レダ ジャパン株式会社 代表取締役
上野伸悟 × ワクセル
レダ ジャパン株式会社の代表取締役である上野伸悟(うえのしんご)さんは、25年以上も生地の仕事に携わっており、なかでもウールに特にこだわっているところから、『ウールマン』として親しまれています。環境に優しく、優れた機能性を持つウールの魅力を伝えながら、環境問題について発信する活動もされています。
ワクセル総合プロデューサーの住谷とメディアマネージャー三木が、ウールの扱い方やアパレル業界が及ぼす環境問題についてなど、上野さんにお話を伺いました。
夏は涼しく冬は暖かい、防汚性も高いウールの驚くべき機能性
三木:上野さんはウールをこよなく愛する『ウールマン』として知られています。世の中にウールの素晴らしさを伝えるために活動されていて、ファッション業界に一石を投じるような発信にも注目が集まっています。本日は、業界についての正しい知識を上野さんから伺いたいと思います。まずは、ウールが他の繊維素材とどう違うかお聞かせください。
上野:繊維は大きく分けて『天然繊維』と『合成繊維』があります。天然繊維は自然から生まれたもので、合成繊維は石油などから生まれたもの。
ウールは羊の毛から作られているため、天然繊維に含まれます。また、ウールは羊が過酷な環境を生き抜けるよう、 “夏は涼しく冬は暖かい”という特徴を持っています。さらに防汚性が高いので汚れがつきにくく、落ちやすい。頻繁に洗わなくてもよいため、水や電気の使用も少なくすみ、最後は土に還って養分となるという、とてもエコな素材です。
三木:近年は「ウールが環境に良い」と注目されていますが、なかにはウールの扱い方に悩まれている人もいると思います。私も洗濯機に入れて、縮めてしまったことがあります。
上野:ウールは擦るだけなら縮まず、濡らしただけでも縮みません。ただ、この両方が合わさると、『フェルト化』といって繊維が絡み合って縮んでしまいます。ウールは汚れにくいので洗わないのが一番なのですが、洗う場合は水に浸して、ウール用の洗剤で軽く押してあげる程度で十分です。汚れが落ちやすい繊維なのでそれでキレイになりますよ。
僕はレダ ジャパンでウールを仕事で扱うようになりました。あまりの着心地の良さに驚き、ウールのよさを知ってしまってからは、それ以外のものを着られなくなってしまいましたね。今日もインナー、下着はもちろん、靴下や靴もすべてウールです。
イタリアファッション界のレジェンド「チェルッティ」の偉業
上野:僕の経歴を順番に説明すると、高校卒業後はプロゴルファーを目指していました。しかし、自分で決めた期限までにプロになれなかったので22歳でゴルフをやめ、生地の代理店に勤めることになったんです。代理店にいた時には、イタリア留学をしています。
その後、レダ ジャパンの創立メンバーとして営業職に就いたのですが、給料面に関するミスマッチから退職。転職先の日本のアパレルメーカーで洋服の作り方を勉強している際に、「Lanificio Cerruti Japan (ラニフィチオ・チェルッティ・ジャパン)の社長をやってくれないか」と声をかけてもらいました。
チェルッティとは人の名前で、イタリアファッション界のレジェンドです。つい先日91歳でお亡くなりになりました。今でこそ「ファッションといえばイタリア」というイメージがありますが、実はイタリアは"ファッション後進国"でした。 イタリアには縫製工場がありますが、当時はロンドンやパリの下請けという存在でした。誰も見向きもしなかったイタリアの生地を、チェルッティが世界に広めたと言っても過言ではありません。あのジョルジオ・アルマーニ(ファッションブランド「アルマーニ」の設立者)もチェルッティの下で働いていたんですよ。
20年以上前から環境問題に配慮してきた生地メーカー「レダ」
三木:ラニフィチオ・チェルッティ・ジャパンで社長をしていた時に、レダ本社から「戻ってきて」と熱いラブコールがあったと伺っています。
上野:2018年の年末に、突然レダ イタリア本社の人事部長とのミーティングがセッティングされ、「営業マネージャーとして戻ってきてほしい」と言われました。しかし、当時の私はチェルッティ・ジャパンの社長に満足していたので、「(レダ ジャパンの)社長じゃなきゃ嫌だよ」と伝えたら「じゃあ、社長でいいです」と返事をいただけました。
冒頭でも話したとおり、レダが作るウールの生地はものすごくいいものなんです。自分でも“欲しい”と思うほど高品質だったので、「社長になったらこの洋服を着て、みんなに知ってもらうことができる」と胸が高鳴りましたね。
さらに、当時は環境問題への取り組みに注目が集まっている時期でした。レダは20年以上前から環境に負荷をかけない活動を続けていて、ソーラーパネルで発電し、水資源を無駄にしないためにろ過施設を持っています。環境問題を世の中に広めるという僕がやりたかった活動とマッチしたので、レダ ジャパンへ戻ることを決意しました。
完全オートメーション化された工場で生産、圧倒的な"コスパ"
住谷:20年以上も前から環境問題について取り組まれているとは驚きです。上野さんが思うREDA(レダ)の一番の強みとはなんでしょうか?
上野:レダは1990年代に工場を一新しているのですが、その時に完全オートメーションのサステナブルな工場を作りました。CO2をあまり出さず、水をキレイにすることを考えて設計されています。
現在はサステナブルに関心が高まり、環境保全に取り組む会社が多いと思いますが、レダは20年以上前から行っているので何も変わりません。レダの工場見学に行くとロボットが糸を運んでいるのが見られますよ。完全オートメーション化して作られているので、他のイタリアブランドの生地に比べると、品質がいいのにとてもお手頃な価格です。圧倒的に"コスパ"がいいところが強みだと思っています。
それでも高いと言われますが、みなさん洋服を買うときに値段しか見ていない人が多いですよね。洋服を買うときは「何でできていて、誰が作っていて、最後どうなるか」を意識して買ってほしいと思います。
洗濯するだけで環境汚染につながる事実
三木:洋服を買うときに見るべきところを具体的に教えていただきたいです。
上野:今では多くの衣服が海外で作られていて、非常に安く売られています。品質やブランドにもよりますが、Tシャツが1着1,000円で売られていることもありますよね。でも、それは生地を作っている人がお金をもらえていないということなんです。洋服があまりにも安すぎると「作っている人たちが苦労している」と、思ってもらいたいですね。
安いから海外で作ることが多いですが、それにより日本の縫製工場は仕事が無くなり、どんどん潰れています。日本で貧困が増えているのは、国内の仕事が少ないことも影響しているはずです。そして、この問題はアパレル業界に限ったことではないと思います。
住谷:短期的に物事を見た結果が今の状況なんですね。上野さんの今後のビジョンについても伺いたいです。
上野:多くの人がポリエステル製の洋服を持っていると思いますが、実は洗濯するだけで環境汚染につながっているということを知ってもらいたいです。ポリエステルから出るマイクロプラスチックが海に流れて汚染物質と合体し、それを魚が食べているので魚の中はプラスチックだらけと言われています。私たちはその魚を食べているわけです。WWF(世界自然保護基金)が過去の研究を分析した結果、私たちが1週間に摂取するプラスチックの量はクレジットカード1枚分にもなるそうです(※1)。まずはそういった事実を多くの人に知ってほしいですね。
また、日本の1人当たりのプラスチック使用量はアメリカに次いで世界第2位(※2)です。医療器具などプラスチックを絶対に使わないといけないものもありますが、洋服については使用を止めようと思えば止められますよね。ウール、綿、麻など1枚だけでも天然繊維のものにするなど、そういったことから始めてみてほしいです。
このような情報を発信し続けて、僕の活動やビジネスを通してファッション業界の環境問題について考えてくれるようになれば嬉しいですね。そして、それをきっかけに「環境が良くなった」と言ってもらえるようにしていきたいです。
出典:
※1WWFプレスリリース「先週食べたのはクレジットカード、今週も食べるとペン?」
※2環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
■レダ ジャパン株式会社 代表取締役 上野伸悟さん
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