遺産分割協議に応じない相続人がいる場合の対処法|弁護士がケース別に解説

相続問題の解決に尽力する弁護士・鈴木理司(すずき まさし)さんによる連載コラムです。一人でも合意が得られず、手続きが止まってしまう遺産分割。「相手が応じない理由」の裏にある背景を紐解き、前に進めるための視点と向き合います。
遺産分割は相続人全員の合意がなければ成立しません。相続人のうちお一人でも協議に応じていただけない場合、預貯金の解約や不動産の名義変更を進めることができず、手続が止まってしまいます。こうした状態でお困りの方は少なくありません。
しかし、「応じない」といっても、連絡が取れないのか、内容に納得していないのか、感情的な対立があるのかによって、取るべき手段はまったく異なります。
このページでは、応じない理由を6つのケースに分け、それぞれについて「何を確認し、どう対処すればよいか」を解説します。
目次
1 はじめに
2 ケース別|応じない理由と対処法
3 それでも進まない場合|遺産分割調停・審判
4 相続人が多い場合は、相続分の譲渡で当事者を整理できることがあります
5 まとめ
6 ご相談のご案内
1 はじめに
⑴ 遺産分割には相続人全員の合意が必要です
相続人が数人いる場合、相続財産は相続人全員の共有となり(民法898条1項)、これを分けるには相続人全員による協議が必要です(同907条1項)。
ここで押さえていただきたいのは、相続分の大小は関係がないという点です。相続分が8分の1の方であっても、その方の合意がなければ協議は成立しません。多数決で決めることはできない仕組みになっています。
これは、相続人一人ひとりの権利を守るための制度です。したがって、協議がまとまらないまま手続が止まっている状態そのものは、特別なことではありません。問題は、止まったまま時間が経つことにあります。
⑵ 放置すると状況は悪くなります
ア 相続登記をしないと過料の対象になります
2024年4月から相続登記が義務化され、原則として3年以内に登記をしないと過料の対象となります。過去に発生した相続も対象です。
もっとも、遺産分割が終わらなければ通常は登記ができません。この場合は、自分が相続人であることを法務局に申し出る「相続人申告登記」という制度を利用すれば、過料を避けることができます。遺産分割がまとまった後に、あらためて登記が必要です。
イ 10年が経つと、介護や生前贈与の事情を主張できなくなります
相続開始から10年が経過すると、原則として、特別受益や寄与分を考慮しない、法定相続分どおりの分割になります(民法904条の3)。
「長年親の介護をしてきた」「兄だけが多額の援助を受けていた」といった事情を、一切主張できなくなるということです。
ただし、10年が経つ前に家庭裁判所へ遺産分割を申し立てていれば、この制限は適用されません。話し合いが続いている場合であっても、期限が近づいているのであれば、いったん調停を申し立てて期間の進行を止めておくという判断があり得ます。
なお、2023年3月以前に発生した相続については、相続開始から10年を過ぎた後も、2028年4月1日までは主張することができます。
ウ 相続人が増えます
遺産分割をしないまま相続人の一人が亡くなると、その配偶者やお子様が新たに当事者として加わります。これが二代、三代と重なると、当事者が数十人になることも珍しくありません。面識のない親族全員から同意を得る作業は、極めて困難です。
2 ケース別|応じない理由と対処法

遺産分割に応じないといっても、その理由はさまざまです。理由が違えば、取るべき手段も変わります。
まず、ご自身がどのケースに当たるかをご確認ください。
ケース1 連絡が取れない、所在が分からない
ケース2 連絡しても返事がない
ケース3 分割の内容に納得してもらえない
ケース4 相続人に認知症の方がいる
ケース5 感情的に対立している
ケース6 そもそも遺産の範囲で揉めている
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ケース1 連絡が取れない、所在が分からない
【どのような状態か】 長年疎遠になっている、海外に移住している、住民票の住所に住んでいないなどの理由で、そもそも連絡が取れないケースです。前妻・前夫との間のお子様など、他の相続人が存在を知らなかった相続人が、戸籍を調べて初めて判明することもあります。
【最初に確認すること】 戸籍の附票を取り寄せてください。住民票上の住所の変遷が記載されているため、これで現住所が判明することがあります。相続人であれば取得できます。
【対処法】 附票の住所に手紙を送っても届かない、あるいは調査を尽くしても所在が分からない場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。裁判所が選んだ管理人がご本人の代わりに遺産分割に加わることで、手続を進めることができます。
生死不明の状態が7年以上続いている場合には、失踪宣告という方法もあります。ただし、亡くなったとみなされる時期によっては相続人の顔ぶれ自体が変わるため、慎重な検討が必要です。
【ご相談をお受けしています】 戸籍の収集や住所の調査だけでもご依頼いただけます。弁護士であれば必要な戸籍をまとめて取得できますので、ご自身で進めるより早く相続人と所在を確定できます。調査の結果、所在が分からなかった場合には、そのまま不在者財産管理人の選任申立てに移ることができます。
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ケース2 連絡しても返事がない
【どのような状態か】 住所も電話番号も分かっていて、書類も届いているはずなのに、返答がないケースです。積極的に反対しているわけではなく、手続が面倒である、何をどう判断してよいか分からず不安である、他の相続人と関わりたくない、といった理由であることが多いです。
【最初に確認すること】 送った書類が実際に届いているか、そして相手に何を求めているのかが伝わる内容になっているかをご確認ください。「遺産分割の件でご連絡ください」とだけ書かれた手紙では、相手は動きません。
【対処法】 弁護士名義で内容証明郵便を送付します。これまで何度連絡しても返答がなかった方から、弁護士名で送った途端に連絡が来ることは、実務上よくあります。
その際、次の3点を明記することが重要です。
① 遺産の内容と、具体的な分割案の提案
② 回答期限(2週間から1か月程度) の設定
③ 期限までに回答がなければ、家庭裁判所に調停を申し立てることの予告
返事をしない方の多くは、手続の煩雑さに困っています。「署名押印していただければ、あとはこちらで手続します」と道筋を示すことで解決に至ることも少なくありません。
【それでも回答がない場合】 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります(→3 それでも進まない場合)。
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ケース3 分割の内容に納得してもらえない
【どのような状態か】 話し合い自体はできているものの、条件面で折り合いがつかないケースです。不動産をいくらと評価するか、生前の援助を相続分の前渡しとして計算に入れるか(特別受益)、介護や家業への貢献をどう評価するか(寄与分)、といった点が典型的な争点です。
【最初に確認すること】 相手が何に不満を持っているのかを特定してください。金額なのか、特定の財産を取得したいのか、過去の経緯なのかによって、提案すべき内容が変わります。不満の中身を確かめないまま譲歩案を出しても、的外れになります。
【対処法】 不動産のように分けにくい財産については、次の方法を提案します。
・代償分割 一人が不動産を取得し、他の相続人に相当額の金銭を支払う方法 ・換価分割 不動産を売却し、その代金を分ける方法
評価が争点になっている場合は、複数の不動産業者から査定を取ることで、議論の土台を作ります。
なお、遺産に非上場株式が含まれる場合には、株主総会が開けず会社の運営そのものが止まる可能性があるという、他の財産にはない問題が生じます(→遺産に非上場株式が含まれる場合の記事)。
【それでもまとまらない場合】 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります(→3 それでも進まない場合)。
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ケース4 相続人に認知症の方がいる
【どのような状態か】 相続人の一人が認知症を発症しているなど、判断能力に問題があるケースです。話し合い自体が成立しませんし、形式的に署名押印を得られたとしても、後から遺産分割協議が無効とされるおそれがあります。「同居している家族が代わりに署名した」という対応は、協議のやり直しにつながります。
【最初に確認すること】 判断能力の程度をご確認ください。主治医に診断書を作成してもらうことが出発点になります。程度によっては、ご本人が単独で遺産分割に参加できる場合もあります。
【対処法】 家庭裁判所に成年後見人(判断能力の程度により保佐人・補助人)の選任を申し立て、後見人がご本人に代わって遺産分割に加わります。
ただし、次の2点にご注意ください。
・後見人はご本人の利益を守る立場ですので、法定相続分を下回る内容の分割には原則として応じません
・成年後見は遺産分割が終わっても終了せず、ご本人が亡くなるまで続きます。後見人への報酬も発生することがあります
【ご相談をお受けしています】 成年後見人の選任申立てには、ご本人の財産目録や収支予定表など、多くの資料を準備する必要があります。ところが、ご本人の通帳等をお持ちでない場合、金融機関はご親族であっても開示に応じません。申立てのために財産を調べたいのに、調べるための権限がない、という状態になりがちです。
また、上記のとおり、いったん後見が始まると、遺産分割が終わっても後戻りできません。遺産分割全体の見通しと併せて検討する必要がありますので、申立ての前にご相談ください。
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ケース5 感情的に対立している
【どのような状態か】 ケース3と異なり、条件を調整しても解決しないケースです。「金額の問題ではない」と言われる、法外なハンコ代を要求される、生前の親子関係や介護をめぐる不満が根にある、といった状態です。相続をきっかけに、何十年も前の出来事が持ち出されることも珍しくありません。
【最初に確認すること】 ご自身が相手と直接連絡を取り続けていないかをご確認ください。このケースでは、当事者同士が直接話し合うこと自体が事態を悪化させます。感情的な応酬になり、その記憶がさらに合意を遠ざけるためです。
【対処法】 弁護士や調停委員という第三者を間に入れ、当事者が直接顔を合わせずに済む状態を作ること自体が、有力な解決策になります。
第三者が入ることで、次の効果があります。
① 感情的な言葉が取り除かれ、争点だけが整理される
② 「相手に言われたから飲めない」という心理が働かなくなる
③ 手続の見通しが示されることで、相手も現実的な判断をしやすくなる
実際に、長年こじれていた事案が、代理人を立てた途端に数か月でまとまることがあります。
【ご相談をお受けしています】 このケースでは、代理人を立てること自体が対処法です。ご自身で交渉を続けても、時間の経過とともに対立が深まるおそれがあります。
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ケース6 そもそも遺産の範囲で揉めている
【どのような状態か】 どの財産が遺産に含まれるのかをめぐって争いが生じているケースです。亡くなった方以外の名義になっている預金や株式、生前や死亡直後の預金の引出し、生命保険金の扱いなどが典型例です。
【最初に確認すること】 金融機関から取引履歴を取り寄せてください。相続人であれば、他の相続人の同意がなくても取得できます。いつ、いくら引き出されているかが分かれば、争点が具体的になります。
【対処法】 注意が必要なのは、遺産の範囲についての争いは、話し合いや家庭裁判所の調停だけでは決着をつけられないことがある、という点です。
「この預金は本当に亡くなった方のものだったのか」といった争いは、本来、地方裁判所の訴訟で決めるべき問題とされています。家庭裁判所も遺産分割を進める前提として一応の判断はしますが、後から訴訟でひっくり返ると、せっかくまとまった遺産分割をやり直すことになります。
そのため、本格的な争いがある場合には、先に地方裁判所で決着をつけてから遺産分割に進む、という順番を取ります(→名義預金の記事/→使途不明金の記事)。
【ご相談をお受けしています】 どの手続をどの順番で使うかによって、解決までの時間と費用が大きく変わります。動き出す前にご相談ください。
3 それでも進まない場合|遺産分割調停・審判

交渉を尽くしても合意に至らない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
⑴ 調停とはどのような手続か
調停委員が間に入り、相続人それぞれの言い分を個別に聞きながら合意を目指す手続です。他の相続人と同じ部屋で顔を合わせることは、原則としてありません。
⑵ 必要な書類
亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本・住民票、遺産に関する資料(不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書など)を集めます。
相続関係が複雑な場合、この収集だけで数か月かかることがあります。弁護士に依頼すれば、まとめて取得できます。
⑶ どこに申し立てるか
申立ての相手とする相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。相手となる相続人が複数いる場合は、そのうちの一人の住所地の家庭裁判所に申し立てることができます。
遠方にお住まいの方がいる場合も、近年は電話会議やウェブ会議が広く認められており、実際に出向く負担は以前より軽くなっています。
⑷ 申立てにかかる実費
収入印紙:亡くなった方1人につき1,200円
郵便切手:数千円程度(裁判所により異なります)
⑸ 期間の目安
申立てから第1回の期日まで1か月から2か月程度、その後は月1回程度のペースで進みます。半年から2年程度で成立に至ることが多く、遺産の範囲や評価に激しい争いがある場合には、さらに時間がかかります。
⑹ 他の相続人が調停に出てこない場合
調停は話し合いの手続ですので、他の相続人が出頭しなければ成立しません。この場合、調停は不成立となり、自動的に審判に移ります。
審判は、裁判官が資料に基づいて分割方法を決める手続です。他の相続人が出てこなくても手続は進み、結論が出ます。
つまり、他の相続人が応答しないままでも、手続が永久に止まってしまうことはありません。
⑺ 資料を出してもらえない場合
一部の相続人から、通帳などを開示してもらえないことがあります。この場合、家庭裁判所を通じて、金融機関や生命保険会社に直接照会をかけることができます。他の相続人の協力がなくても、遺産の全体像を把握することが可能です。
⑻ 弁護士費用(当事務所の場合)
着手金:55万円(税込)程度
報酬金:得られた経済的利益の11%から16.5%(税込)程度※経済的利益とは、遺産分割によって得られた取得額のことをいいます。
実際の金額は、次のような事情によって変わります。
・相続人の人数
・遺産の種類と数(不動産の数、非上場株式の有無など)
・財産調査が必要かどうか(金融機関への照会、使途不明金の調査など)
・争点の内容(特別受益や寄与分の主張があるかなど)
・交渉で解決できるか、調停・審判まで進むか
遺産の範囲について別途訴訟が必要となる場合は、別に費用が発生します。初回のご相談時に、見込額をお示しします。
4 相続人が多い場合は、相続分の譲渡で当事者を整理できることがあります

相続人が多数に及ぶ事案では、全員から同意を得ること自体が最大の障害になります。
このような場合、遺産に関心がなく、早く手続から離れたいと考えている相続人から相続分を譲り受けることで、遺産分割の当事者を減らすという方法があります。「当事者を減らす」という発想は、実務上、有効な場面が少なくありません。
ただし、次の点にご注意ください。
・相続分を譲渡しても、借金などの相続債務を当然に免れるわけではありません
・家庭裁判所に申し立てる相続放棄とは、別の制度です
・誰から譲り受けるか、対価をどうするかは、個別の検討が必要です
具体的な手続や注意点については、別の記事で解説します(→相続分の譲渡・放棄の記事)。
5 まとめ

遺産分割協議に応じない相続人がいる場合、まず確認すべきは「なぜ応じないのか」です。理由が違えば、取るべき手段も変わります。
そして、いずれのケースにも共通していえるのは、放置することの不利益が、近年の法改正によって大きくなっているということです。相続登記の義務化、10年の期間制限、相続人の増加は、いずれも時間の経過とともに状況を悪化させます。
相手が応じないのだから仕方がない、と諦める必要はありません。相手が一切応答しない場合でも、調停から審判へと手続は進み、必ず結論は出ます。
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