波乱万丈の体験を経て農業の課題に立ち向かう経営者が語る「コミュニティ内で経済圏をつくる」

甲斐 雄一郎

甲斐 雄一郎

2024.07.31
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「農業×IT」の可能性に焦点をあて、株式会社農情人を立ち上げた甲斐雄一郎(かいゆういちろう)さん。「農業は儲からない」という前提を変えるべく、コミュニティ形成やNFT、書籍出版などにチャレンジし続けています。事業立ち上げに至るまでの波乱万丈な経歴や今後の展望などを伺いました。

始まりはタイのチェンライ。ホームステイで農業の課題に衝撃

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_甲斐雄一郎さん_農業

私が農業に興味を持ち始めたのは20歳のときです。大学2年生の夏休みに、大手旅行会社が企画するスタディツアーに参加しました。タイの北にあるチェンライの村でホームステイしたのですが、初めての海外で、村に着くまで土の道を進むような田舎だったのでとても驚きました。

ホームステイの間は小学生くらいのお子さんと遊ぶことが多かったのですが、すごく笑顔がキラキラしていて素敵だと思う一方、10代の女性がまったくいないことに気がつきました。ホームステイ先のgp家庭にも娘さんが4人いるけれど、全員バンコクに出稼ぎに行っているとのこと。娘さんたちの稼ぎで生活を賄っていることに衝撃を受け、出稼ぎ以外に選択肢はないのかと、自分なりに考えるようになりました。

それから東南アジアを中心にいろいろな農村を回るようになり、回れば回るほど課題があることを知りました。どこも内需が十分でなく、内側で経済圏をつくれていないという現状だったのです。当時、私は理系の工学部で情報系の学科に所属していたため、経営や金融の知識がなかったので、やりたいことと現実とのギャップが激しかったですね。英語も話せない状態だったので、まずは語学も身につけつつ、経済の知識も得たいと思い、イギリスのマンチェスター大学に入りました。

転職、コロナ禍を経て国内で独立

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_甲斐雄一郎さん_コンサルティング

卒業後、就職までの空いた時期にインターンとしてカンボジアに行きました。帰国してからは専門商社に入社。ソーシャルビジネスをやっている印象があったので入社したのですが、国内専門の機械商社の部門に配属されてしまったのです。正直ギャップは辛かったですが、入っていきなり文句を言っても仕方ないので、最初は素直に学ぼうと経理の仕事をしていました。それでも3カ月くらいで飽きてしまって(笑)

入社して1年目の1月に、新規事業でアグリビジネスの社内公募があったので応募しました。無事に配属され、日本向けのレタスをつくって売るという事業を3年ほど続けましたが、自分はやはり海外に行きたい思いが強かったのもあり、入社して4年半で会社を辞めました。もともと農業は単価が高いモデルではなく、現在はその事業自体も畳んでしまったようです。農業はどこの企業もあまりうまくいっていない、というのを体感しました。

転職したアクセンチュアでは、大学で学んだ情報系の学問の経験を生かして、ITのコンサルタントを担当しました。その後に農業ベンチャーに転職し、そこでようやく海外事業に携わりました。2020年の1月にタイに駐在し、現地でイチゴの生産支援を進めたのです。

しかし当時、新型コロナウイルスの波がきて、大打撃を受けました。婚約者との入籍届を出すため一時帰国していたタイミングでコロナが加速して、タイ政府がロックダウンをかけたのでタイへ帰国するチケットをキャンセルせざるを得なくなりました。結局タイには2カ月滞在したきりで、その後はリモートワークに切り替わってしまいました。

半年ほどは電話でタイのメンバーとやり取りして、イチゴ生産の仕組みづくりなどの支援をしていましたが、コロナは一向に収まらず、タイに戻るにしても少なくとも1年以上はかかる見込みでした。そこで本当に自分がやりたいことを色々と考えた末に、会社を辞めて日本で独立することにしたのです。

コミュニティ内の経済圏づくりを目指す

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_甲斐雄一郎さん_農業とコミュニティ

2021年8月に立ち上げた株式会社農情人は、その社名のとおり、農業×情報×人財で儲かる農業を目指しています。利益が出ていない農家さんでもできるような、メタバースや生成AI、web3関連の技術を使うきっかけをつくるコミュニティを運営しています。ほぼ無償でのトマトNFTの発行支援などが挙げられます。農家さんとしてはプロモーション料なしでトマトを売ることができ、NFT発行の実績もできます。

事業と呼べるほどではありませんが、農業軸では2022年からNFTの発行を中心に行っています。現状では、農業軸での事業の売上はまだ出ていません。ライフワークかライスワークかと言われると、ライフワークに近いですね。

もともと書くことが好きで、Kindleなら誰でも本が出せるので書籍も出しました。書籍をきっかけに今のコミュニティができたのです。今では1000人近くまでに増え、割合としては農家さんは1割ほどですが、他のメンバーは塾講師や医療系のコンサルをされている方など、農業に課題を感じて何かをやりたい、と思っている方々です。

農業にweb3、AI、NFTを取り入れて、将来的には持続可能な農業経営のしくみを創りあげることがテーマです。日本もアジアも、農業は儲からないというのが現状の課題としてあります。しかしそれでは農家さんも辛いですし、現実的に廃業する農家さんも増えています。

この現状から脱却するために、コミュニティが鍵になると考えています。コミュニティの中でも経済モデルをつくれると良いかなと思っています。スーパーで安いトマトを買うのも良いけれど、この人のトマトなら1万円でも買う、みたいなことがあって良いと思うのです。コミュニティ内での通貨をつくるなど、コミュニティの経済圏をつくっていきたいですね。

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