経営者対談

TVコメンテーター
「木暮太一」× ワクセル

ビジネス書作家、TVコメンテーターとして活躍されている木暮太一さんに、インタビューさせていただきました。

『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『カイジ 「命より重い!」お金の話』(サンマーク出版 )など、多くのビジネス書を出版され、ヒット作を生み出されています。

「自分の価値の伝え方」を多くの人々に教えてこられた木暮さんから、「どうすれば現代社会で通用する人間になれるのか」について学べるインタビュー記事です。木暮さん自身の経験も交えて、わかりやすくお話しいただきましたので、ぜひ楽しみながらご覧ください。

変化に強いのは、世の中で起きていることを都合よく解釈できる人

インタビュアー:変化に強く、新型コロナウイルス流行のような逆境を乗り越えられる人にはどんな特徴があるとお考えですか?

木暮:一番は、世の中に起きていることを自分にとって都合よく解釈できる人じゃないかなと思います。多くの人は悪い妄想が先に来てしまうんですよ。妄想って増幅すると止まらないんですよね。

逆に自分は大丈夫だと思っている人って、良い妄想が先に来るのでどこに行っても結果的に大丈夫なんです。自分が見ている現実は、自分がつくっているものですから。

例えば、事業をやっていて、明日の売り上げは誰にもわからないです。けれども、「当然あがるよね」と思っていると売り上げがあがっていく。もしあがらなくても、売り上げがあがる前提なので「あれ、おかしいな」と思うくらいで、落ち込まない。

これはポジティブ思考とはちがうんですよね。ポジティブ思考というのは、「ネガティブに捉えている現実を、前向きに解釈しましょう」というものなので、ネガティブなことを忘れられないんです。ポジティブ思考って言っている人ほど、ネガティブ思考にはまっていくんですよ。

元々ポジティブなものはそれ以上ポジティブに解釈できない。なので、「ポジティブになりましょう」と言った途端に、自分に起きているネガティブなことを探し始めるんです。そうすると、頭の中には嫌なことばかりが残ってしまいます。

だから、思考じゃないんです。大切なのは「勘違い」なんですよ。すべてのものを都合よく勘違いしていれば、大丈夫。

最悪のケースを想定して底の深さを知れば、不安はなくなる

インタビュアー:ネガティブな人が、できる前提に変えていくためには、何が一番大切だと思いますか?

木暮:底を知るってことじゃないですか?例えば、底なし沼にハマったら誰でも怖いですよね。しかし、沼の深さが2mだとわかっていたら、対処ができる。これ以上は落ちないということがわかれば、一気に安心できるんです。

逆に、ネガティブな妄想にハマってしまうと底が見えなくなって、底なしになってしまう。底なしになると誰でも怖いんじゃないかな。自分は最低ここまでしか落ちないとわかっていると怖さはなくなります。

底の深さは考えればわかるんですよ。例えば経済的な面で最悪のケースを考えるとすると、さすがに日本国内であれば自分にもコンビニでレジ打ちぐらいはできるだろう。地方のコンビニのレジ打ちが時給750円として、8時間労働したら6,000円稼げるから、25日働くと15万円の収入になる。

その中で家賃3万だとして、12万残るじゃないですか。そうしたら案外自分は大丈夫だなってわかる。

ミニマムの試算をしたことがあると、不安はなくなるんじゃないかな。

「諦めたらそこで試合終了だよ」っていう言葉はすごくいいんだけど、同時に諦めないことで苦痛が生まれていくということをアダムスミスが指摘している。

例えば戦争で片足を失った人は、足が戻らないとわかっているから幸せになれる。なんとかしてもう一回足を生やそうとしてないから。足を失ったことは諦めて、切り離して生きているんです。

しかし、「いつか刑務所から出られるかもしれないよ」と言われている囚人は幸せになれない。「今日はまだ出られていない、でも明日こそ出られるかも」とつねに考えてしまう、このように、諦めない心によってかえって不幸になっていく場合もある。

なので、ミニマムを想定し、ここまでいくのはありうると認識する。そういう意識の人と、つねに理想をめざして、しがみついてる人ではつらさが全然ちがいます。

曖昧な言葉を分解し、伝わる言葉にする

インタビュアー:木暮さんはシンプルかつ核心をつく表現をされるので心に刺さるなと感じるのですが、なぜそういう表現ができるのですか?

木暮:テクニック的なところと本質的なところがあります。

まず、テクニック的なところでいうなら、映画をたくさん見ているから表現が豊富なんだと思います。映画の主人公のセリフって、プロのライターさんが練りに練ったもので、小説のさらに上をいった言葉の磨かれかたをしていることが多いんです。

とくに名作と言われる映画は素晴らしい言葉が多く使われている。それをたくさん見ているので、他の人より言葉のバリエーションが多いんだと思います。

ここまでは言葉をどう仕入れているのかというテクニック的な部分です。

次に、言葉をどう生むのかという本質的な部分についてもお話していきます。

言葉を生むために重要なのは、言葉を言葉としてないがしろにしないこと

例えば「あなたは何の専門家ですか?」と聞かれた時に、「コミュニケーションの専門家です」と答える人がいる。けれども、コミュニケーションという行動はないんですよ。「はい、コミュニケーションしてみて、3・2・1!」って言ってもできない。

でも、メールを書いたり、LINEを送ることならできるんです。つまり、コミュニケーションは概念論であって行動ではない。

「コミュニケーションの専門家です」って言われると、わかったつもりになってしまう人が多い。なので僕は、分かったつもりになる言葉の排除を毎日やっている。そのためには、なんとなくわかったつもりになる言葉を分解することがとても大切。

一般的に「刺激を与えてくれる人」って言うじゃないですか。でも刺激って何でしょう?

僕が考える刺激とは何かっていうと、「異質」なんですよね。異質は自分が考えてきたもの・触れてきたものとちがうことを教えたり、提示してくれます。

さらにいうと、「提示」という言葉も意味がよくわからない。なので僕は「投げる」という言葉を使います。投げるという言葉には「無責任に」っていう意味が含まれています。野球の遠投みたいに、遠くの方から「ほれっ」って投げてくるニュアンスです。

なので、その人と仲良くなるという感じではない。仲良くなるということは、同質になってしまい異質でなくなってしまうということですから。

このように、伝えたつもりで伝わっていない言葉を排除するのがとても大切です。それには分解しかないんです。

やりたくないこと以外から自分にできることをやってみる

インタビュアー:何か動かなければと思っているが、何をしたらいいかわからない人は、何から始めたらいいと思いますか?

木暮:「やりたいことをやりましょう」とよく言いますが、やりたいことはやってみないとわからないので、あまり意味がないと思います。それよりは、やりたくないことを探す方が大切です。

そして、やりたくないことを除いた中からできることを探します。その結果、起業が必要ならしたらいいし、専門家として生きるならそうしたらいい。どこに行くか、何をやるか、を考えるよりは嫌なことを除いていく方がいいんじゃないかな。

僕の場合、100人雇ったらビジネスの規模は大きくなりますが、100人雇うことをやりたくないからビジネスを大きくしない。やりたくないことをまず挙げましょう。そして、その中からできることを考えていくのがいいと思います。

お金を稼ぐために嫌な仕事をやることもおすすめはしません。ぶっちゃけ、いくら稼いでもそんなに変わらないんですよ(笑)

僕の感覚だと、年収3,000万円を超えたら区別がつかない。年収3,000万円、5,000万円、1億円の人って生活はあんまり変わらない。

なので、年収1億円を稼ぐのにものすごくストレスを感じるのであればやめた方がいい。年収3,000万円でストレスなく過ごした方が本人にとっていいと思います。

もし、それでもストレスなくさらに稼ぎたいのであれば、別のビジネスをつくればいい。

現代は、ネットによって自分の持っているスキルを教えるのが、ものすごく簡単になってきています。何かできるようなったら、やりたい人にそれを教える方が、経済的なメリットが大きい。サポート役に転向することで、1回山を登りましたという経験自体が売れる。

だから、まずは何か1つの山を登るのがいいんじゃないかな。

「嫌いなものがない世界で」「誰かに評価される」と、仕事が好きになる

インタビュアー:仕事を楽しむコツをお伺いしたいです。

木暮:楽しもうと言っている時点で、楽しくないんですよ。そもそも僕は好きなことしかやってないから、仕事を楽しむという感覚がない。それぐらいやりたくないことを排除してきました。

僕にとって「朝出社すること」「尊敬できない上司の指示に従うこと」は絶対にやりたくないこと。それ以外であれば、ある程度なんでもいいと思ってます。

その中で人に評価されることが楽しみに変わっていく。

オタクがゲームを好きなのも、高得点が取れたら、ネットを通じて「あいつすげー!」って評価されるから。他人から評価されるから好きになる。

「嫌いなものがない世界で」「誰かに評価される」この2つの要素が掛け合わさると、段々仕事が好きになります。子供と一緒で、できたことを褒められたら、また頑張ろうと思うんです。

多くの人は嫌なことをやめようとすると、どう稼いでいいかわからなくなる。個人的には、今の仕事からいきなり転向するのはおすすめしていません。今の仕事が嫌で新しい仕事に移った場合、経験がないからお金を稼げないかもという不安やプレッシャーに押しつぶされやすいです。

なので、新しい仕事が軌道に乗るまでは、ダブルワークにして今の仕事の収入で耐える。そして、新しい仕事で生活に最低限必要な収入が取れるようになったら、1本化していくというのがいいでしょう。

トライアンドエラーを真剣にやって、自分だけの能力を身につける

インタビュアー:最後に、これからチャレンジしようとしている若者へ一言お願いします。

木暮:インプットだけではなく、トライアンドエラーを真剣にやりましょう。

最初から打てなくてもいいと思ってバッターボックスに入っても、何の練習にもなりません。打つつもりでバッターボックスに入って、失敗と改善を繰り返すことが大切です。

失敗は2~3日へこむくらいがちょうどいいです。1年もへこむような失敗はしない方がいい。逆に、5分で忘れちゃうような失敗は経験にならない。2~3日本当に後悔するような失敗をしてください。

「市場価値を高める」「レアな人材になれ」ってよく言われるけど、僕はおすすめしていません。レアな人材は徐々にマーケットもしぼんでいくので、活躍できる場が限られている。なので王道がいいと思います。王道をいく中で、他の人ができないことを身につけていく。社会にはまだ穴があいているところがあるので、その穴を埋めにいくといいと思います。

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