「薬を使わない」民間療法を活かして医療費削減に挑む。5つのプロジェクトを動かす作業療法士が目指す未来
高橋和也(たかはしかずや)さんは、NPO法人Goldenshipの理事長を務めています。作業療法士として活動しながら、旅行支援、農業や土木、観光農園、出版やイベント業など、多岐にわたる活動を行っています。超高齢社会において医療費を削減するために活動する高橋さんに、現在の活動の原点や、今後のビジョンについて伺いました。
「人の役に立ちたい」という思いから始まった作業療法士への道
僕は、兵庫医療大学を卒業したあと、関西電力病院で急性期やICU、回復期など、多種多様な現場を経験をしました。現在は病院を辞めて独立し、リハビリ業をしながらNPO法人の運営や観光農園の支援など、さまざまな事業を展開しています。
高校生の時、将来の職業について考えていた僕は、「人の役に立ちたい」という思いを大前提に持っていました。母から作業療法士や理学療法士という職業があると教えてもらい、その仕事内容について調べていくうちに、とても面白そうだと思いました。
理学療法士は、筋肉を診たり、歩いている基礎動作を診たりします。一方、作業療法士は「楽しいことをしながら身体機能を診る」という、活動を通して身体機能を診るところが魅力です。人と関わることが好きな僕にとって、その人の身体能力を向上させるという仕事はぴったりだと思いました。
仕事選びでも大切にしている「人の役に立ちたい」という思いは、両親譲りだと考えています。両親は、他の人に貢献しているときに喜びを感じる人でした。父親は、僕が大学生のときに亡くなってしまったんですが、葬儀に700人以上の人が来てくれました。ただの銀行員だったのですが、多くの人に尽くしてきたのだと感じました。この「人の役に立ちたい」という強い気持ちは、遺伝子レベルかも知れません(笑)
5つのプロジェクトや事業を同時に進行
僕は今、5つのプロジェクトや事業を展開しています。
1つ目は、作業療法士としての活動です。これまでの経験を生かして、作業療法士としてもさまざまな場所で活動しています。
2つ目は、NPO法人『Goldenship』の理事長としての取り組みです。ここでは、健康な高齢者を増やし、医療費を下げ、税の使い道を考える活動を行っています。特に注目しているのが、こんにゃくや里芋などの野菜を使って、体を暖めたり冷やしたりする伝統文化です。“薬を使わない”健康施策の認知を広げるための活動に力を入れています。
3つ目は、NPO法人『サポートマーク』の理事としての活動です。『サポートマーク』とは、障がいのある方が助けを求めやすくなるための証明マークで、この普及に努めています。障がいがある方は、赤い障がい者マークを付けているんですが、実は体調を崩したときに周囲の人に助けを求められない人が多いのです。
そんなときに「サポートマークを付けていたら、助けを求めやすくなるのではないか」というアイディアが生まれ、取り組みがスタートしました。現在では、ピザハットさんと提携したり、ロンドンブーツの田村淳さんが取り上げてくれたりと、少しずつ認知が広がっています。
4つ目は、和歌山の観光農園の人材開発部長としての役割です。ここでは、お母さんやお父さんがゆっくりできる場所づくりに力を入れています。
そこのオーナーは、子どもを産んでから鬱っぽくなってしまったそうなのです。それは子どもと関わりすぎてしまったり、自分たちがゆっくりする時間がなかったり、さまざまな要因があると思います。
そこでオーナーが立ち上げたのが、スタッフが子どもたちの面倒を見て、両親は自然豊かなところでのんびりするという観光農園です。スタッフが子どもと遊んでくれるので、親たちはゆっくりすることができます。親子両方が楽しめる環境を目指しています。
5つ目は、ビジネス書を音楽にするという従来になかった取り組みです。音楽って、一度聞いて覚えたら、自然に口ずさんでしまうこともありますよね。それならば、本の内容を音楽にすることで、読書と同じような効果が得られるのではないかと考え、このプロジェクトを始めました。
「無意識的な教育」というテーマもあり、10代20代の読書離れを防止したいという思いもあります。また30代40代の新曲を知らない人たちに、トキメキを与えたいとも考えています。
これら5つのプロジェクトや事業を通してさまざまな課題解決に取り組み、多角的なアプローチで社会貢献を目指しています。
高齢者を元気にすることで医療費削減を目指す
今ではさまざまな事業に関わっていますが、病院を辞めた後は苦労ばかりでした。詐欺にあったり、一度はホームレスのような生活になってしまい、インターネットカフェにお世話になったこともあります。
はたから見たら失敗だという経験でも、僕は失敗とは思っていません。いろいろなことがあった中で、多くの人に支えられてきたという自負があります。彼らに恩返しをするためにも、こうした経験を糧に無我夢中で行動しています。
今後は、特にNPO法人『Goldenship』の取り組みの普及に力を入れたいと考えています。高齢化社会が進むなか、2025年から30年には、2.5人から3人に1人が高齢者になると言われています。社会保障費の中で高齢者に使われる額は40兆円以上にも上ると予測されています。
だからこそ、元気な高齢者を増やしていけば医療費が下がっていくわけです。その入り口として、野菜を使って炎症を抑えたり、身体を冷やしたりする民間療法に注目しています。キュウリパックやアロエの活用など、昔から伝わる伝承や伝統文化を取り入れ、野菜のミネラルや抗炎症作用、抗酸化作用を活用していく取り組みを広げていきます。
さらに、廃棄野菜などを活用することで、社会貢献にもつなげていきたいと考えています。これらの活動を通して、最終的には医療費削減につなげることを目標としています。