引退試合に特化した格闘技イベントのプロモーターが描く展望「スポーツの本質を取り戻したい」

星野 真生

星野 真生

2024.09.13
column_top_( Hoshino Mao)

星野真生(ほしのまお)さんは、17歳から23歳までプロボクサーして活動した後に、28歳でSEOライターとして独立。30歳でプロボクサーとして現役復帰し、2023年1月21日に、自身の引退試合を自主開催し、大成功を収めました。現在は引退試合に特化した格闘技イベント『HEARTS』をプロモーターとして企画しています。何歳になってもチャレンジし続ける星野さんに、ボクシングを始めたきっかけや、今後チャレンジしたいことを伺いました。

高校生でプロボクサーとしてデビューするも、プロの厳しさを痛感

見出し1画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_  星野真生さん

僕は5歳の時に野球を始め、将来は野球選手になることを夢見ていました。田舎で子どもの数は少なかったものの、周囲からは才能があると評価され、高校は野球の強豪校に進学しました。しかし、地元を出て初めて感じたレベルの違いに圧倒され、人生で初めての挫折を経験。高校1年の終わりには野球部を退部することになりました。

それまで野球しかしていなかった僕は、急に目標を失い虚無感に襲われました。そんな中、格闘技の観戦が好きだったことを思い出し、通学中に目にしていた古びたボクシングジムに足を運びました。これが高校1年の終わり頃のことで、僕がボクシングを始めたきっかけです。

野球とボクシングには共通点が多く、ジムに入った当初からセンスがあると評価されました。そして、ジムに入会して1年でプロテストに合格。デビュー戦も早かったのですが、そこから4連敗という厳しいスタートを切りました。

高校時代は、地方の小さなジムに所属していたため、少ない選手の中で目立つ存在でしたが、プロに転向後の4連敗は「ボクシングを辞めた方がいい」と周りに言われるほどでした。それでも僕は自分が全力を出し切っていないと感じ、もっと大きな舞台で挑戦したいと考えました。そして大学進学を機に東京に移り、具志堅ジムへ移籍しました。

初日の練習でいきなりレベルの違いを目の当たりにし、一時は心が折れそうになりました。しかし、チャンピオンクラスの選手たちと共に練習する中で、自分の過去の練習量では勝てるはずがないと痛感したのです。

当時高校生だった井上尚弥選手や、弟の拓真選手とのスパーリングなどからも大きな刺激を受け、本気でボクシングに取り組む決意を固めました。こうして18歳から本格的にボクシングを始め、23歳までプロボクサーとして活動しました。

引退試合を行うために、クラウドファンディングで資金調達

見出し2画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_  星野真生さん

大学を卒業する時に、僕の周りでは独立や起業を選ぶ人が多かったのもあって、普通に就職することに対して抵抗感を持っていました。プロボクサーを引退後、アルバイトをしながら「パソコン1つで独立できる」という話を聞き、ブログのアフィリエイト広告やWebメディアの記事作成を始めました。そして、28歳の時にSEOライターとして独立しました。

23歳でプロボクサーを引退してからは、ボクシングはおろか運動すらしていませんでした。試合を観戦することはありましたが、自分が再びリングに立つことはないと思っていたのです。

そんな時、仕事でお世話になっていた方と話す機会があり、自分にはまだやり残したことがある、と感じ始めました。特に、未練のある敗戦でキャリアを終えたことが心に引っかかっていたのです。

小さい頃に憧れていたスポーツ選手の夢が再燃し、「このままでいいのか」と自問するようになりました。そして、家の近くにあったボクシングジムに足を運び、再びプロボクサーとして復帰しました。

僕は自分でイベントを企画したいという思いが強く、引退試合やメインイベントを自ら手がけたいと考えていました。しかし、プロボクサーが自ら興行をうつことはルールとして不可能であり、とても悩んだ結果、最終的にジムを辞めてフリーのプロボクサーとして独立する道を選びました。

独立すると自由が広がる一方で、課題も出てきます。特に大きな問題は、試合を開催する会場を確保することや、対戦相手を選ぶことです。知名度や人脈、資金が不足していたので、試合ができるような会場を借りることができなかったり、僕のような無名選手の対戦相手になってくれる選手を見つけることがなかなかできませんでした。そこで、僕はクラウドファンディングを通じて想いに共感してくれる仲間や資金を集め、自分の引退試合を行うことを決意しました。

僕がもともと憧れていたプロ野球選手は、パワフルで派手なタイプというよりは、小柄ながらも活躍する選手たちでした。体が小さくてもプロになれることを見せてくれた彼らの姿に勇気をもらい、僕も野球に打ち込むことができたのです。プロボクサーとしては負けが続きましたが、それでも引退試合で会場を満員にできれば、僕のように負け続けて悔しい思いをしている人や、夢を持った子どもたちに勇気を与えることができるのではないかと考えました。

自分が小さい頃に憧れたスポーツ選手のように、体が小さくても、負け続けても、夢は叶えられることを証明したかったのです。その思いから、試合には子どもたちを無料で招待することにしました。これは、大好きなキングコングの西野亮廣さんのやり方を完全に真似させていただきました!(笑)

クラウドファンディングでは100人を超える方々から112万円の支援をいただき、目標を達成。試合当日には400人を超える観客が集まり、子どもたち約80名を無料で招待することができました。

来てくださったお客様からの反響がすごくて、「こんなに盛り上がっている格闘技イベントは見たことがない」「子どもたちの一生懸命な声援に感動した」といった声が寄せられました。

スポーツの本質は、選手一人ひとりの「思い」

見出し3画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_  星野真生さん

今後は、格闘技選手の引退試合に特化したプロモーターとして活動していきたいと考えています。ボクシングの有名選手の中には、興行の一部として引退式を行うこともありますが、引退試合のみのイベントはありません。

引退試合を行う機会は有名選手に限られているのが現実ですが、引退試合を希望している選手はたくさんいると思います。そうした選手たちの引退試合をプロデュースしたいと考えています。

最近、SNS上では「バズること」が目的化している傾向に違和感を覚えます。スポーツの本質は、選手一人ひとりの「思い」にあります。もちろん勝利を目指すことは重要ですし、勝利がプロにとって最大の価値であることは間違いありませんが、負けた選手の価値にも光を当てていきたいのです。

僕の目指すところは、インフルエンサーなどによる集客を考えたり、不特定多数の人を呼ぶことではなく、その選手を応援してくれた身近な人たちにその姿を見せ、感動を与えることです。僕自身も身近な人だけを呼んで、引退試合は大成功に終わりました。SNSでバズったり話題性を追い求めるのではなく、選手を支えてくれた人々に感謝を伝える舞台を提供することで、スポーツの本質を取り戻したいと考えています。