経営者対談

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長
森下洋次郎 × ワクセル

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎さんは、もともとIT関連の事業で失敗した経験がありますが、コインランドリー業界に可能性を感じ、「布団洗い」というサービスを確立しました。

今回は、失敗をチャンスに変え、次々と新しいことにチャレンジする森下さんのエネルギーの源や物事の捉え方など、たくさん聞かせていただきました。

ワクセル総合プロデューサーの住谷と、メディアマネージャーの三木が、MCを務めています。

「小さくても良いから自分で歯車を作りたい」大企業を卒業して起業

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎×ワクセル

三木: 本日のゲスト、森下洋次郎さんの経歴をご紹介します。

1977年に奈良県生駒市で生まれ、1989年からの中高6年間はラ・サール学園に通い、鹿児島県で寮生活をされていました。2000年に慶應義塾大学商学部を卒業し、渡米してインターンシップに参加。同年に世界大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)に入社されました。

2006年にはIT企業を設立したほか、2015年に立命館大学客員教授にも就任されています。そして2017年、フトン巻きのジロー株式会社を設立されました。

住谷: 世界でも有数な会計事務所「PwC」に入られて、その後起業に至るまでにはどのような経緯がありましたか?

森下: PwCは素晴らしい会社で、研修制度や評価制度も整っていて、サラリーも不服はありませんでした。一方で、すべてが整っているがゆえに、自分が大きな歯車の中にいることに気づかされました。
200~300名ほどが参加する規模のプロジェクトでは「自分がいなくても、このプロジェクトは回っていくだろうな」と常々考えていましたね。
そして、大きな歯車の一部でいるよりは、小さくても良いから自分で歯車を作りたいと考えるようになりました。

僕の世代には、グリーとかミクシィとかSNSの会社を起業してミリオネアになった人がたくさんいて、「ITの波に乗るしかない」と、起業したのがバズー株式会社でした。

バズーを設立した当時はまだガラケーが全盛期の時代で、ガラケーサイトを作る事業をしていました。メールと検索を合わせた「メルケン」というサービスを作りましたが、まったく流行らず。その後もどんどん新規事業を立ち上げましたが、失敗の連続でした。結果的に社員をリストラして、とても苦しい経験をしました。

事業に失敗、人生のどん底をブログで発信

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎×ワクセル

住谷: エリート街道を歩んでいるように見えますが、そんなに苦しい経験をされたのですね。

森下: ある新入社員からリベンジブログを書かれたこともあります。うちの会社を中傷する内容で、かなり炎上しました。当時、内装費を5,000万円かけて森ビルにオフィスを立ち上げたのですが、約1年で閉めることになりました。原状復帰に2,000万円かかって、リベンジブログのクレーム電話が殺到するオフィスに1人残って、人生のどん底を味わいましたね。

でも、どん底の経験を自分のために残しておきたいと思い、ブログで失敗談を赤裸々に綴りました。思いがけずブログに反響があって立命館大学の方から連絡をもらいました。

「失敗体験を学生に語ってほしい」という内容で、それまで失敗をさらけ出す経営者がいなかったので、学生たちにはかなりウケましたね。それをきっかけに日本でグローバルリーダーを育成するプロジェクトに、立命館大学の客員教授として関わらせてもらうこともできました。

住谷: IT起業家からランドリー業界と、かなり方向転換をされていますよね。どのような変化があったのでしょうか?

森下: バズーで新規事業に次々とチャレンジしてほぼ失敗しましたが、ひとつだけ軽くヒットしたものが民泊事業でした。

7、8年前に「Airbnb(エアビーアンドビー)」が日本に上陸し始めて、ちょうどオリンピックの東京開催も決まって、外国人観光客が急激に増えていました。
民泊事業をするために新宿や渋谷のマンションを50部屋くらい借りて、お客さまがチェックアウトする度にベッドメイキングをして、シーツを洗うためにコインランドリーに行きました。

都内のコインランドリーって「汚い、暗い、怖い」の3つが揃って「3K」と呼ばれているのですが、そんなコインランドリーに僕みたいにAirbnbをやっている人たちが行列を作って待っているんです。それを見て、自分でやった方が良いのかもしれないと思ったんですよね。

ニッチ産業である「コインランドリー」に可能性を見出す

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎×ワクセル

三木: 民泊を行った経験から、コインランドリーという新たな事業の展開が生まれたんですね。

森下: 立命館大学の客員教授としてアメリカに渡った時に、”イノベーションの鬼”と言われる方から教わったことも大きなきっかけになりました。イノベーションを起こすには「業界がニッチであること」「ニッチで産業として成り立っていること」が必要だとその方に教わりました。まさにコインランドリーのことだと思いましたね。

事業を始めるにあたって、競合を避けたいと思い、沖縄での開業を選択しました。鹿児島で生活していた経験から、鹿児島は東京より2年くらい文化が遅れているという実感があったので、沖縄なら3年くらい遅れているんじゃないかと予想を立てました。

『タイムマシン経営』と言って、良い文化を先に仕入れて展開する方法がありますが、東京にあるちょっとおしゃれなコインランドリーを沖縄で作れば絶対に勝てるって目論見がありました。沖縄は高温多湿なので乾燥機の需要があったので、戦略が見事に当たりました。
一般的にコインランドリーの平均月商は40万円と言われていますが、僕が作ったお店は初月から月商100万円を達成。勢いに乗って、民泊で儲けたお金を全部つぎ込んで、沖縄にコインランドリー6店舗を一気に出しました。

業界で圧倒的に勝つために「布団洗い」サービスを確立

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎×ワクセル

森下: コインランドリーは無人でできるので、不動産業の人が税金対策にやることが多くて、地元の地主には資本で負けてしまうと思いました。圧倒的に勝つためには、他の人がまったく考えないようなことを実現しなければなりません。そのために、まずは自分自身が店舗に立って接客を始めました。僕は沖縄県民のことがまったくわかっていないというハンデもあったので、徹底的にマーケティングしようと考えました。

三木: コインランドリーに接客する人がいるのは新しいですね。

森下: 東京から最新の大型機械を仕入れていたので、家では洗えない大物、毛布やカーペットや布団を入れてって接客していました。
でも、みなさん「布団って洗えるの?」って言うんですよ。つまり布団は干すものだと思っていて、洗うって発想を持っていないんですね。これは今までありそうでないサービスだと思いました。

通常、敷布団をそのまま洗うと壊れてしまいます。敷布団の加工方法って色々ありますが、断面にした時に貫通していない縫い方のものは洗濯機の振動で綿が寄ってしまうので、洗濯ができません。そのため、洗濯できるように布団を固定して巻きつける「フトン巻き」って方法を考えました。

エネルギーの源は「常に新しいことに挑戦し、自分自身を変えること」

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎×ワクセル

住谷: それでフトン巻きが始まったんですね。森下さんの物事を捉える視点に驚きがいっぱいです。

森下: コインランドリーを利用する人は全国的に10%程度と言われています。つまり10人に1人しか使わないニッチ産業なんです。ところが布団に関しては、掛け布団、敷布団、何かしら絶対持っていますよね。つまりフトン巻きのサービスを確立させることでマス産業にできるんです。

住谷: 布団とコインランドリーのコラボレーションですね。ニッチな産業にマス産業を入れて広げていくという発想が面白い。

森下: コインランドリーって全国に2万店舗ほどあるのに、市場は1,000億円規模の小さい産業です。でも僕たちが独自に調査したデータによると、布団は一人当たり2、3枚持っているので、日本には3億枚の布団があることになります。これを1枚2,000円で洗うと考えて、単純計算すると6,000億円の産業が作れるわけです。3年前にこんな大ボラを吹いて全国展開しようとスタートして、今は81店舗まで増やすことができました。

三木: 森下さんは本当にイキイキと話されて、ご自身の事業をとても楽しんで取り組まれていることが伝わってきますが、そのエネルギーはどこから来ているんですか?

森下: 生きていくエネルギーの源泉って、「常に変わっていくこと」「新しいことに挑戦していくこと」つまり自分自身を変えていくことしかないと思います。それを毎日愚直にやっていくことは意識していますね。僕はコミュニティの中であまり上手に影響力を発揮できた方ではなくて、それが悔しかったという思いも強いです。同じ人間なのに上手くいっている人たちがいて、「自分にできないはずがない」という悔しい思いをバネにしたからこそ、ここまで来られたのかもしれませんね。

一度は逃げた東京にもう一度勝負を挑みたい

フトン巻きのジロー株式会社取締役会長・森下洋次郎×ワクセル

三木: 森下さんが今後掲げるビジョンを聞かせてください。

森下: フトン巻きのジローは「日本国民のふとんを洗い尽くす」をミッション・ビジョンとして掲げているので、まずは洗い尽くして布団の常識を「干す」から「洗う」に変えていきたいです。

ある企業で検証してもらったところ、実は天日干しのダニの撲滅率はかなり低いそうです。ダニの糞などはアレルギーの原因になるので、絶対に洗った方が良いんです。キレイになることはもちろん、アレルギーの予防対策に繋がっていく社会性のあることをしっかり伝えていきたいです。現在はCMを作ったり、こういう素晴らしいメディアの取材を受けたりといった活動をさせてもらっています。

現状の店舗規模では3億枚洗い尽くそうとすると、単純計算で500年掛かってしまいます。もっと出店数を増やしていく必要がありますし、同時に今後は宅配デリバリーサービスを強化していきたいと考えています。

フトン巻きのジローは郊外を中心に展開していますが、それは車社会と相性がいいからなんですね。僕はもともと東京から逃げるように沖縄に行ったので、東京で勝負して勝ちたいという気持ちがあります。そのためにはウーバーイーツのようにスマホで簡単に予約して、デリバリーが成立するようなサービスを実現させなければいけません。

今後ハウスクリーニングも含めて清潔全般に関しては、フトン巻きのジローで担当させてもらえるようにして、「ジロー」と言えば『ラーメン二郎』ではなく、『フトン巻きのジロー』と言われるようにブランドを確立させたいです(笑)。


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