経営者対談

ビジネス書作家
木暮太一× 嶋村吉洋

ビジネス書作家の木暮太一先生にインタビューをさせていただきました。

木暮太一先生は、主に経済学や働き方、伝え方など、現代のビジネスマンが知りたいテーマについてのビジネス書を多く執筆されていらっしゃいます。その傍ら、テレビのコメンテーター、出版コンサルティング、一般社団法人教育コミュニケーション協会の代表理事など、幅広くご活躍されていらっしゃいます。

今回のインタビューでは、「〜すべき」の価値観の捉え方や、「相手の立場になって考える」とは本当はどういうことなのか?などについて、木暮太一先生のお考えを深くお聞きしました。

たくさんに人とコミュニケーションをとりながら、互いに刺激をし合って目標達成していく私たちにとって、木暮太一先生が実践なさっていることから学べる事は多いと思います。

幅広くご活躍されていらっしゃる木暮先生ですが、最初の夢は何だったのでしょうか?

木暮:僕は元々、教師になりたかったんです。先生になりたい気持ちが根本にあり、人に教える仕事に就きたいと思っていました。

先生といっても色々ありますよね。様々な先生を分析しましたが、小学校の先生は、教育というより「しつけ」だと思います。中学校の先生は教育というより、「ヤンキーとの戦い」じゃないですか(一同爆笑)。いわゆる生活指導ですよね。高校の先生は大学受験真っ只中なので、教育しているつもりでも生徒は聞いていないのです。そんな中で、僕がやりたい教育ができると思ったのが、予備校の先生だったんです。

予備校の先生と生徒は、お互いに真剣です。講師は成果を出せないとクビになり、生徒も成果を出さないと受験が上手くいかない。大学卒業して予備校の先生をやろうと思った時に、オンライン時代の波が到来していました。当時、私は大手予備校に通っていましたが、すでにオンラインビデオ講座がメインの塾がありましたね。東京校の内容を全国へ配信していくため、極端に言うと一科目に一人いれば成り立ちます。スター講師がいる中で、僕がそこに取って代われるかと考えたら厳しいと感じたため、結局は予備校の先生ではなく、富士フィルムに就職しました。

今は教育ができるセミナー講師をメインでやっていますが、チャンスと感じたらひたすら打ち込んできましたね。

インタビュアー:先生を志したきっかけは何ですか?

木暮:僕は、自分をレアな人種だと思っています。勉強はできないくせに勉強が好きなんです。

中学生の時は、全然勉強ができませんでした。といっても偏差値は55くらいで、クラスで言うと半分よりちょい下です。それくらいの成績の学生って、勉強が嫌いなことが多いです。しかし、僕は勉強が好きだった。この経験から、人がなぜわからないのか?ということがわかるんです。一度聞いただけでは理解できません。自分の中で「なんでわからないんだろう?」と考え始めるため、やがて理解できます。

その結果、わからない人に教えることができるため「お前、天才だな!」って言ってもらえるようになります。喜んでもらえた経験と嬉しい感情が、自分の存在価値の根底にあります。それが、先生を志したきっかけですね。

できない→できるに変化させるポイントはありますか?

木暮:まず、「誰にどういった変化を与えるか」にフォーカスさせます。ほとんどの方は、「これを言いたい」「これをやりたい」など、自分が言いたいことを語ってしまいます。「私が!私が!」が凄いので、私からは「私が!はわかったけれど、それは誰も聞いてないよ」とちょっと強めに言います。

例えば、本のタイトルを決める際に、仮タイトルには一切「私の要素」が出てこないようにします。フレーズをガチガチに固めて「穴埋め方式で考えてください」と。結果、私の要素が言えなくなります。やがて相手の変化にフォーカスが当たるようになって「私は誰をどう変化させられるのか」という目線になると早いですね。

どんな専門家に対しても、「誰がどう変化するの?」とマンツーマンでしつこく言います。伝わるまで続けるため、一日終わると疲れてぐったりしますね。

インタビュアー:木暮先生が一番実感しているご自身の変化はなんですか?

木暮:僕自身が変化したことは、性格です。

僕は、2回鬱になっています。鬱になると精神が崩壊するため、ガラガラポン(価値観が白紙)になるんです。今まで信じてきたものや「これが僕だ!」という人格が全部崩れます。ある意味リストラ(再構築)できるから、屈折してできあがってきたものが矯正されます。

振り返ってみると、価値観を再構築できた経験は良かったと思います。教育者は「俺は先生だ!お前らこれ聞け!」というような、上から目線の人が多いイメージがありました。「僕もそうなるのかな?」という感じでしたが、そこから価値観が変わり、伴走者のようなイメージになりました。トップランナーは走らせておき、後ろの方にいる人や歩きそうになっている人のお尻を叩きながら共に走るスタンスです。このマインドは大きく変わったと思います。

僕自身は、教えることが本当に好きなんです。逆に言うと、それ以外はあまり興味分野を持たない。「僕自身の成長」というキーワードとは少し違いますが、僕はただ単に「人に教えて、その人が上手くいく」過程を見ていたい。最終的には僕の成長に繋がっていると思いますが、仕事を通じての成長はあまり考えたことないですね。

木暮先生にとっての人生の格言や座右の銘はありますか?

木暮:座右の銘とは少し違うかもしれませんが、いつも心がけているのは、「べき」と「だって」という言葉です。

人間は誰しも「べき」を持っているんです。「何をすべき」「こうあるべき」など。多くの人は「べき」の目線で他を見ています。時間通り来るべき、ビジネスシーンではネクタイを締めるべき、など。これはある意味、自分の価値観の押しつけです。お互い共通認識の「べき」を持っていたら何も起こりません。

ルールを守らない人がいるとします。「ルールを守る人」の視点で見ると、守らない人は「べき」をやっていないから、「すごいダメなやつ」になってしまいます。しかし、ルールを守らないことが駄目かというと、別にそうではない。「べき」を向けられた相手は「だって」の思考を持ちます。誰しも、自分に向かう矢印に対しては「だって」で考えます。

例えば、「遅刻して時間を守れなかったけど、しょうがないよ。だって、出かけに子どもが泣き出してさー」とか。その「だって」をみんな持っているので、ズレが起こるんですよね。「べき」と「だって」のベクトルが刺さり合うから、喧嘩になってしまいます。私は、自分が相手に向ける「べき」に対して、どのような「だって」でいるかを常に考えます。

そうすると、「べき」を向けている人が絶対的な悪人には見えてきません。自分が相手のストーリーで生きているためです。もちろん、何かあった時にイライラすることはありますよ。そうなったら、「べき」と「だって」、「べき」と「だって」とずっと反芻しますね。自分がどういった「べき」を思っているから、自分がイライラしているのか。自分の中で「べき」って、いわば槍を向けている感じなんですよね。

自分がどういった刃を持っているかを自覚し、相手がどういった感じの「だって」が返ってくるのか。冷静に考えると「確かにそれは、あり得ることだよな」という気持ちになります。

インタビュアー:それはすごい想像力ですね。

木暮先生が「相手の立場になって考える」ことを徹底されていらっしゃるんですね。コツはありますか?

木暮:そもそも、「相手の立場に立つ」ということができないんですよ。「相手の立場」という場所が無いから。「相手の立場に立つ」は、スローガンに過ぎなくて、アクションに落とせないことなんですね。

「お客さんのことを考えなさい!と言われてもどうやって?」となります。【アクションに落とせない=結局実行ができない】ので、どう実行するかを常に考えます。

これは勉強も一緒なんです。例えば、数式や因数分解を例にすると、見えている人からすると見えるんです。しかし、やり方がわからない人は、ごちゃごちゃな文字列にしか見えませんよね。

因数分解のHOWをやっていく必要があるため、わかりやすいところ、やりやすいところから、実際のアクションを取る。その次に別のアクションを取ろうなど。全部アクションに置き換えて考えるため、僕からするとひとつひとつの行動をやっているだけなんです。「べき」と「だって」と唱えるのもアクションのひとつです。

アクションは「身体」か「時間」を使っているものと定義しています。「相手のことを考えてください」というのは、身体を使っていないため、時間を使う必要があります。アクション、特に再現性のあるものにするためには「考えて思いついたことを10個メモしてください」と手を動かす。もしくは「相手のことを10分考えてください」といった感じです。

時間を使うと再現ができます。「身体」か「時間」を使った表現に置き換えて、自分がやりたいことを考えているとやがて見つかってきます。すべてがすぐに答えが出るわけではないため、時間はかかりますけれどね。

インタビュアー:物事を因数分解しながらアクションに落とし込むやり方は、どのように体得されたのでしょうか?

木暮:教師が好きだと、分解するようになるんですよ。特に僕は理系だから、因数分解がとても得意です。実際の因数分解の問題、例えば3行にわたる文字列や数式が出ても、おそらく1分以内に因数分解できますね。

因数分解のやり方は実は簡単で、方法もいくつかあって決まりはありません。やり方に当てはめていくことが数学的なアプローチですけれど、分解をしていって要素を発見し、まとめます。

例えば、ミックスジュースはごちゃごちゃしているため何が入っているかわかりません。でも、要素で分けてしまえば中身がわかるんです。混ざっているのを分解する視点で見ているから、自然とわかってきます。その発想は、因数分解の考え方で学びました。それをずっとプライベートでやっている感じですね。

作家や出版コンサルティング、講演家など幅広い分野で成功なさっている原因をお聞かせください。

木暮:成功の原因は、リクルートで働いていた時代の上司とのやり取りです。僕には上司が2人いました。チームリーダーの上司と、組織上の上司です。リクルートは営業会社のイメージがあると思いますが、僕の組織上の上司は、リクルート史上ではじめて、営業未経験で役員になった方なんです。

その方はとても頭が良かった。リクルートでは毎週のように新規事業のプレゼンをやるんですが、彼の目線が尖すぎて、完全武装していても一瞬の隙をついてくるんです。弱点はここだと一瞬で見抜きます。彼とやり取りをする中で、事業のポイントを見抜く視点や思考を学びました。

もうひとりのチームリーダーの上司は、これまで僕が会った中で、リーダーとして一番優秀な方だと思っています。絶対に人を後ろ向きにさせない。彼とのコミュニケーションの仕方や仕事の進め方、判断や、ついていきたいと思わせる要素すべてを持っていました。約半年の期間しか仕事をしていませんが、僕にとって一番大きい財産になっています。

インタビュアー:その上司の方々にかけてもらった言葉で、今でも心に残っている言葉はありますか?

木暮:「お前はアピールをしないからダメなんだ」と言われましたね。
ベンチャー投資の仕事をしていた時の話です。ベンチャー企業に足を運んで出資をするんですが、その企業へ行くと、リクルート社内での僕の評価より過小評価されていたんです。僕には何も相談されずに、上司に報告が行ってたみたいです。上司にちょっと愚痴りましたが、「それはお前がアピールしていないからだ!お前に話しても無駄だと思われている!」とフィードバックをもらいました。

「やったことをちゃんとアピールしないのは、謙遜でも何でもない。ちゃんと言っていかなきゃダメだ!」と言われました。自分でできる範囲内で、もしくはやったことをちゃんとアピールする。謙遜が美徳と言われますが、ちょっと変わってきているのかもいれませんね。

やったことをちゃんとアピールをすることが大事とのことですが、コツはありますか?

木暮:絶対にやってはいけないのが、人との比較ですね。「相手より俺のほうが凄い!」はまったく意味のないアピールで、マウンティングは絶対にダメです。アピールするポイントは絶対評価で、「◯◯をやりました」「自分としては誇りに思っています」など、相手と比較せず、自分基準でアピールするのが良いと思います。

芸能界のプロデューサーに教えてもらったことですが、「明石家さんまさんが、なぜあんなに人気があるか、木暮さん考えたことある?」と聞かれ、「面白いからじゃないんですか?」と答えました。そしたら、「違う違う。面白い人だったらたくさんいる。でも、さんまさんはずっと出続けている。なぜか?さんまさんの笑いは、絶対に恥をかかせない!」と返ってきました。

さんまさんは、恥をかかせないことに対して超一級です。「俺の方が凄いんだ」「面白いんだ」と言うと、その場は盛り上がるかもしれませんが、やがて人が離れていきます。

アピールしようとすると、ついつい言いがちなんですよね。「ほかのみんなは間違っていて、俺だけ正しいやり方を知っている」「みんなが寝ている間に頑張った」と、周りと比べがちになります。「俺は頑張った」と頑張ったことだけをアピールすればいいんですよ。「人が寝ている間に」は言わなくて良くて、「自分は誇りを持っています」だけで十分。比べる方にも恥をかかせないということが大事だとって思います。

インタビュアー:木暮先生も、今でも学び続けていらっしゃるのがすごいです。

木暮:僕はまだ41歳ですし、人生の半分も来ていません。僕の場合は、環境がいいですね。周りに色々な人達がいるので、良い環境に身を置くといい刺激を受けます。サラリーマン時代の頃と比べると、今の方ができることは増えていますが、違うところではまだまだひよっこなんですよ。

ある会では、夜飲みながらセッションをしようという話がありました。大手コンサルティング会社のシニアアドバイザーの方と有名俳優、京都のお寺の住職さんと僕の4人なんです。そういった方々がまわりにいらっしゃるから常に謙虚でいられます。同い年で上場している人もたくさんいますし、自分自身の周りの環境はありがたいですね。

最後に、起業を目指す若者に対してメッセージをお願いします!

木暮:正しいことよりも、テンションが上がることを繰り返した方が良いと思うんですね。

道を決めている人は結構多いんですが、「私はこれが強みなんです!」といっても強みは相対的なもので、相手がそれ以上に強かったら何も提供できなくなってしまいます。

私は「これをやるべきなんだ!」から脱しないと、結構苦労するかと思うんです。それよりも、自分が本当に楽しいとテンションが上がるようなことを全力で取り組んでいった方が、最終的には形になってくると思います。

僕が出版した本は、何の役に立つか全然わからない資本論の研究がベースになっています。当時の友達には散々言われましたが、現代の経済学より過去の経済学の方が、僕は役に立つと思っています。そして色々なことを学べたので、当時はこれが楽しかったです。

何でもいいから楽しいことに、のめり込むことが起業前では一番大事かと思います。

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