
丸安毛糸株式会社 3代目社長
岡崎博之 × ワクセル
今回のゲストは、丸安毛糸株式会社の3代目社長・岡崎博之(おかざきひろゆき)さんです。同社は創業66年になる老舗企業で、創業当時から「ファンシーヤーン」という意匠性の高い糸を作り、創業から売上を順調に伸ばし成長し続けています。
司会は、ワクセルコラボレーターの渋沢一葉(しぶさわいよ)さんと、総合プロデューサーの住谷が務め、岡崎さんが実践されている、社員の力の引き出し方、仕事への思いなど、成長の秘訣を伺いました。
創業当初からファンシーヤーンに特化し独自の技術を確立

渋沢:本日のゲストは創業66年になるニット糸の専門会社である丸安毛糸株式会社の3代目社長・岡崎博之さんです。同社では創業当時から「ファンシーヤーン」と呼ばれるファッション性の高い糸の開発に特化し、独自路線を極めています。ファンシーヤーンは普通の糸とどのように違うのでしょうか?
岡崎:「ヤーン」とは英語で「糸」のことなので、「ファンシーヤーン」とは「楽しい糸」という意味になります。ファンシーヤーンは普通のまっすぐな糸とは違い、モニュモニュしていたり、ケバケバしていたり、特殊な形状をしています。
うちの会社が創業66年とご紹介いただきましたが、糸屋さんとしては実は後発に入ります。昔は手袋とか腹巻とか防寒具を作っている糸屋さんがいっぱいあり、そこにうちは遅れて参入したのです。
そのため普通の糸ではダメだ、どうやって差別化しようかと考えました。戦後の日本には防寒の用途だけではなく、ファッションという文化が生まれていたので、うちはファッションに特化しようと創業からファンシーヤーンを作り、それが今でも続いています。
高級ブランドのデザイナーのために糸を開発、急成長につながる

住谷:まさに独自路線を展開していますね。1955年の創業当時から順調に売上が伸びているそうですが、大きく成長できた要因を伺いたいです。
岡崎:一番伸びたのがDCブームのときでしたね。DCとは1980年代にブームを巻き起こした国内の高級ファッションブランドを指しています。「コムデギャルソン」など、海外にまで進出する有名ブランドのデザイナーさんがうちのファンシーヤーンを買いに来てくれたのです。
うちはデザイナーさんのための糸を開発してきたので、それで売上が伸び、業界のなかでファンシーヤーンという地位を確立し、うちの会社の強みを認知してもらうことができました。今ではファンシーヤーンを作っている会社は何社もありますが、うちは独自の技術を持っています。
社員の個性を引き出す自由な職場環境

住谷:数多くの糸を開発されてきたと思いますが、それだけたくさんの企画はどのように生まれるのですか?
岡崎:それは社員の力ですね。「こんなセーターやニットを作りたい」と思いついたところから、「こんな糸を作ろう」と始めるのです。「麻とレーヨンを組み合わせよう」など、組み合わせは無限にありますから。
うちの会社は「ファンシーヤーンを作っているんだよ」って、すごくわかりやすいじゃないですか。だから社員募集をすると、糸が好き、ニットが好き、ファッションが好きという人しか来ないんです。そもそも入口が狭くて、その中から採用するので、ものづくりが好きな人たちが集まります。
社員には「あなたはうちの会社で何がやりたいの?」と聞いて、一番モチベーションが上がることをやってもらうようにしています。編むのが好きとか、製品を作るのが好きとか、人それぞれ得意が違うので、「それをやっていいよ」って言うんです。僕はそういう個性が好きなんですよね。ものづくりが好きな人が集まっているわけだから、会話も広がるし、アイデアがミックスされて企画が生まれているのだと思います。
僕が全部を決めて「これをやって」ではなくて、基本の軸はあるけど、そのなかでうちの会社は自由なんです。とにかく考えたことをやってほしいと思っていて、失敗が怖いという人がいますが、失敗は仕方がないですし、実際にはそれほど失敗しないんですよ。失敗したところで小さな失敗だし別にいいんです。それぞれの味を出して好きなことをやっているので、うちの社員はよく「濃いね」って言われています(笑)。
国内の生産工場がどんどん減少する厳しい状況

渋沢:これまで制作するなかで苦労したことはありますか?
岡崎:特に最近は多いですね。というのも国内で糸を生産できる工場がどんどん無くなってきているのです。やっぱり中国からの輸入が多くて、今まで作ってもらってきた工場が無くなったり、次の工場に頼んでもそこもダメになったり。ですから僕たちが考えるものが本当に完璧に作れているかというと、そうではありません。
でもそれは仕方がないことなので、あとは出来上がった糸でどうやって表現をするか、どうやって良く見せるか試行錯誤しています。ニットはスカスカに編んだり、詰めて編んだり、編み方で表情がまったく変わるので、糸の特性を生かすテキスタイルを考えるようにしています。
渋沢:実は今日私が着ているこの青いワンピースは、岡崎さんが持ってきてくださったものです。すごくフォーマルな装いで、ニットのイメージが変わりました。ニットって寒いときに着るものだと思っていたのですが、こんな形のニットもあるんですね。
ニットの可能性を世の中に広めたい

住谷:国内の繊維業界がどんどん縮小しているなかで、会社を続けることは大変だと思います。それでもずっと同じ事業をやり続ける理由はどんなところにあるのでしょうか?
岡崎:コロナ禍で緊急事態宣言があり、思うように動けませんでしたよね。でも僕は緊急事態宣言のなかでも展示会を行い、むしろ回数を増やしたくらいでした。この2年間展示会をやり続けてきたのは、僕たちの使命があるからです。
僕たちの使命は、ニットを着てもらい気持ちが良いとかうれしいとか、笑顔を届け、ニットを通じて社会を明るくすることだと思っています。だから百貨店とかは閉まっていたけど、「良いものをつくって笑顔を届けよう」と社員にも伝えてやってきました。だから業界の状況がどうかは関係なく、ニットを通じて世の中を明るくするためにやり続けています。
渋沢:私も今日このワンピースを着て背筋が伸び、とてもうれしい気持ちになりました。おしゃれをすることで元気になることもあり、社会を明るくすることにつながっていると感じます。岡崎さんの今後のビジョンについて教えてください。
岡崎:僕たちは創業からやっていることが変わらないんですよね。ですから、今後もやるべきことは変わらないと思います。先ほど渋沢さんが「ニットのイメージが変わった」と言ってくださったように、ニットでこういう服が作れるということを知らない人もまだまだたくさんいます。「ニットでこんなことができるんだよ」って、ニットの可能性をもっと広めていきたいですね。
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