スポーツ・オブ・ハート 名誉理事
廣道純 × ワクセル
“障がいのある人もない人もみんなで一緒に楽しむ「スポーツ×文化」の祭典”として、2012年からスタートした「スポーツ・オブ・ハート」。第1回から参加し、現在はイベントの名誉理事を務める車いすランナー・廣道純さんを今回のゲストにお招きしました。
ワクセル総合プロデューサーの住谷がインタビュアーを務め、イベントの成り立ちや今後の展望をお聞きしました。
オリンピアン、パラリンピアンが一堂に会する新たなイベント
住谷:まず最初にスポーツ・オブ・ハートの名誉理事、廣道純さんのプロフィールをご紹介します。廣道さんは、1973年12月21日に大阪府でお生まれになり、10代半ばでバイクの事故により半身不随となりました。
その後は日本初のプロ車いすランナーとして活躍。800m種目において、2000年シドニーパラリンピック銀メダル、2004年アテネパラリンピック銅メダル、2008年北京パラリンピック8位、2012年ロンドンパラリンピック6位と、世界トップレベルの成績を残されています。
現在も競技中心の生活の傍ら、テレビコメンテーターやラジオパーソナリティ、全国各地での講演活動、大会やイベントの運営などにも積極的に取り組まれています。
今年で9回目の開催となったスポーツ・オブ・ハートに、廣道さんは第1回目から参加されています。一体どのような経緯で参加するようになったのですか?
廣道:発起人の兵頭さんという方が、第1回目のイベント1週間前に「来週こんなイベントやるんだけど、スケジュールどう?」とわざわざ大分県までやってきたんです。東京開催ですし1週間前なので、「えっ!?」ってとても驚きましたね(笑)。
でも、オリンピアンとパラリンピアンが一緒にステージに上がってトークショーをしたり、スポーツ体験会をやったり、アーティストがライブをするというイベントの内容を聞き、驚きつつも興味が湧きました。それまでパラリンピアンとオリンピアンが一緒に何かをするとか、芸能人と何かをするといった発想は誰も持っていなかったからです。スケジュールが空いていたこともあり、第1回目は普通に参加者として楽しみました。
オリンピックが盛り上がりをみせる一方で、パラリンピックは認知度が低い。その差を考えたときに「テレビでやるかやらないかだ」と兵頭さんは思ったそうです。だったら、テレビで活躍している人たちとパラリンピアンが一緒にステージに上がったら、「あの人もすごい人なんだ」と視聴者は錯覚を起こします。それを続けていけば「錯覚でなく、本当にすごい人に変わる」という発想だったようです。
「毎回新しいことを取り入れたい」と年々イベントが進化
住谷:現在ではスポーツ・オブ・ハートの名誉理事に就任していますが、どのような経緯があったのでしょうか?
廣道:第1回目に参加したときに「こんなことができるんだ!?」という驚きがありました。でもオリンピアンやアーティストをゲストに呼ぶためにお金がかかってしまい、第1回目がものすごい赤字だったんです。
ただ、兵頭さんが「そんなの時間をかけて返していけばいい。来年もやるぞ」って言っていたことが印象的でした。選手でもないし、僕たちからしたら全くの他人が、そこまで僕たちのためにイベントをやってくれたことに感銘を受け、「絶対に協力しなければ」と思いました。
第2回目からは実行委員に入って、第3回目では一般社団法人を設立することになりました。法人のトップはパラアスリートの方が良いと言われて、名誉理事になって今に至ります。
スポーツ・オブ・ハートは東京で始まりましたが、兵頭さんが大分出身であることと、私も車いすレースのために大阪から大分に移り住んでいたため、第5回目から東京と大分の2ヶ所で開催しています。今年は中継を繋いで2ヶ所で同日開催という初の試みをしました。
同じことを繰り返すうちに、「前回も来てくれた人の興奮度がどうしても低くなってしまう」とスタッフみんなが感じていて、毎回何か新しいものを取り入れることを意識しています。最初はスポーツのイベントに応援ライブが入るだけでしたが、途中から催し物にファッションショーが追加。さらには、パラアスリートやちびっこランナー、芸能人が一緒にタスキを繋いで走るノーマライズ駅伝というものが加わり、どんどん進化してきました。
「もっとみんなに満足して欲しい」という発起人とスタッフの気持ちが強くて、せっかくだからあれもしよう、これもしようって毎回ド派手なことをしてしまうんです。今回なんて花火を上げますから(笑)。
アクシデントにもチームワークで乗り切る
住谷:今回のスポーツ・オブ・ハートにはお笑い芸人のダイノジさんが来られていて、色んな人に応援されているイベントなんだと感じました。
廣道:東京ではダイノジの2人がMCをやってくれることが多いですね。ダイノジは大分出身なんですけど、大分開催の第1回目から参加して一緒に盛り上げてくれています。大分会場はお笑い芸人「Wエンジン」のえとう窓口君が何度もMCとして来てくれていますが、秋のこの時期はイベントのためにスケジュールを押さえてくれているそうです。高橋尚子さんも第1回目から毎回、応援団長として陸上教室をやってくれています。
他にもライブをしてくださるアーティストがたくさんいて、著名人がまた今年も行こうと思ってくれるのが一番嬉しいですね。
住谷:イベントを開催するにあたってどんな苦労がありますか?
廣道:パラスポーツだけ、健常者のスポーツだけ、と別々でやるとなったら簡単だと思います。でも、コラボして一緒に味わってもらうことが僕のなかでのコンセプトなので、ブッキングには毎回悩まされていますね。
直前になって参加が決定する著名人や、「やっぱり参加できない」など、本番が近くなると色々なごちゃごちゃが起こります。でも窓口君とかダイノジが来てくれると、台本にないことも臨機応変に考えて対応してくれて、チームワークでなんとかなっています。
「もっとパラスポーツを知ってもらいたい」イベントの全国行脚が目標
廣道:「他のイベントではこんなことないよ」ってタレントさんに言われるくらい、色々ハプニングが起こるイベントなんです(笑)。
色んなミスが起こってしまうけど、現場のみんながその場で修正してステージ上ではきちっとできているよう見えます。お客さんにもきちっとできているように伝わっているみたいですね。
住谷:私にもそう伝わりました(笑)。今後イベントでやってみたいことはありますか?
廣道:今は東京と大分の2ヶ所で大規模なイベントを開催していますが、今後は全国各地を回ってみたいと思います。東京、大分と同じ規模でやるのは難しいと思うので縮小した形になるかもしれませんが、この2ヶ所プラス毎年1ヶ所でも開催地を増やしていきたいです。現地に足を運んでもらって少しでも多くの人が関わってくれることで、もっとパラスポーツのことを知ってもらいたいと考えています。
住谷:私もそういう活動が必要だと思い、今回ワクセルとしても協力させてもらいましたが、廣道さんが考える課題は何でしょうか?
廣道:一番の課題はパラスポーツ全体の発信力の弱さです。パラスポーツは、“障がいを持った人の特別なスポーツ”と、位置づけられることが多いです。パラスポーツのことを発信したいと思っていても、どこに発信していいかもわからず、観てほしい人にパラスポーツの情報がたどり着かない。大会でも観客は選手の家族や友人がほとんどというのが現状です。
それでも、観てくれたらファンになってくれると思うので、もっと発信していくことが必要です。今は著名な方々がお客さんを呼んでくれないと成り立たないイベントですが、最終的には障がい者も健常者も分け隔てなく、共生社会に沿ったイベント、当たり前に誰もが楽しめるイベントを増やし、お客さんが集まるようにしたいですね。
「残された今あるものを工夫して楽しむ」パラアスリートの考え
住谷:私も一度観たらファンになると思います。全国各地にスポーツ・オブ・ハートを必要としている人が絶対いるはずです。障がいを持った人たちが輝く場や、取り上げる機会を作っていくことが不可欠ですね。
廣道:障がいを持ったアスリートがステージに上がることによって、障がい者の見方が変わると思います。「可哀そうな人」から「障がい者のスター」に変われば、それを見ていた障がいを持つ子どもたちが「僕もあのステージに上がりたい」って思うはず。障がいを持ってもこんなに輝かしい世界があることを知って、「障がい者になったけどまぁいいか、あそこで頑張ろう」って思ってもらえたら良いですね。
歩けなくなった、片方の手足が使えなくなった、目が見えなくなった、そうなると何もできないと絶望を感じる人が多いです。でもそうじゃない。残されたものがあったらそれを使って工夫して楽しんでいけば良いのです。それがパラアスリートのそもそもの考え方です。足が動かなくても、腕を鍛えたら車いすでフルマラソンを1時間20分くらいで走れますから。
住谷:廣道さんにも落ち込んでしまう時期はありましたか?
廣道:私は怪我を負った直後「死なないで良かった、助かった」ってスタートしたので全く落ち込むことはなかったです。リハビリの先生から「あんたはリハビリの必要はない、スポーツをやりなさい」って言われて、退院して本当にすぐ車いすマラソンを始めました。普通はどうしても落ち込んでしまうものですが、アスリート仲間と話していると私と同じような考えの人も何人かいましたね。
「障がい、国籍、性別関係なくそこに集まったみんなが楽しむ」そんな世の中に
住谷:廣道さんのような人が障がいを持つ人の希望になっていくのだと思います。廣道さんはどうやって自分をモチベートしているんでしょうか?
廣道:子どもの頃からっていうのもありますが、私は事故を起こして「あの時死んでいたんだ」ってずっと思っているんです。「人生終わりだったのに、今生きているこんなラッキーなことはない」「あの時よりひどいことにはなっていない」って思うので落ち込みません。
住谷:先ほど全国でイベントをしたいという話もありましたが、廣道さんの展望やこれから社会がどうなっていけばいいかなど、お聞きしたいです。
廣道:障がい者も健常者も性別も国籍も関係なく、そこに集まったみんなが楽しむというコンセプトでスポーツ・オブ・ハートは成り立っています。ノーマライゼーションがどんどん進化して、”ダイバーシティ”や”インクルージョン”などの言葉が生まれ、本当にさまざまな人がいて当たり前という世の中になっています。オリンピックは観るけれど、パラリンピックは知らないなんて時代遅れなんですよね。
スポーツ・オブ・ハートの展望は、スポーツだけでなく、今コラボしている文化やアート、ファッション、それ以外にも色んな分野とコラボしていきたいです。スポーツはできないけれどファッションなら参加できる、絵を描くことなら参加できるといったイベントにし、そのイベント内容のような世の中になっていったら面白いと思います。
だからみなさん、ぜひ応援をお願いします。
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