全盲を強みに変えて『暗闇ヘッドスパサロン』を立ち上げた経営者が発信する未来へのメッセージ

浅井 純子

浅井 純子

アイキャッチ画像_嶋村吉洋社長が主催するワクセルのコラム_浅井純子さん

30歳まで健常者として暮らし、病気で全盲となった後に、暗闇ヘッドスパサロン『純度100』を立ち上げた浅井純子さん。現在は盲導犬ヴィヴィッドと共に小学校のゲストティーチャーをしたり、精力的に視覚障がい者、盲導犬について啓蒙しています。現在もチャレンジし続けている力の源は何なのか、ご自身の経験談も併せてお話しいただきました。

私が仕事をする理由

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私は『純度100』という暗闇ヘッドスパサロンを経営しています。今は全盲ですが、いきなり見えなくなったのではありません。15年かけて徐々に視力を失っていきました。

最初の7年間は入退院を繰り返していて、そのときは終わりの見えない長い年月でした。しかし、「いつ終わるのかを考えても無意味だ」と思えるようになってからは、考え方がポジティブになっていきました。目が悪くなることによって強くなれたところです。

生まれつき全盲ではないので、視覚情報のすごさを私は知っています。視覚情報は、余暇を楽しむために最も重要な要素です。でも今の私はストレスがたまったからと、ウィンドウショッピングすることは出来ません。旅行に行っても景色は見えないし、食事に行っても、食べてみて初めて「おいしい」となります。

だから「楽しいことは何?」と聞かれても答えられません。でも、生きていく必要があるし、快適な生活を送るために過ごしています。

私が「なぜ働くか」というと、人の世話にならないようにするためです。健常者もみんな1人で生きるのは難しいなかで、私はなるべく自分で出来るところは自分でやりたいという人間です。

たとえば、友人と食事に行って1人で帰るときにその友人に送ってもらうのは嫌です。自分でタクシーをつかまえて帰るから大丈夫と言いたいので、いつでもタクシーで帰れるように働いているようなものです。

全盲を生かした『暗闇ヘッドスパサロン』

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視覚障がい者が社会に出ると、職業を選択することができません。現実は“働く”ということがとても難しいのです。だから、視覚障がい者が楽しみながら「明日も仕事がんばろう」と言えるような職場をつくりたいと思っています。

私は全盲なので、私が出来ることだったら弱視の人も出来るはずだし、全盲の人も努力すれば出来るという考えです。かごバックのような手で編めるものだったら出来るんじゃないかと思って、実際につくっている事業所へ直接見学に行くこともしています。

その活動をしているときに、友人から「視覚障がい者が施術するマッサージを取り入れたい」という相談をもらいました。ですが、私はすぐに無理だと断りました。

“勝つ”という表現が1番イメージがつきやすいと思うので敢えて使いますが、目が悪いと健常者には勝てないんです。施術では負ける気はしません。だけど、SNSや作業、それ以外のことも全部ひっくるめて経営となるので、どうしてもそこでは勝てません。

最初は断っていたのですが、そうしている間に出資者が3人も現れ、「そこまで言うなら」と考えたのが、『暗闇ヘッドスパサロン』です。

マッサージは国家資格ですが、ヘッドスパは国家資格がなくても技術を教えればできます。そして、暗闇だったら健常者にはできないだろうと思ったんです。自分の強みを生かしたものができあがりました。

本の出版、講演活動、そして盲導犬のゲストティーチャー

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ご縁があって、2022年にKADOKAWAさんから『目の見えない私が「真っ白な世界」でみつけたこと』を出版しました。私のtwitterや新聞に掲載したコラムを、編集者が読んでくださっていたのがきっかけでした。

Twitterは4年ほどやっていますが、文章を考えるのが難しいと思いながらも継続して発信しています。コメントを読んで「こんなことを知りたかったのか」と実感することもあるので、Twitterは私の情報源です。情報収集するために大切なものなので、200以上のコメント全部にリプライしています。

私はWordが使えず、iphoneのメモ機能でしか文章を書けません。週1だけ仕事をさせてもらっているマツオインターナショナルの社長が、そのことを聞いて会社の方たちに手伝うよう声をかけてくださいました。

私は音声入力で書いていって、誤字脱字のチェックやWordに打ち直すのは秘書の方に手伝ってもらいました。Twitterで文章を簡潔にまとめるクセがついていたので、2カ月もたたないうちに書き終えていました。大変だということは全然なくて、出版されるのを楽しみにしていたくらいです。本を出版したことで、考え方や生き方についての講演依頼が企業から来るようにもなりました。

盲導犬ヴィヴィッドがいるので、盲導犬のゲストティーチャーもやっています。始めたきっかけは、盲導犬を連れていると入店拒否のお店が多かったからです。世の中で盲導犬の周知は広まっているのに、こんなに入店を拒否されることがあるのかと驚きました。

大人の脳を変えるのは難しいので、子供の頃から盲導犬についての話をして実際に盲導犬を見てもらおうと考えています。子供のうちから意識を変えていこうとしても、すぐに何かが変わるわけではありません。でも、10年後にこの子たちがアルバイトをしたときに、このゲストティーチャーをしたことがきっと生きてくると信じて活動しています。

盲導犬がお店に入っていくのは普通のこと、そして盲導犬がどんな風に待機するのかをその目で見てもらう。10年後にその子たちが社会に出たときに希望を持って、今も活動をつづけています。