
キャリア10年越えの元人事マネージャーがサロンオーナーとして描く『健康経営セカンドステージ』

スタッフが心身ともに健康に働ける『健康経営』をモットーにしたヘッドスパ専門店『希翠(きっすい)』のオーナー・赤羽亜希(あかばね あき)さん。現在はサロンのスタイルを変えて運営をしています。サロンの変遷の経緯や今後の展望を伺いました。
スタッフの成長の秘密は出退勤システムにあり!

10年前に三軒茶屋で『ヘッドスパ希翠』をオープンしました。前職で13年ほど美容業界の人事マネージャーをやっていた経験を活かしてお客様だけでなく、働くスタッフも心身ともに健康になれる『健康経営』を体現したサロンを作ったんです。
スタッフのモチベーション管理に効果的だったのは、すこやか職場『スコキン』という一般社団法人すこやか職場が提供する出退勤時の打刻システムでした。1カ月に1回の研修で学ぶよりも毎日何かを継続することが非常に大事だと思うんです。この打刻システムは出勤時の打刻で今日やろうと思っていることをアンケート形式で答えないと打刻できない仕組みになっています。たとえば、「お客様に新メニューを紹介しますか?」のようなアンケートが出てくるので、それに「やる」「やらない」「できたらやる」などのどれかを回答します。出勤時に自分と約束するんですよ。退勤時は出勤時の目標が達成できたかをまた「できた」「できなかった」「忘れた」「やる気が起きなかった」といった回答をします。
「わからない」という回答もできて、必ずやらないといけないというわけではなく逃げ道も用意しているんです。意識啓発と行動変容の支援ツールという感じです。この出退勤システムを8年ほどやっていたので、スタッフはみるみる成長しました。私が朝礼で言うよりも毎日の始まりと終わりに振り返ることで自然と仕事ができるようになっていくので継続は大切だと実感した経験でしたね。経営者側も人財育成ストレスフリーで良いですよ。
健康経営の取組み成果として、売上、リピート率も向上し、生産性は上がりました。求人費用をかけることなく働いてくれる人が見つかったこともありがたかったですね。集客は私自身が動いていたので、いろんなコミュニティに参加していました。
ライフステージの変化によってスタッフが激減

今年2025年で会社設立からちょうど10年が経ちます。自分で言うのも何ですが、私の会社は働きやすいのでスタッフの定着率がいいんです。当社フェリコ株式会社は女性が仕事と家庭を両立させられるという理念を掲げてやってきました。
女性が働きやすいということは大前提だったのですが、10年後の各々のライフステージまでイメージできていなかったので、私も社員のみんなと一緒に成長してきたんです。女性のライフステージで育児、体調、環境で、こういうこともあるんだなとスタッフを通して目の当たりにしました。
2023年、2024年にコロナ禍のマイナスをプラスにしていこうとした時に、11人のスタッフのうち8人が結婚、転勤、独立、出産、離婚、引越、怪我、病などが重なり働けなくなってしまう事態になりました。出産で育休に入るスタッフは戻ってくる場所を残しておかないといけないので新しく人を雇用することは積極的にしていませんでした。みんなが健康で働き続けられることは当たり前ではないんですよね。私自身も3人の子育てでいろいろなことがありましたし、最近は親の介護の問題も出てきています。
たった10年で重なっていろいろなことが起こるなら、店舗経営に執着しなくても良いのかなと思い始めたのが昨年でした。慌てて採用した人は、10年いるスタッフにわずか数ヶ月では到底レベルが追いつきません。そこで、スタッフと話し合いの結果、指名のご要望に応じてお客様を対応できるスタッフに振り分けて、三軒茶屋にあるシェアサロンで施術をしてもらうように独立支援をしました。現在、新規と指名のないフリーのお客様は、外苑前にある美容室の一室を借りて運営しております。サロンがあってスタッフを雇用するのではなく、スタッフは業務委託で商材を卸すという運営スタイルに変更しました。
サロンを閉店してシェアサロンの運営を目指す

もともとヘッドスパ専門店を経営したいわけではありませんでした。たまたま前職で13年ほど美容業界の人事マネージャーをやっていた時に、やっと技術が身につき接客力も上がったところで、辞めていくスタッフをたくさん見ていて、女性が働きやすいお店をつくろうと思い、10年前に独立。第1ステージであるこの10年で自立自走できるスタッフを育成し卒業させたので、第2ステージでは卒業したスタッフたちのサポートとして紹介制のシェアサロンを運営しようと思っています。
最近は個人事業主が増えていると思うのですが、サロンをつくるのはリスクがありますよね。私もサロンの家賃として毎月50万円を払って運営していた時に、場所代は大きなネックでした。私がサロンを閉めようと思った理由には人員不足の他に家賃の値上げもあったんです。マンションの一室だと家賃を抑えられるので、隠れ家サロンのような形でやっている方も多いです。しかし、看板が出せなかったり、配管工事ができなかったりという問題点があり、せっかく国家資格もあって、本当はウエットのヘッドスパがやりたいのにドライヘッドスパしかできないというように提供するサービス内容に妥協して施術している人もいます。技術があるのにこんな場所でやっているんだ、もったいないと思う人もいるので、月額でも時間貸しでも使いやすい形のシェアサロンをつくりたいです。
セラピストだけでなく、個人事業主の方はコミュニティが大切だと思います。悩みを持っている個人事業主が多いので、気軽に話せる場を設けて心身ともに健康な人が集うシェアサロンにしたいですね。お客様を共有しても良いかなとも考えています。ヘッドスパに来たけど腸セラピーにも興味があるというお客様がいたら、同じシェアサロンにいる腸セラピーができる人を紹介したらお互いに良いと思うんです。その時も『スコキン』を活用して、雇用関係がなくても関わる人たちと一緒に成長できる行動変容を促し、場の雰囲気を整えていきます。個人事業主同士のコミュニケーションが取れる場にもなって、仕事場であり、お客様をそれぞれのスペシャリストに紹介し合えるようなシェアサロンをつくって、個人やママさんのセラピストを応援していくのが私の次のミッションだと思います。
