ヘルドックス

見どころ

■ 豪華キャストが織りなす、危険とピュアさが絡み合う人間ドラマ
　兼高は、勧善懲悪の正義の味方ではなく、トラウマを抱え闇に堕ちながらも独自のルールで正義を貫くダークヒーローだ。岡田准一は、【兼高昭吾（かねたか・しょうご）】という今まで演じたことのない役に挑んだ。憧れと夢を抱いて警官になった男に何があったのか─。

　想いを寄せていた女性が事件に巻き込まれ、無差別に殺されるのを止められなかった過去のトラウマは、彼を復讐に燃える〈狂犬〉へと変貌させた。警察は、そんな兼高の心の闇と復讐心、圧倒的な強さに目をつけ、潜入捜査という第二の人生を強要する。

　坂口健太郎が演じるのは、兼高と最強かつ最狂バディとなる【室岡秀喜（むろおか・ひでき）】。室岡は、死刑囚の息子という境遇ゆえに心の奥底に深い闇を抱えた男。ヤクザ組織内でも誰も手が付けられない、制御不能の時限爆弾のような危うさがある。

　満腹中枢が壊れているため、常に何かを食べているが、空腹を満たすというよりも満たされない何かを必死で埋めようとする行為のようでもある。坂口自身が、今までのイメージとはガラッと違う役だと言うように、感情を抑えられないサイコパスなキャラクターを圧倒的な存在感を放ち怪演してみせた。

　兼高と室岡を取り巻くのは、一筋縄ではいかない強烈キャラクターたちだ。狂犬コンビのボスの愛人、挑発的で刺激が大好きな女【恵美裏】を演じるのは松岡茉優。世界を股にかける新時代のアンダーグラウンドヤクザ「東鞘会の頂点」【十朱】をMIYAVI、狂犬コンビのボスにして「東鞘会三羽烏」のひとり、任侠100%の人情組長【土岐】を北村一輝、「東鞘会」へ恨みを抱えマッサージ師として組織内部に入り込む、潜入捜査員の連絡係【典子】を大竹しのぶが熱演する。

　ほかにも、金田哲、木竜麻生、中島亜梨沙、杏子、大場泰正、吉原光夫、尾上右近、田中美央、村上淳、酒向芳など、原田組の常連から初参加の俳優まで多彩な顔が揃っている。彼らが演じるキャラクターたちは、ヤクザの世界に生きながらも全員が自分なりのピュアな想いを持ち、それぞれ秘密を背負って生きている。絡み合う人間ドラマも見どころだ。

■ 研ぎ澄まされたアクション、細部のこだわり
　原田監督×岡田准一のタッグには、こだわりのアクションが欠かせない。岡田は、これまでにも複数の作品でファイトコレオグラファーとして格闘デザインを担当してきた。武術に精通し、カリ、ジークンドー、USA修斗のインストラクター認定を受けているのは、すでに知られていることだが、今回もキャラクターごとにそのキャラクターらしい殺陣を考案し、指導している。また、原田作品といえば、微に入り細を穿つ設定も特徴のひとつ。

　キャラクター設定はもちろん、美術や小道具、音楽、あらゆる所に作品を読み解くヒントが散りばめられている。直接語られることはなくとも、映し出される映像のなかにはさまざまな映画のオマージュが込められている。たとえば、映画『地獄の黙示録』『東京暗黒街・竹の家』、米TVドラマシリーズ「タイトロープ」などだ。さらに『ヘルドッグス』は、見方によってはこれまでの原田作品の集大成的作品でもあり、原田ファンにはたまらないオマージュを目にすることができる。

　途切れることなく展開するドラマチックな物語と、ぶっ飛ぶほどのカッコ良さ、そして新しいダークヒーロー像。『ヘルドッグス』は、日本映画の枠を破り、間違いなく日本映画を進化させる、至高のノンストップ・クライム・エンターテイメントだ。