりをつくることが大切だと思い、積極的にイベントに顔を出しました。

その中で、今では恩師と呼べる方に自分のやりたいことを打ち明けたところ、「障がいのある人たちの友達はいるの?」と尋ねられました。僕が首を振ると、「まずは、そういう人たちとつながりを持つことから始めてみては?」とアドバイスをもらいました。

この助言をきっかけに、名古屋駅周辺で障がいのある人に声をかけ、洋服の悩みを聞く活動を始めました。主に車椅子に乗った方々でしたが、約30人から話を聞いた結果、多くの人が同じような悩みを抱えていることがわかり、「これはやるべきだ」と確信したのです。

でも、当時の僕には洋服を作るための資金がありませんでした。そこで、半年くらいかけて企画書を練り、それを社長に提出して、「プロジェクトとして予算を出してほしい」と直談判しました。幸いにもその提案は受け入れられて、それは初期費用にさせていただきました。

その後は、クラウドファンディングを使って資金調達に挑戦。クラウドファンディングは、洋服がまだ完成していない状態で「これから頑張ります」と応援を求めるスタイルでした。多くの人から「達成は難しい」と言われましたが、結果的に230万円以上の資金が集まり、本当に驚きました。

クラウドファンディング期間中、毎日、自分の思いやこれまでの経緯、そしてこれからの目標をデザインと共に発信し続けました。その全力の取り組みが、多くの人に思いを伝え、応援していただけた理由だと思います。その資金で、2023年10月に初めて『SECTIO』の展示会を開催することができました。

目標はグッドデザイン賞を獲得すること

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_ 川副 泰門さん

現在、理学療法士である父が経営する介護施設やIT関連事業の事業承継に励んでおり、その間に経営を学びながら自分のブランドを展開する計画を立てています。

『SECTIO』は、インクルーシブデザインのアイテムに注力しています。先日の展示会ではその一部をお披露目することができましたが、知名度を上げるための宣伝活動がまだまだ必要です。

『SECTIO』の究極の形を追求して、より多くの人に受け入れられるデザインを完成させたいと考えています。そのためには、今年1年間を準備期間と捉えて、土台を作るつもりです。

標は、グッドデザイン賞を獲得することです。受賞することで、『SECTIO』が高いデザイン性と社会的意義を持つことの証明になると信じています。『SECTIO』が提供する、カスタマイズ可能な洋服を通じて、すべての人が同じプロダクトでオシャレを楽しめるようになれば、最高です。

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