日本人の半分以上が「伝え下手」って本当? 言葉と声で、自分を語る

林 真梨子

林 真梨子

2025.04.28
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眠れない夜の小宇宙へようこそ

子どもの頃、よく蛇の夢を見た。

ある夜は、白い大蛇に竹藪でぐるぐる巻きにされた上で食べられ、ある夜は、洞窟の天井から蛇 がぼとぼと私の肩や首に落ちてきた。家の玄関をあけると、エプロンをかけた蛇がお盆をもって 出てくるなんてこともあった(どうやってお盆を持っていたかは覚えていない)。

「蛇、苦手なのに、なんで毎日、出てくるのーーー!」

毎夜トラウマ級の試練。よって私は、まだひらがなも読み書きできないうちから22時超えの夜更かし常習犯になった。だって寝ると怖い思いをするから、できるだけ寝たくない! 家族が寝静まった布団の隅でひっそりと一人、魔法や恐竜や宇宙のストーリーを想像して過ごしていた。

毎夜こうだったから、当時、周りの同級生が何を考えていたかは分からないが、私は
「宇宙ってなんだろう」
「いつか死ぬのに、どうしてわざわざ生まれるの」
みたいなことをよく考えた。子どもの脳内って、本当に小宇宙だ。仏様や幽霊の考察もしたし、たぶん、ちょっと変わっていたんだと思う。

そんな”ちょっと変わった”脳で過ごす毎日は、私の五感を大いに刺激した。たとえば、みんなが「つまらない」と嫌がった雨の日。けれども私にとっては、雨粒が落ちる音、水同士がぶつかる音、埃のような土の匂いを味わえる、とってもいい日。縁側に布団を敷いて特等席をつくり、ゴロンと横になって何十分も眺めていた。 

「面白い」じゃ伝わらない、私の世界

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ただ、こういった『感覚』先行の価値観は、共感を得るのが難しい。一見、価値観を表現していそうな「面白い」とか「気持ちいい」「綺麗」「楽しい」なんて言葉は、実は抽象的すぎて、何がどう楽しいのか、阿吽の呼吸で一致している人にしか通用しない。価値観が「ちょっと変わって」しまうと、 共通言語になりえなくて…正直、つらい。

かつて「アメリ」というフランス映画がヒットしたが、その主人公くらい底抜けの明るさがあれば、人に理解されていなかろうが、逆に周りを魅了できたかもしれない。しかし私は普通のシャイな日本人。「アメリ」とはいかなかった。結果、分かってもらえないのだから口数は減り、思いを胸に押し込める癖がついてしまった。 


日本人の半分以上が「伝え下手」って本当? 

ある統計によると、日本人の58%が、自分は伝え下手だと思っているらしい。いったい何をどう伝える場合の統計なのかよく分からないが、肌感覚として納得する人は多いのではないか。

悲しいかな、「伝わらない(伝えられない)」が続くと、人の心は止まってしまう。 私はボイストレーナーでもあるので「声」の話をよくするが、声の源は呼吸である。呼吸と書いて字のごとく、息を吐いて吸う。これで私たちの命はつながれている。その呼吸から生まれるのが 「声」だ。話すという行為は、口からまっすぐのびる「息の道=命の道」の上を、「声」という車が進んでいくと例えることができる。そして声を出した分だけ、また「命の息」を取り込むのだ。

声を出せない、話せない、伝えられないのは、自分の命を止めてしまっているのと同じだ。息を吐ければ本来の生命力ある声が響く。どのくらい変わるかは、音源URLを貼っておくのでご興味あれば聴いてみてほしい。 
https://vimeo.com/777726794/3c8d542473

伝わる言葉は、あなたの過去に眠っている 

さて、音源を聴いた方はビックリしたと思うが、声の変化だけでこれほど伝わる力が爆上がりする。ならば、言葉も磨いたらきっと最強! 幼い私が伝えられなくてボッチ感を味わった「雨の日の美点」だって、きっと「いいね」と共感されるように伝えられるはず。私も声だけを磨いて結果が出たとき、次は言葉だって思ってワクワクした。

でも、そのあと難なく私は失敗する。伝え上手を目指して、語彙力武装に走ったが、結果は最悪なものだった。いくら書籍を読んだり演習をしても、所詮はハリボテ言葉だった。言葉に実感をもてず、口先で話している感じがひどかったものだ。しばらく続けたところ、自分の本音が分からなくなってしまった。
では、どうしたらいいか。私からは、人生を振り返ることを強くおすすめしたい!あなたの『これまで』に、あなただけの言葉が、たくさん眠っている。

たとえば、「キレイ」を伝えたいとき、体験ベースで伝えれば、Aさんはダイヤモンドのような白銀の輝きを伝え、Bさんは透き通った川の水だと伝え、Cさんは整理整頓された部屋だと伝えるなど、三者三様の価値観と、それぞれの人柄まで伝わってくる。思えば、蛇の夢を見ていた子どもの頃、私は自分の感じたことを表現する言葉を持っていなかった。怖いもの、苦手なものを避けてきた。でも今なら、その経験すら、自分の言葉で語れる。そして語ることで、同じような思いをした誰かに届くかもしれない。

命の声を響かせて 

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私は現在、自分の価値観を再発見する「伝わる」声と話し方講座、プロのインタビュアーが人生を深堀りし、自分語りで人生史を映像化したり、ビジネスの強みを言語・ビジュアル化する映像制作サービス「思い出シネマ」シリーズを展開している。

「自分の言葉を持つ」ということ。「自分の声で語る」ということ。それは共感を生むとともに、その人の生きる力になると信じているから。

だから、ただの音ではなく、ただの記録ではなく、「その人が生きた証」としての声と言葉と映像のサービスを広めていきたい。その話はまた。