橘 祐史
知財経営コンサルタント
NAV国際特許商標事務所 代表弁理士

中小企業を対象に知財経営コンサルティングを提供している、株式会社知財ビジネスリンクの代表を務める橘祐史(たちばなゆうし)さん。知財経営コンサルティングという仕事の内容や、仕事を始めるに至った経緯、仕事への想いについて語っていただきました。

弁理士は、企業が特許を取得するために特許庁に提出する出願書類をつくり、提出して申請、登録までを代理でおこなう仕事です。しかし、特許を取ればすぐにビジネスにつながる、売上が上がるわけではありません。取った特許をどうやって売上につなげるかを具体的にアドバイス、伴走してアドバイスするのが知財経営コンサルタントです。
アドバイスするためにも、まずはビジネスそのものの現状を把握します。特許庁にある出願のデータベースで各社がどれだけ出願しているのか、分野ごとに分析することができるIPランドスケープというツールがあるのですが、どのような分野でどのような課題を解決するために企業が出願しているのかをチャートで見られるので、各社たくさん出しているところもあれば分野によっては、全然特許出願されていないところもあるのがわかります。そのチャート、マップを見て、ブルーオーシャンは誰もやっていない、つまり市場がない分野かもしれませんが、そこを新しく開拓していくのか、技術力に自信があるからレッドオーシャンで入っていくのか。そこは社長判断ですが、後押しするのが我々知財経営コンサルタントの仕事です。

弁理士になったきっかけは、昔旭化成で事業戦略、設備投資の編成をやっていたころに遡ります。当時は新しいビジネスモデルを設計することに興味がありました。特許技術を台湾の会社にライセンスして、その会社が工場をつくるというので台湾にいた時期もあります。病気で日本に戻り、間もなくして会社で新しくインターネットビジネスを立ちあげることになって、そこに加わることになったのです。
25年ほど前ですが、当時のデジカメで食事の写真を撮って会社のサーバに送ると画像診断、分析をして、糖質が多い、もっと野菜をとったほうがいいといったアドバイスをする仕組みをつくりました。ビジネスモデルの特許出願をすることになったのですが誰もやり方を知らないので、自分で調べて出願をしたのです。そこから特許法の勉強を始めたら、面白くて深くはまり込んでしまって、弁理士の資格をとって独立したのが業界に入ったきっかけです。
弁理士の仕事は出願の手続きを代理でおこない、特許を取るだけ。どういう売上をつくるのかまでは踏み込めないので、それならコンサルティングでどうやって売上に繋げるかまで関わろうと思いました。
アメリカにインターネット上で特許技術のやりとりをする、いわば特許技術のAmazonのような仕組みがあったので、日本でもやろうと思い、最初はインターネットモールをつくりました。しかし当時の日本にはアメリカのようにインターネット上でやり取りをする風土がなかったので失敗してしまったのです。日本でその風土がないことに加え、技術屋さんはプライドが高いので自分の技術が一番だと思っている。他人の特許技術をわざわざ使いませんし、他社に教えたくないからモールをつくっても誰も出品しなかったのです。
インターネット上でやり取りをするにしても、特許権の価値、鑑定書みたいなものをつくらないと価格をつけられない。価格をつけたりビジネスモデルをつくることもやっていました。そこから今は、インターネット上ではなくいわゆるリアルの世界でも特許の価値がいくらくらいあるのかを算定したり、ビジネスモデルをつくったり、IPランドスケープを提供したり、ということをやっていますね。

多くの方が特許を大企業のものだと思われていて気にされていないのですが、中小企業の方々が工夫してやっているものをビジネスモデルとして、「特許を取ってみたらどうですか?」と提案することもやっています。ただ、特許を取るとなると「難しい!」と毛嫌いされるので、まずは、ビジネスモデル特許のラフデッサンとして、経営者の頭の中にあるモヤモヤを「ポンチ絵」(経営課題の「見える化」サービス)にするお手伝いをしています。絵に描くことで、「強み」や「課題」が明確になり、クライアントからも「見えなかった課題がよくわかりました!」「モヤモヤがすっきりしました!」と喜ばれています。
自分では当たり前と思っていても、少し視点を変えると特許になる技術がたくさん眠っているのです。視点を変えて「自分でも特許をとってみたい」と思う方がいればアドバイスができると思います。特許はマーケティングツールとしても効果的に活用できるので、特許は守りと思われがちですが、攻めの側面もあります。
今後も中小企業を対象としたビジネスモデル特許に力をいれていきますが、業界はあまり絞らないつもりです。たとえば商店街の方がご自身のビジネスをある方向に変えたら、そのモデルが特許になって広がっていくというような、そこのコンサルも一緒にやりながら伴走しながらやれたらな、と。やらないで後悔するよりやって後悔するほうがいいと思っています。外からいろいろ言われることもあります。特に大企業の保守的な方は、新しいことをやるのが怖いですから。
昭和30年代に社長になった人たちはアントレプレナーシップをお持ちだったので、他社にもどんどん積極的に働きかけていたのですが、若い世代はその方々が上にいるので失敗を恐れるんですね。これは検討したのかとかあれは検討したのか、といった視点をたくさんあげて全部解決しないかぎり前に進まないような、マネジメントが上手い人ばかりがトップに立っている状態です。
市場を細かく見つつ、自分が一番力を発揮できる場所を見つけること、それが自分のコンサルの仕事のひとつでもあると思っています。